「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」

のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう

 

 

本日は9月5日

理念と経営2026年9月号より
「巻頭対談」より

 

 TODAY'S
 
大事なことは100万回でも伝え続けよ

社長就任から一〇年――。「セブン・イレブン」「ファミリーマート」との三つどもえの競争が続くコンビニ業界で、竹増社長が貫いてきたのは「徹底した現場主義」だ。年間五〇〇店を訪ねては、顧客と加盟店の声を改革の推進力に変えてきた。同社を定点観測してきた楠木氏との対話が、その競争優位の源泉を照らし出す。

P08抜粋

 

巻頭対談「指導者の一念」

株式会社ローソン 代表取締役社長 竹増貞信氏 × 楠木建氏

大事なことは100万回でも伝え続けよ

今回の記事には、これまで取り上げてきたテーマがいくつもつながっています。

現場主義、理念浸透、危機対応、権限移譲、AI、地域社会、そして人を守る経営。

その中心にあるのが竹増社長の、

「すべてはお客様のためにある」

そして、

「加盟店さんは絶対に守る」

という二つの言葉です。

特別に難しい経営理論ではありません。

むしろ、当たり前です。

しかし、その当たり前を100万回でも言い続け、行動でも証明する。

今回の記事から感じるのは、

理念の強さは、言葉の新しさではなく、経営者がどこまで繰り返し実行できるかで決まる

ということです。


ポイント① 危機の時に「理念」が本物か試される

ローソンにとってコロナ禍は大きな危機でした。

本部利益は大幅に落ち込みました。

そこで竹増社長が最初に考えたのは、

「本部の利益をどう守るか」

ではありませんでした。

「加盟店を守る」

でした。

毎週、全店にビデオメッセージを送り、

「皆さんのことは、必ず本部が支えます」

と伝えた。

マスクや消毒液も送った。

そして実際に加盟店の利益を守るために本部が動いた。

最初は、

「守るって、どう守るんだ?」

と疑われた。

しかし一年後には、

「守ってくれてありがとう」

へ変わった。

ここが重要です。

理念は、平時には誰でも言える。

本当に問われるのは、会社が損をする局面でも守れるかどうかです。


ポイント② 危機は「前から分かっていた問題」を解決する機会になる

ローソンの問題は、コロナによって突然生まれたわけではありません。

店舗飽和。

人手不足。

本部と加盟店との関係。

すでに問題は見えていた。

しかし、日々の仕事が回っていると抜本改革には踏み切れない。

そこへコロナが来た。

だから、

「御破算で願いましては」

となり、ビジネスそのものを一から見直すことができた。

これは企業経営では非常によくある話だと思います。

問題が見えている。

でも、まだ困っていない。

だから変えない。

そして本当に困ってから変える。

危機とは、

問題を発生させるものというより、以前からあった問題を表面化させるもの

なのかもしれません。


水平思考――危機の時ほど「何を守るか」を先に決める

危機が起きると普通は、

何を削るか。

何をやめるか。

どこを縮小するか。

を考えます。

しかしローソンは逆でした。

最初に、

「加盟店を守る」

と決めた。

その上で、

「では本部は何をすればいいか」

を考えた。

これは経営に応用できます。

危機の時に最初に考えるべきなのは、

「何を捨てるか」ではなく「何だけは絶対に守るか」

なのかもしれません。

社員。

顧客。

信用。

技術。

取引先。

ブランド。

会社によって答えは違います。

しかし守るものが決まれば、逆に捨てられるものも明確になります。


ポイント③ 現場主義とは「現場に行くこと」だけではない

竹増社長は年間500店舗を訪問しているといいます。

コロナ禍でも、自転車で店舗を回りました。

そこで、

生鮮野菜を置いてほしい。

冷凍食品を増やしてほしい。

無印良品の商品がほしい。

という顧客や加盟店の声を拾った。

そして重要なのは、

聞いただけで終わらなかったこと。

声を整理し、

12の改革プロジェクトに落とし込み、

実験店で検証し、

全店へ展開した。

つまり現場主義とは、

現場へ行く

話を聞く

仮説をつくる

小さく試す

検証する

全体へ広げる

という循環です。

現場訪問そのものには意味がありません。

現場の情報を意思決定につなげて初めて、現場主義になります。


ポイント④ 「100万回言う」の本当の意味

竹増社長は、

「大事なことは100万回言え」

と教わり、それを実践してきたといいます。

「すべてはお客様のためにある」

という言葉も繰り返してきました。

なぜ同じことを何度も言わなければならないのでしょう。

社員は一度聞けば意味は理解できます。

しかし、

理解することと、判断基準になることは違います。

何度も聞く。

会議でも聞く。

現場でも聞く。

社長自身が実行しているのを見る。

すると少しずつ、

「この場合、お客様のためにはどうするべきか」

と社員自身が考え始める。

そこで初めて理念が、

社長の言葉から、組織の判断基準へ変わる。

100万回とは回数ではなく、そこまで徹底する覚悟なのだと思います。


量子的に考える――全国一律と地域最適を同時に成立させる

ローソンの「エリアカンパニー制」は興味深い取り組みです。

全国チェーンには、

同じ商品。

同じ品質。

同じサービス。

という強みがあります。

