ツタンカーメンの頭部に見られる冠(上の写真)は「青い冠(blue crown)」と呼ばれ、古代エジプト語では khepresh(ケペルシュ) と称されます。この冠は革製のヘルメットに金属製の円盤を縫い付けた構造をもち、王の即位儀礼において重要な役割を果たしたと考えられています。

 

ケペルシュは新王国時代を象徴する王冠であり、

• 深みのある青色

• 表面に散りばめられた金の円盤

• 軍事的・儀礼的場面での着用

• 「戦う王」「若い王」を象徴する性格

といった特徴を備えています。

 

ツタンカーメンの玉座の場面では、王妃アンケセナーメンが王を優しく祝福する姿が描かれていますが、その中でケペルシュは 王権の正統性と若さ を象徴する重要な要素として表現されています。また、この冠の形態は多くの壁画にも繰り返し描かれており、古代エジプト人にとって特別な意味をもつ形であったことがうかがえます。

 

またこの形は単独で壁画(下の写真)などにも多く描かれています。

 

 

では、この独特の形は何を意味しているのでしょうか。

ケペルシュの上部には円形の記号が描かれることがあり、これは魂・霊魂・神霊といった「玉」が生まれ出ることを象徴していると解釈することができます。この形態がどこから着想されたのかを考えると、私は 八咫鏡の構造 に通じるものがあると考えております。

 

 

八咫鏡の構造の中心に置かれた黒い円は、トーラス構造の中心を示し、再生や復活の場を象徴します。この黒い円は子宮にも喩えることができ、胎児が二枚の羽のような形から生まれ出るという構造を示しています。ケペルシュの上部に描かれる円も、八咫鏡における「生まれ出た玉」と対応しているように見えます。

 

 

さらに、この羽のような形は 女性の外性器である大陰唇 を象徴していると考えることも可能です。人間の生命がそこから誕生するように、古代人は「生命の誕生」や「再生」を形によって表現したのではないでしょうか。

 

八咫鏡の図象、ケペルシュの形態、そして女性器の象徴がいずれも 再生・復活 を示すという一致は非常に興味深いものです。古代の人々は形のもつ意味を深く理解し、その象徴性を通して世界観や信仰を表現していたと考えられます。

 

※ 写真はegyptologyさんの投稿より、八咫鏡の構造は吉野信子氏の著書より