♪♪

 

浅野に背中を叩かれたとき、隣席のてては物凄く怒っていた。

深く静かに。

見ていて、怒鳴りたいのを我慢してるのがわかった。

そして何も知らなかったはずなのに、浅野に

「席替えを仕組んで押しつけたのはお前だろ」と詰問して、見抜いていた。

どうしてわかったの?って聞きたかったけど、そうすると今度は、

そのことをててに言わなかったことを怒られそうだから、言えなかった。

 

でも、てては僕が男だとどうして言わなかったんだろう。言えば一瞬で解決したのに。

これは聞いて然るべきだよね。

そしたら

 

「あれでもし俺がそう言ったら、今度はぐぅが事実を隠してた、騙してたって言われて、

 またぐぅが大変な目にあうだけだと思って。

 それになぜ俺が知ってるのかってことで、それはそれでまた面倒じゃん」

 

って答えたあと、

 

「俺だけが知ってるってのも楽しいからいいんだよ♪」

 

って、けっこうご機嫌だった(笑)

 

てての隣の席になるまでは、実はちょいちょいさりげなく、いろんな嫌がらせはあった。

ただ、それを彼に言わなかっただけだ。まだこんなには仲良くなかったし。

 

そしてLINEも電話番号もメアドも(一応、LINEだけだと万が一のとき困るからね)交換して、

気がつけば相当仲良くなっていた。

でも、教室ではあまりそういう素振りは見せないようにして…。

 

この世で二人だけの、絶対的秘密の共有。

自分だけが知る素顔たち。

1つ増えるごとに、僕の笑顔も増えていく。

 

座席はあの一件で逆に、ててが

「学校のことをちゃんと成瀬に教えて、皆がそういうことをしないように見張りたいから」

と言ったことで、そのまま隣となっている。

浅野の一派は自業自得、自ら首を絞めたわけだ。

 

    ×     ×     ×     ×     ×     ×

 

桜が咲いていた校庭は、夏の強い日差しに光っている。

 

「あっつ~!」

 

昼休み、席で読書しながらうちわで仰いでると、スマホが光った。

見ると、ててからのLINEだ。

 

てて『今日、放課後ちょっと仕事手伝ってほしいんだけど、空いてる?』

 

今日は特に用事はなかったから、空いてる。

それにうちは両親とも会社の社長だから、殆ど遅めの夜にしか帰ってこない。

代々の家臣たちの一部が、今でも運転手やお手伝いさんとしてうちで働いてるけど、

家族という意味では家でも僕は一人で自由だ(笑)

 

僕『いいよ~。目安でいいんだけど、何時ごろまでかかりそう?』

てて『遅くなりそう(笑)』

僕『え~?めんどくさっ!やっぱやめとく(笑)』

てて『夕飯奢ろうかと思ってんだけど』

僕『OK!』

てて『それならいいのかよ!お前、食い気ありすぎだろ(笑)』

僕『自分だってよく食べるくせに。…手伝ってほしいんでしょ?』

てて『…はい』

僕『今日は帰り、何だって?』

てて『帰り、遅くなると思いますが、仕事を手伝ってほしいです。夕飯は奢りますので、どうかお願いします』

 

おぉ~、素直でよろしい!

これが学校で一番の人気者の態度かと思うと、優越感が凄い。

しかも「あの」ドが100個ぐらいつくハンサムだぞ。

も~、ニヤニヤする顔を引き締めるのに苦労する。

他人が見たら、ただのアヤシイ人じゃん、僕(笑)

 

帰りのホームルームが終わると、とっとと3階へ向かった。

 

インターホンを押すと、「開いてるから入ってきて」の声。

もはや勝手知ったる場所となったここに来るのは、もう何回目なんだろう。

後ろ手に鍵を締め、部屋へ行くと…。

 

「……っ!」

 

ちょっと僕は、声をかけずに入ったことを後悔した。