古代の橋には、直線的な橋とアーチ状の橋という二つの基本的な形態があると考えられます。 古代エジプトには橋そのものは存在していましたが、橋を表す固有の名称は発達しなかったとされています。 私は、この「名称の不在」は、古代エジプトの人々が橋を単なる構造物としてではなく、 象徴的・宇宙的な概念として捉えていた可能性を示していると考えています。

 

 

 

古代エジプトのお墓には、天空の女神ヌトがしばしば描かれます。 ヌンは両手と両足を大地につけ、身体を大きく反らせてアーチ状の姿勢をとります。 その身体の内側には、「大」「☆」「〇」などの記号が描かれることがあります。 私は、このヌンのアーチ形態が、天の川、虹、月虹などのアーチ状の光の現象を象徴していると考えています。

 

天の川

 

月虹

 

天の川は季節によってアーチ状に見えることがあり、 古代の人々は夜空に現れる光の形に非常に敏感であったと考えられます。 彼らは、光の弧を「境界と境界をつなぐ道」、すなわち橋としてのイメージで捉えていた可能性が高いと感じています。

 

お墓に描かれた「ヌト」

 

古代エジプトでは、人が死亡したあと、魂が肉体から離れ、一定期間さまようと考えられていました。 この存在が「カー」です。 私は、古代エジプトや日本の絵画・像に表現される「玉」、 そして「大」「☆」などの記号が、魂・霊魂・神霊の象徴として理解されていたと考えています。 特に暗闇や夜は、魂や霊魂がさまよう領域として認識されていたと考えられます。

 

アテン神

 

ファラオが持っている玉

 

 

ヌトのアーチ、天の川の弧、虹の弧、月虹の弧、 そしてアテン神の放射状の直線光。 これらの光の形は、古代の人々にとって「境界を越えるための道=橋」として強く感じられたはずです。 橋は境界と境界をつなぎ、再生・復活・変容を可能にする象徴です。 古代人は光の形に深い感受性を持ち、その形をさまざまな神話・儀礼・図像に投影したと考えられます。