釣手土器には多様な造形がありますが、基本的には浅鉢形土器の上にアーチ状の釣手が付属する構造をとります。かつては香炉として用いられたと考えられていましたが、現在では灯火具としての機能が重視されています。

 

 

 

 

しかし私は、この土器が夜間の出産儀礼において重要な役割を果たしたと捉えています。縄文人は土器を単なる煮炊きの道具としてではなく、自らの願いや観念を造形に託したと考えられます。浅鉢の開口部は「穴」として生命の誕生、あるいは霊魂・神霊の出入りする部位として理解されていた可能性があります。その上にアーチ状の釣手が置かれる構造は、単なる持ち手以上の象徴性を帯びていたはずです。

 

 

 

 

 

私は古代エジプトと古代日本の深層文化には共通する象徴構造があると考えています。釣手のアーチ形は、天空の女神ヌトの姿と共鳴します。ヌトは墓室壁画などで両手両足を大きく広げ、天を覆うアーチとして描かれます。その身体内部には「大」「☆」「〇」などの記号が循環し、太陽の船がその体内を航行する図像も見られます。一般には太陽・月・星の運行を示すとされますが、私はそこに死者の霊魂、生物の魂、神霊の循環を読み取っています。

 

縄文晩期の人々もまた、霊魂の再生と循環を強く意識していたと考えられます。釣手土器のアーチは、ヌトの身体を象徴する「通過の門」であり、霊魂が再び生まれ変わるための象徴的な通路として理解されていた可能性があります。したがって釣手土器は灯火具としての機能だけでなく、再生・復活を司る重要な象徴(ヌト)を造形化した土器であったと捉えられます。