~ ウサギ@年下視点 ~

 

彼が寝たから俺も布団に入るなり、「おまえ、足っていうか、膝は痛くないの?」って聞かれてびっくりする。

 

「……なんで?」

 

ちょっと警戒しながら聞き返す。

 

「俺と身長5センチしか違わないのに、立ったままなのに俺の胸に耳が来るって、おかしいじゃん。

 もしかして最初から聞く気だったの?」

 

(あ~。俺が足ちょっと庇ってたの、気付いてたのか)

 

でも直接的に言わないで、「心音を聞くため」ってことにしてくれたんだね。

 

それがいかにも彼らしい気遣いの仕方で、嬉しくなる。

 

「……『そういう聞き方』をしてくれるの?」

「うん」

「……そっかぁ」

 

思わず漏らしたら、「ん?なにがそっかぁなの?」だって。

 

ちょっと彼に近づくと、手を伸ばして彼の腕を探り当てて軽く掴む。

 

「そうだよって思ってさ」

 

そうじゃないってお互いにわかってるうえでの、優しい嘘。

 

「そうか」

「うん」

「……やっぱり、俺だけ聞かれてるのずるい」

 

彼の少し不満そうな声に、顔を見る。

 

「……おまえのは聞けないもん」

 

さっきは完全に俺が聞く側だったからね。

子供みたいな言い方に、くすっと笑う。

 

「なにそれ」

「……不公平だ」

 

彼はちょっと拗ねてるらしく、これはかなり珍しい。

貴重な状況だな、うん。

 

(さっき俺はちゃんと言ってあげてたのに、わかんなかったのか)

 

ちょいちょい、と彼のパジャマの袖を引っ張る。

 

「なに?」

「……来る?」

「来る?」

「さっき俺、何て言った?」

「さっき?」

「そうだよ。あとでねって、最初から言ってたはずだけど?

 どうやら社長にとって、秘書殿の心音は『ただの』おこぼれらしいですけどね」

 

ちょっとイヤミも混ぜながら言うと、「いいの!?」って驚いてんの(笑)

次の瞬間、ぱぁぁって超嬉しそうな顔をしたから、思いっきり正面からそれを見ちゃった俺は、

自分でそう言っておきながら恥ずかしくなって、声は出さずに頷くのが精一杯になった。

 

背が高い彼は喜々として下にさがり、体の位置をずらす。

 

「ほんとにいいの?」

 

あ~、俺の胸に頭のせていいのか躊躇してるのか。

 

「いいからそう言ってんだよ」

 

おいで、とは言わないけど、かわりに俺は自分の胸のあたりに彼の頭を引き寄せた。

彼は胸の上で一瞬止まってから、そっと耳を当てる。

 

その光景が目の前にあるわけで、今さっきの嬉しそうな笑顔とあいまって、

明らかに俺の心臓はスピードアップした。

 

とく、とく、とく、とく、とく……。

 

さっきより速いけど、今、初めて聞いてる彼にはそこまでわからない。

そのことに安堵しながら、彼の頭を、抱きしめるみたいに両腕を回した。

 

「音、聞こえる?」

「うん。……ちょっと速い気がする」

「そう?」

 

彼は俺の腰に腕をまわすと、顔と耳を胸にすりすりする。

 

俺とおんなじことしてる(笑)

理由がわかるから、ちょっと微笑ましく思いながら彼の頭に顔を近づける。

 

「これで、俺がさっき言ったこと、わかった?」

 

彼はすぐ頷いた。

 

「うん。おまえのここ、凄く安心する」

「凄く?」

「うん」

「そっか」

 

よかったねぇと言いそうになって、かわりに彼の頭をちょっと撫でる。

彼はちょっと笑うと、ぎゅっとしてきた。

 

「なぁ。なんで速いの?」

「速い?」

「うん」

「なんで速いと思うの」

 

知らないはずなのに。

 

「だって……」

「……?」

「大人の心臓として、明らかに速いもん」

「明らかに(笑)」

 

あ~、言われていればそうだわな。

やれやれ、ほんとこいつに勝つのは大変だな。

 

内心苦笑すると、ついでに小さく良い意味での溜息も心の中でついておく。

 

「それはね……」

「それは?」

「好きだから」

 

今回は、それぐらいは出血大サービスしてやってもいいだろう。

 

「……好きって、何が好きなの?」

「えっ?」

 

(何言ってんの?)

 

思わず声がひっくり返った。

とたんにこいつはニヤニヤしながら俺を見てきやがる。

 

「何が好きだから心臓が速くなってるの?」

「何がって」

 

声が詰まるのがわかった。

 

「…今、すんごく心臓速くなったんだけど」

「……てめぇ、死にたいのか」

「えぇ~?そりゃわかってるけどさ。ちゃんと聞きたいの!」

 

普段静かで落ち着いてる彼の、子供みたいな言い方にビックリする。

 

「わかるけどさ。だから言ったじゃん。好きだからって」

 

なだめるように背中をぽん…ぽん、とあやすと、さらに俺にぎゅっと抱きついてきた。

 

「いや、だから何が好きなの?って」

「お前に決まってるじゃん。他に何があるってんだよ(笑)」

「ふふ。誰じゃなくて、何、かぁ(笑)」

「あのねぇ(呆)」

 

彼と目を合わせながら、抱きしめなおすと咳払いをすると、天井を見ながら言う。

 

「そういうところも含めて、君が好きだよ」

「……」

 

小さくため息をついたのがわかって、彼を見ると。

 

「うん。俺もおまえが好きだよ」

 

俺の胸で目を閉じながらそう言った。

 

 

 

 

 

(続く)