しかし地域によって、

人口。

年齢。

食文化。

交通事情。

買い物環境。

必要な商品。

は違います。

つまり、

全国一律でなければブランドにならない。
全国一律では地域に合わない。

二つの矛盾があります。

そこで、

理念やブランドは共通にする。

しかし現場判断は地域へ渡す。

という仕組みにする。

これは会社経営にも応用できます。

「何を統一し、何を自由にするか」を分ける。

理念は統一する。

目的も統一する。

しかし方法まで統一しない。

これが権限移譲の本質なのだと思います。


ポイント⑤ AIは「人をなくすため」に使わない

ローソンではAI発注システムを導入しています。

発注数や値引きのタイミングをAIが提案する。

売上も改善する。

しかし竹増社長は、

完全無人店舗にはしない

と言います。

理由は、

人間が店に求めるものの究極には「人のぬくもり」がある

と考えているからです。

これは前回のトリドールの記事と完全につながります。

AIにできる仕事はAIへ。

人は、人にしかできない仕事へ。

つまり、

AIによって人を減らすのではなく、人間らしい仕事を増やす。

これからのAI活用では非常に重要な視点だと思います。


ポイント⑥ 「情報の非対称性」を利用するか、なくすか

今回、個人的に非常に興味深いのが加盟店との関係です。

一般的なフランチャイズでは、本部が情報と権限を持つ方が管理しやすい。

加盟店同士の横のつながりも弱い方が、本部はコントロールしやすい。

しかしローソンは逆方向へ進みます。

複数店舗を経営するMOを地域リーダーとして育てる。

オーナー同士をつなぐ。

本部の権限を地域へ渡す。

つまり、

支配することで組織を強くするのではなく、力を分けることで組織を強くしようとしている。

短期的には管理しにくくなるでしょう。

しかし長期では、地域ごとに経営者が育ちます。

これは非常に重要です。

強いトップがいる会社より、判断できる人が何人もいる会社の方が強い。


結論――商売に奇策なし

今回の記事の最後に楠木氏が語った、

「商売に奇策なし」

という言葉が、全体をよく表しています。

現場へ行く。

顧客の声を聞く。

仲間を守る。

小さく試す。

改善する。

人を育てる。

理念を繰り返す。

AIを使う。

地域に権限を渡す。

一つ一つを見ると、驚くようなものではありません。

しかし、それを10年続ける。

すると、

他社が簡単には真似できない差になる。

ブランドも同じです。

広告で突然ブランドになるのではない。

日々の商売を積み重ねた結果、

気がつけば、

「ブランデッド」になっている。

だから、

すぐに成果が出るものは、すぐに成果が出なくなる。
時間をかけて築いたものほど、簡単には失われない。

ここが今回の記事の核心だと思います。


自社への活用方法

今回の記事は、自社にかなり参考になります。

まず、

「100万回言う言葉」を決めること。

自社には、

イノベーション。

当事者意識。

正しい評価。

多様性。

シンプル。

という哲学があります。

しかし五つを並べるだけでは、日々の判断には使いにくい。

例えば、それらを一つの問いに集約する。

「それは本当に相手のためになっているか?」

あるいは、

「自分が当事者なら、どうするか?」

こうした短い言葉を繰り返す。

哲学を覚えてもらうのではなく、判断するときに自然に出てくる状態まで浸透させることが重要です。

もう一つは現場です。

賃貸管理でも、

入居者。

テナント。

仲介会社。

修繕業者。

現場スタッフ。

それぞれが持っている情報は違います。

AIでデータを分析することはできます。

しかし、

「最近こういう問い合わせが増えた」

「この設備への不満が多い」

「この対応は入居者に喜ばれた」

という小さな変化は、現場にあります。

AIで遠くを見る能力を高めながら、人間は足元を見る。

この組み合わせが自社には合うと思います。


自社の哲学と照らし合わせる

今回の記事は五つの哲学すべてとかなり重なります。

イノベーション
AI、エリアカンパニー、商品改革など、新しい方法を試す。

当事者意識
本部任せにせず、地域や加盟店自身が判断する。

正しい評価
加盟店を単なる販売網ではなく、対等な経営パートナーとして見る。

多様性
全国一律ではなく、地域ごとの違いを認める。

シンプル
最後は「すべてはお客様のためにある」という一つの原則へ戻る。

特に今回、自社として考えたいのはシンプルです。

経営には数字も制度もAIも戦略も必要です。

しかし迷った時に戻る場所は、一つでいい。

ローソンなら、

「すべてはお客様のためにある」

です。

では、

自社が100万回言い続ける、一つの言葉は何か。

これは改めて考えてみる価値があると思います。


今回の一言

一念通天(いちねんつうてん)

強い決意を持って一つのことを続ければ、その思いはやがて天にも通じ、道が開けるという意味。

今回の「指導者の一念」によく合います。

一度言って伝わらなければ、もう一度言う。

十回で駄目なら百回。

百回で駄目なら千回。

そして言葉だけではなく、自分の行動でも示し続ける。

「加盟店を守る」

「すべてはお客様のためにある」

これを危機の時にも曲げなかったから、言葉が信用へ変わったのでしょう。

理念は、掲げた瞬間にはまだ理念ではない。
何度も語り、何度も行動し、積み重ねた先で初めて文化になる。

経営者に必要なのは、次々と新しい言葉を生み出すことではなく、

本当に大切な一つを、100万回でも言い続ける覚悟なのかもしれません。