「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」
のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう
本日は9月4日
理念と経営2026年9月号より
代表取締役社長兼CEO
粟田貴也(あわたたかや)

従業員のハピネスがお客様の感動を生む
株式会社トリドールホールディングス
代表取締役社長兼CEO 粟田貴也氏
「従業員のハピネスがお客様の感動を生む」
今回の記事で興味深いのは、トリドールが「人的資本経営」のさらに先として、**「心的資本経営」**を掲げていることです。
知識や技術を持った従業員を揃えるだけでは、お客様を感動させることはできない。
働く人自身の心が動いていることが必要だ。
従業員のハピネスが顧客の感動を生み、その感動が再来店を生み、繁盛店となり、その繁盛が再び従業員の自信につながる。
今回の記事は、単なる「従業員満足」の話ではなく、人の感情を起点にした経営の循環として読むと面白いと思います。
ポイント① 商品ではなく「感動体験」を売る
粟田氏の原点は、香川の製麺所でした。
目の前で麺をつくり、出来たてのうどんを食べる。
そこで気づいたのが、
「こういう体験価値が大切なんや」
ということです。
だから丸亀製麺では、効率だけを考えれば中央工場で製麺した方が簡単でも、店舗で麺をつくる。
つまり競争力を、
「うどんそのもの」
だけではなく、
「出来たてを目の前で食べる体験」
まで広げたわけです。
これは非常に重要です。
商品は真似できます。
価格も真似できます。
設備も導入できます。
しかし、
その場所で感じた体験は、簡単にはコピーできません。
ポイント② 感動をつくっているのは「仕組み」ではなく「人」
さらに粟田氏は一段深く考えます。
感動体験を実際につくっているのは誰なのか。
それは、
店舗で働く従業員です。
子どもがうどんをこぼしたら、新しいものを持ってくる。
財布を取りに車へ戻ったお客様には、温かいうどんを作り直す。
マニュアルだけでは、こうした行動は生まれにくい。
「このお客様に何をしてあげれば喜ぶだろう」
と、その場で考えるから生まれます。
つまり、
顧客感動の最後の一歩は、現場の裁量と人間性に委ねられている。
前の記事で考えた「自由裁量度」ともつながります。
水平思考――顧客満足の前に「従業員満足」がある
一般的には、
商品を良くする
↓
顧客満足度が上がる
↓
売上が増える
と考えます。
しかしトリドールは、そのさらに上流を見ています。
従業員のハピネス
↓
従業員の自発的な行動
↓
顧客の感動
↓
ファン化
↓
繁盛店
↓
従業員の自信
↓
さらにハピネスが高まる
という循環です。
つまり、
従業員満足は福利厚生ではなく、顧客体験をつくるための経営資源
と考えているわけです。
ここが「心的資本経営」の本質なのだと思います。
ポイント③ 「ありがとう」が会社の資本になる
粟田氏が理想とする職場として挙げるのが、
自分を認めてくれる仲間がいる。
互いに支え合う。
「今日は助かった。ありがとう」
という言葉が自然に行き交う。
そんな職場です。
数字には表れません。
貸借対照表にも載りません。
しかし、こうした関係が蓄積すると、
会社の見えない資本
になります。
逆も同じです。
不信。
無関心。
陰口。
責任転嫁。
これらも数字には出ません。
しかし蓄積すれば、確実に会社の力を削ります。
つまり企業には、
財務資本だけでなく「感情の貸借対照表」が存在する
と考えることもできます。
これは「心的資本」を考えるうえで面白い視点です。
量子的に考える――効率化するほど「非効率」が価値になる
今回、最も考えさせられるのはここです。
飲食業界では、
タッチパネル。
セルフレジ。
配膳ロボット。
モバイルオーダー。
AI。
と、人を介さない方向へ進んでいます。
人手不足を考えれば合理的です。
しかし、すべての会社が効率化すればどうなるでしょう。
人と人との接点そのものが希少になります。
