御頭祭(御杖柱)

 

諏訪大社の御頭祭で用いられる御杖柱の添え矢、 そして蛙狩神事で蛙に向けて放たれる矢は、 いずれも 二本 で構成されています。 私は長年、この「二本の矢」という特異な形式に強い疑問を抱いてきました。

 

 

 

二本の矢でなくても一本、三本、四本などでもいいはずです。

どうして二本なのでしょうか。

 

諏訪の文化や習俗には、 古代エジプト・古代インド・古代中国との深い象徴的連続があると考えていますが、 この視点を持つ研究者はほとんどいません。 その中で、私は 二本の矢の起源が古代インドの星宿プナルヴァス(第7宿)にある と捉えています。

 

プナルヴァス

 

プナルヴァスは 「光が戻る」「生命が再び満ちる」 という意味を持ち、 ふたご座のカストルとポルックスに対応する二つの星を 矢筒に収められた二本の矢 として理解する伝統があります。 矢は放たれた後に戻るという象徴を持ち、 「往く矢」と「戻る矢」の二本が生命の循環を表します。

 

この象徴を理解するためには、 古代インドの プラジャーパティと鹿の神話 が不可欠です。

 

プラジャーパティとルドラの矢(神話)

 

世界がまだ若かったころ、創造神プラジャーパティは 星々・人間・動物を生み出した「父なる神」でした。 しかし彼は神々の定めた境界を越える行為をしてしまい、 恥じて鹿の姿となって天へ逃れます。

そのとき、神ルドラ(後のシヴァ)が 秩序を取り戻すために弓を引き、矢を放ちます。 矢は天を貫き、鹿となったプラジャーパティを射抜き、 彼は星座となって夜空に輝くオリオン座へと変わりました。

このときルドラが放った 二本の矢こそがプナルヴァス であり、 一方の矢は境界を越えてオリオンへ届き、 もう一方の矢は現世へ戻り、世界の秩序を保ったと解釈されます。

二本の矢は、 トーラス構造の「入り込むエネルギー」と「解き放たれるエネルギー」 に対応します。

 

 

 

 

  • 入る矢=トーラスの中心冥界、黄泉の再生復活の場所に向かうエネルギー
  • 出る矢=境界を越えて現世に広がる再生復活のエネルギー

この二重の流れは、 諏訪の御杖柱に添えられる二本の矢、 蛙狩神事で蛙に向けて放たれる二本の矢と 深く共鳴します。

 

以上の象徴構造を踏まえると、 御杖柱の二本矢と蛙狩神事の二本矢は、 古代インドのプナルヴァスの象徴が 諏訪へ伝わり、独自の祭祀として継承されたもの と考えられます。

 

諏訪は古代から

  • 境界
  • 再生
  • 生命

の循環 を強く祈る文化を持ち、 二本の矢はその象徴として現在まで残ったのだと思われます。