~ ウサギ@年下視点 ~
ソファーで彼のほうじ茶を勝手に飲んでたら、不意に彼が立って廊下へ行った。
トイレかと思ったら、俺たちのぬいぐるみを持ってきて、目の前のテーブルに置いた。
見たら、オオカミがウサギを抱きしめてる。
「……」
俺は手を伸ばすと、お互いに抱きしめさせた。
そしたら隣に座ってる彼も手を伸ばして、オオカミにウサギの頭をいい子いい子ってさせたから、
実際にしてくれるのかと思って待ってみたけど、特に何もなかったからちょっとがっかりする。
オオカミのぬいぐるみに向かって「おまえケチだねぇ」って言ったら、
「ケチの意味(笑)」って笑ってんの。
「だってそうじゃん」
言いながら腕を掴んだら、ぬいぐるみを見ながらだったせいか、
手が服を滑ってちょっと摘まんだ感じになった。
「いてっ」
彼の声に「大げさな」って言ったけど、摘まんだ感触が服じゃないと気づいて見たら……
彼の手の甲の皮膚をつねったらしいとわかった。
「やばっ」
思わず口から出た言葉に、彼が不思議そうな顔をする。
「なにが」
返事をする前に、慌ててそこを優しくさする。
「ごめん。ごめんなさい」
「?」
「つねっちゃってごめんなさい」
「べつにおまえだからいいけど?
それに一瞬だったし、勢いでつねったから痛かっただけだと思うし、
ごめんなさいって言うほどのことじゃないよ」
ほら『おまえだからいいけど』なんだよね。
つまり本当は良くないってことじゃん。
クソジジイのことを話してくれたとき、つねる内容になったら一瞬だけ沈黙があったから、
嫌なんだと気づいたんだよ。
「おまえだからいいけど、じゃなくて、本当は俺でも良くないと思う……」
ちょっと項垂れてしまう。
「俺でもよくないって、どういうこと?」
彼は不思そうな声を出して、顔を覗き込んできた。
「ほんの一瞬」
「ほんの一瞬?」
「本当に僅かな時間だったけど、間があったから」
「いつ」
「クソジジイの話をしてくれたとき」
「……」
「俺が『ぎゅってするのは?』って言ったあと君の腕をつねったとき、
『あんまり痛くしたり強くしないでくれるなら……いいよ』って。
他のことは全て『いいよ』ってすぐ言ってたのに、この一瞬だけ違ったから」
「……」
すると彼は溜息をついた。
「あのクソジジイ、普段でも気に入らないとすぐつねるから、気が抜けなくてね。
思いっきりつねり上げるもんだから、痛いのもあるけど、それより内出血して、かならず痣になるんだ。
攻撃してくるときだって、噛むしつねるし、マジで史上最低最悪な野郎だ」
「……攻撃とはうまい言い方だね。サドとは違うの?」
襲われる・襲ってくる=攻撃ってか。さすがだね。言い方がうまい。
それに彼は『いたぶるってのは考えつかないバカだったから救いだった』って言ってたから、
近いというか、似てる言葉はまぁ、サドかな。
SMプレイだと、首しめたり噛んだり叩いたりつねったり、とかあるからねぇ(笑)
「あのバカは、その時そう思ったから、っていうヤツだからな。カーっとなりゃあ、なんでもしやがるのさ」
「……」
彼は俺の頭を撫でながら、「ありがと」って言ったから、なんだろうと思う。
「なるほど、だからか」
「なにが?」
「こないだ、食べる前に
『大人が大人に、ましてやおまえは俺には、本当にそういうとき以外は謝るな』
って俺が言ったの、覚えてる?」
「食べるっていうか、捕食直前ね(笑)もちろん。忘れるわけがない」
「だよね。いや、だからさ」
「……うん」
躊躇したからそれが嫌なんだとわかったのを、俺が思い出したことに気付いたんだね。
(……)
ってことは、俺からはちょっと何もできないっていうか、しにくくなったってことだから……。
でもそれじゃあ会社や生活で困るし……。
「ねぇ。ひとつ、お願いしてもいい?」
テレビの画面を見ながら言う。
「宿題じゃなくて、お願い?」
彼はマグカップを持ったまま返事してきた。
いつもなら俺を見るのに、珍しい。
おそらくマグカップを見てるんだろう。
「うん、そう」
「おまえさんがお願いって、珍しいじゃん」
「うん。まぁ、そうなんだけど(笑)」
「どんなお願いかにもよるけど、なぁに?」
「う~んっとねぇ……」
果たして彼はうんって言ってくれるだろうか。
やだって言わないかなぁ。……まぁ、言わないだろうとは思うけど。
ちょっと逡巡したけど、言いだした手前、言わないわけにもいかなくて。
うまい言い方や言葉を頭の中で選びながら、俺はソファーに座りなおした。