すると逆説的に、
笑顔。
気遣い。
会話。
ちょっとした融通。
「ありがとう」。
こうした一見非効率なものの価値が上がっていく可能性があります。
だから重要なのは、
「人を減らすためにDXする」のではなく、「人にしかできない仕事へ集中させるためにDXする」
という考え方でしょう。
機械ができることは機械に任せる。
その代わり、人は人の心を動かす。
これならDXと心的資本経営は矛盾しません。
ポイント④ 繁盛店が人を育てる
粟田氏の、
「繁盛店は、そこで働く人にも自信や輝きを与えてくれる」
という言葉も重要です。
普通は、
優秀な社員
→ 良い店
→ 繁盛店
と考えます。
しかし逆方向もあります。
繁盛店
→ お客様から感謝される
→ 自分の仕事の意味を感じる
→ 自信がつく
→ もっと良い接客をする
→ さらに繁盛する
つまり、
人が店を育て、店も人を育てる。
ここに好循環があります。
だから経営者の仕事は「優秀な人を探すこと」だけではありません。
普通の人が、自信を持って働ける環境をつくること。
これも人材育成です。
結論――人手不足時代ほど「人」が差別化になる
今回の記事を表面的に読むと、
「従業員を大切にしましょう」
という話に見えます。
しかし私はもう少し戦略的な話だと思います。
これから多くの企業が、
省人化。
自動化。
AI化。
セルフサービス化。
へ進みます。
それ自体は必要です。
しかし全員が同じ方向へ進めば、
最後に差別化になるのは、人間にしかできない部分
になります。
商品+人。
店舗+人。
AI+人。
設備+人。
そこで生まれる感情まで含めて商品にする。
トリドールの「心的資本経営」は、従業員満足の話であると同時に、AI・省人化時代の差別化戦略とも考えられます。
自社への活用方法
これは自社にもかなり応用できると思います。
賃貸管理でも、
AIで文章をつくる。
問い合わせを自動化する。
契約をオンライン化する。
修繕管理をシステム化する。
こうした効率化は進めるべきです。
しかし、最後に入居者の記憶に残るのは、
「困った時に、あの人が動いてくれた」
という体験かもしれません。
だから、
効率化する仕事と、人を残す仕事を分ける。
定型業務はAI・システムへ。
判断、気遣い、交渉、トラブル対応は人へ。
そして従業員には、ある程度の裁量を与える。
「この程度なら、お客様のために自分で判断していい」
という範囲を決めておけば、現場から小さな感動が生まれる可能性があります。
自社の哲学と照らし合わせる
今回の記事は、自社の哲学である、
イノベーション・当事者意識・正しい評価・多様性・シンプル
の中では、特に**「当事者意識」と「正しい評価」**につながります。
お客様が困っている。
マニュアルには書いていない。
それでも、
「自分なら何ができるか」
と考えて行動する。
これが当事者意識です。
そして、その行動を経営者が見つけ、
「ありがとう」
「良い判断だった」
と伝える。
これが正しい評価です。
ここで前回の「克己復礼」ともつながります。
経営者が社員に、
「もっとお客様を大切にしろ」
と言うだけでは文化になりません。
まず経営者自身が社員を大切にする。
社員が会社から受け取ったものが、お客様への行動として現れる。
そう考えると、
顧客満足と従業員満足は別々のものではありません。
今回の一言
和顔愛語(わがんあいご)
穏やかな表情と、思いやりのある言葉で人に接すること。
今回の記事には、この言葉がよく合うと思います。
笑顔。
「ありがとう」。
ちょっとした気遣い。
相手のための一手間。
どれも大きな設備投資は必要ありません。
しかし、それを自然にできる人を育てるには、
その人自身が大切にされている必要がある。
従業員を笑顔にする。
その笑顔がお客様を笑顔にする。
お客様が集まり、繁盛する。
繁盛することで従業員に自信が生まれる。
そして、また笑顔が増える。
ハピネス → 感動 → 繁盛 → 自信 → ハピネス。
この循環こそ、トリドールの「心的資本経営」の強さなのだと思います。