地球と火星はそれぞれ別々のスピードで同じ向きに太陽の周りを回っており(公転)、2年2か月に1回の頻度で地球と火星がすれ違います。この時、距離が一番近くなりますが、お互いの公転軌道が少しずれているため、その距離は毎回同じではありません。今年はかなり距離が近く、2018年の最接近には少し及ばないものの過去10年で2番目に接近します。今年を逃すと、次に同じぐらい接近するのは2033年です。また、接近距離は2番目ですが、今年は火星の高度が高いのでシーイングの面では2018年より有利です(南中高度が2018年は約25度、今年は約60度)。 

今年の最接近のタイミングは10月6日。この日に観測するのがベストですが、公転による2年2か月周期の動きですので、急激に近づいたり遠ざかったりするわけではなく、観測のタイミングが10日ぐらいずれても大きな影響はありません。細かい日付にこだわらず、シーイングの良い晴れた日に観望するのが良いでしょう。 

先日、木星と土星を電視観望しましたが、豆粒のような大きさでした。火星はさらに小さいので倍率を上げないと細部の観察は難しそうです。電視観望では、倍率を上げるのにバローレンズを使います。今回は3種類のバローレンズを使って、性能を比べてみたいと思います。バローレンズの性能を比較するのが目的ですので、火星ではなく、環があって性能の差が分かりやすい土星で実験します。ベストなバローレンズを選んで、後日、火星観望に挑むことにします。  

使ったバローレンズは①②③の3点です。  

(左が①、右が②です。③は鏡筒に接続しているので写真を撮れていません。)

Amazonで2,000円ぐらいで買った5倍のバローレンズ
買ったのが3年前なのでSVBONYの前身VITEブランドのもので、今はSVBONYブランドで売られています。SVBONY社は、いろいろな光学機器を製造している中国のメーカーで、このレンズもしっかりした作りです。レンズコーティングされているのは対物レンズに一番近い側の面だけのようです。  

Tele Vue (テレビュー) 5× Powermate(パワーメイト) 
この業界のスタンダードとなっており、30,000円ぐらいです。今回の火星接近に合わせて買いました。   

Vixen(ビクセン)天体望遠鏡 2倍バローレンズ31.7T 
こちらも3年ほど前に買いました。3,000円ぐらいです。  

土星の見え方は写真の通りです。毎度のことながら、スタック処理などは一切無しの、動画のスクリーンショットです。 (使用機材はこちら

①と②は同じ5倍レンズですが、①は拡大率が低いです。②は高価なだけあって、もう少しでカッシーニの間隙や環に写る本体の影も判別できそうです。③はスペック通りしっかり2倍に拡大されています。  

電視観望では、見かけの大きさについては画面上で拡大して表示することができるので、あまり問題ではありません。情報量が増えているかどうかがカギになります。そこで、同じ大きさに拡大して比較してみます。 

①はバローレンズなしよりも不鮮明な像となっていて、拡大はできていても情報量が減っていたということが分かります。一方で、③がかなり健闘しています。バローレンズなしと比較して明らかに情報量が増えています。価格面も考慮すると、③がオススメのバローレンズと言えるのではないでしょうか。  

最後に1点、書いておきたいことがあります。5倍バローレンズは、天体の導入が大変だという点です。5倍に拡大するということは視野角が5分の1になることを意味します(縦・横それぞれ5分の1になるので、面積は25分の1です)。狭い視野では、なかなか自動導入が成功しません。なんとか導入できても、ピント合わせのために鏡筒に触れると、少しの揺れで視野から外れてしまいます。これは、軽量な機材を使う電視観望では致し方ない部分があると思います。架台と鏡筒で数十キロあるような重厚なシステムならピント合わせで揺れが生じることはありません(天体望遠鏡の世界では重さも性能のうちとよく言われますし・・・)。Powermateは性能は優秀なのですが、電視観望では、ここぞというとき以外は使う気がしないというのが本音です。 この点も考慮すると、やはり倍率が2倍の③がオススメかなと思います。