- すべては宇宙の采配/木村 秋則
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木村秋則さんのこの本で、私が忘れられないエピソードがあるのです。
それは、木村さんの義理のお父さんが、木村さんとお酒を飲み交わしていた時に戦時中の事を語ったものでした。
激戦地ラバウルでお父さんのいた連隊は5人しか残っておらず、お父さんは仲間と一緒に敵から逃げ回っていたそうです。
命を脅かされながら、極限の状態で助け合い、一緒に過ごす時間を重ねるという事は、仲間との連帯感や友情も今では考えられないほど強かったのではないかと思います。
お父さんは広島出身の若者と強い友情が芽生えていました。
ところが、その彼がマラリアに感染してしまったのです。
既に彼は自分の目に止まったハエさえも払い除ける事が出来なくなっていました。
病状はどんどん悪化し、ついに彼は動かなくなり、命のともしびは消えてしまったそうです。
でもお父さんは、一番仲の良い戦友を置いてゆく事は出来なかったのです。
何とかしてやりたいと、木で担架を作り彼を乗せて紐でしばり、背負って進んだそうです。
そんな状態でジャングルの中を歩いていた時、敵である戦闘機・グラマンに見つかってしまったのです。
機関銃で撃ってきました。
お父さんは慌てて、彼を乗せた担架を茂みに隠し、自分は大きな木の根元に隠れました。
でも敵からは見えていたらしく機関銃で狙い撃ちしてきました。
帯の様に見えるほど、ものすごい速さで連射してくる弾丸の音がだんだん近づいてきているのをお父さんは感じていました。
そしていよいよ死を覚悟しました。
体が固くなり「ここで俺は……」と思ったその時、何と
戦友の身体が担架ごとゴロンと背中におおいかぶさって来たと言うのです。
機関銃の弾が撃ち込まれて来たのと、それは同時でした。
グラマンが去って行ってから、お父さんは戦友の身体の下から這い出して、戦友を見ました。
機関銃から撃たれた弾は、全て戦友が受け止めていたそうです。
お父さんは信じられない思いで彼をずっと見つめていました。
どんな思いだったでしょう。
戦友は弾に撃たれる前から既に亡くなっていました。
でも、どう考えても起き上がって歩いてきて自分におおいかぶさって来たとしか思えない状態だったそうです。
お父さんを身をていして守ってくれたのですね。
死しても尚、友を守りたいという強い思いは奇跡を生むのですね。
私は、お父さんと彼との強い友情に胸が熱くなりました。