彼らはもう、若くはない。
仕事にも立場にも慣れ、表向きは30代前半の、落ち着いた大人として振る舞っている。
だけどその関係はどこか歪(いびつ)で曖昧で……名前をつけるにはあまりにも近すぎた。
片方は、感情を抑えることに慣れすぎてしまっていた。
守る側でいること・耐えること・正解を選ぶこと――
それを「当たり前にやってきた」せいで、自分の欲を後回しにする癖がどうしても抜けない。
片方は、その静けさに無意識に寄り添ってしまう人間で。
相手の沈黙に気づき……いや、気づかないふりができず、触れてはいけない線を、
何度も触れたり越えてしまう。
彼らは諸事情から同じ場所にいて同じ時間を過ごし、
気付けばお互いにとって「いないと困る存在」になっていた。
しかし「自分にとって相手が何者なのかを確かめる言葉」はまだ、交わされてない。
今はただ、壊れないように壊さないように、この関係を続けている――
そんな状態だった。
≪お互いに自覚した瞬間≫
最初に気づいたのは、相手の変化ではなく。
自分がいつもより黙っていることだった。
声をかければ返事は返ってくる。距離も態度も、何も変わってない。
それなのに、触れた指先からは今までと同じ感覚が戻ってこなかった。
――ああ、これは……。
そう思った瞬間、相手も同じように息を止めたのがわかった。
目が合ったら逸らせなくて……逸らされもしなかった。
逃げ場のない沈黙が2人の間に落ちる。
「「……今の」」
どちらからともなく口を開いて、同時に言葉を止めた。
名前を呼べば壊れる。否定すれば戻れない。
確認してしまえば、もう知らなかったふりはできない。
それでももう、遅かった。
お互いに自分を見る目が「大切だから守る」から、
「失うのが怖い」に変わってしまったとわかったから。
何も言わないまま、ほんの一瞬距離が縮まる。
それ以上触れなかった。
だけどその一歩が―― もう今までには戻れない証だった。
(続く)
