熊本県山鹿市のチブサン古墳に描かれた壁画は、乳房を表しているとされる意匠からこの名で呼ばれ、広く知られています。
この壁画が何を意味しているのかについてはさまざまな説がありますが、私はこの図像が夜空のオリオン座をはじめ、古代エジプト・古代中国・朝鮮の象徴体系の影響を受けて描かれた可能性があると考えています。
古墳時代には同心円文様が多く描かれていますが、その意味は地域や時代によって異なり、確定した解釈はありません。一般的には同心円はトーラス構造を象徴し、再生・復活・変容を表すとされていますが、私はこれを「卵」や「さなぎ」として捉えています。
鳥や蛙の卵、人間の卵子も中心に核(黄身)があり、その周囲を白身が取り囲む構造を持っています。この形は生命誕生のエネルギーを象徴する重要なものだと考えられます。
また、古代の鏡(銅鏡)にも同心円構造が見られ、強い魔除けの意味を持っていました。チブサン古墳の壁画では、向かって左側の同心円が崩れて方形になっていますが、これは卵から生命が生まれ出る瞬間を表しているように思われます。赤い三角形は母胎を示し、同心円は卵子や生命の卵を象徴しているのでしょう。右側の同心円は、生まれた胎児が成長し、やがて母となり、その胎内に新たな生命が宿るという循環を表現しているように見えます。
鳥取県の梶山古墳の玄室壁画(上の絵)にも二つの同心円が描かれており、左に母胎を示す三角形、崩れた同心円、右に完全な同心円という構図が見られます。これはチブサン古墳と共鳴する図像だと考えられます。
その右隣に描かれた赤・白・黒の六角形は、オリオン座の六角形を表している可能性があります。オリオン座の✖字形は死からの再生や男性性と女性性の融合を象徴し、六角形は「さなぎ」や古代エジプトで重要視された「太陽の船」を思わせます。太陽の船は冥界・天空・現世を行き来する再生の象徴であり、古代において船は非常に重要な意味を持っていました。
墓である玄室にオリオンの六角形が描かれていることは、死者の再生や復活を願う意図があったと考えられます。
六角形の右側に描かれた人物(右中央の写真)は、両足を広げ、両腕を上げ、頭に三本の冠のようなものをつけています(冠の三本、両手、両足で突起が七つあります)。
この人物は「七星神」を表している可能性があります。古代中国では新石器時代から北斗七星が崇拝され、道教では七星神として神格化されました。朝鮮でも北斗信仰は強く、北極星は帝王や絶対神として崇拝されました。現在の韓国でも七星神信仰は根強く残っています。
チブサン古墳の壁画も、こうした北斗信仰の影響を受けていると考えられます。
人物の右に描かれた正方形に対角線を引いた形は、ピラミッドやベンベン石を真上から見た図に似ています。これは八咫鏡の中心図像(下の図)とも重なり、再生や復活の中心を象徴する形です。古代エジプトでは、混沌の水の上に現れる原初の丘を表す図形でもあります。また、空中に描かれた七つの白い円は七星神の神霊を示し、その力が現世に降り注ぐことを表現していると考えられます。
以上のことから、チブサン古墳の玄室は墓であるため、ここに葬られた人物が再生・復活・変容を遂げられるよう、強い再生の力を呼び込む目的でこれらの文様や絵画が描かれたのだと考えられます。




