「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」
のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう
本日は8月27日
理念と経営2026年8月号より
サントリー株式会社
チーフブレンダー
福與伸二(ふくよしんじ)

味を極めていけば自然と個性がでてくる
サントリー創業者の鳥井信治郎氏が日本初のモルトウイスキー蒸溜所の建設に着手したのは一九二三(大正12)年のこと。いまや、ジャパニーズウイスキーは世界五大ウイスキーの一つに数えられる。創業者の思いを受け継ぎ、品質を守りながら挑戦を続ける五代目チーフプレンダーの哲学とは。
P64抜粋
サントリー株式会社
五代目チーフブレンダー 福與伸二氏
今回の記事を経営という視点で読むと、ウイスキーづくり以上に興味深いテーマが見えてきます。
それは、
「今日の成果が出る仕事」と「何十年後に成果が出る仕事」を、どう同時に経営するか。
という問題です。
ウイスキーは、今日仕込んだから明日売れる商品ではありません。
いま仕込んでいる原酒を使うのは、10年後、20年後、場合によってはさらに先。
その未来にどんな商品が求められるのかは誰にも分かりません。
それでも誰かが未来を想像し、今日仕込まなければ、その未来の商品は存在しない。
福與氏の、
「10年後はわからない。しかし、誰かが絵を描いて、それに向けて仕事しないといけない」
という言葉に、今回の記事の経営上の本質が凝縮されていると思います。
ポイント① 品質とは「変えないこと」ではない
ブレンダーの重要な仕事は、樽ごとに異なる原酒を見極め、ブレンドし、商品の品質を維持することです。
そのため福與氏は毎日100、200もの原酒をテイスティングします。
食生活まで管理し、朝食では魚を避け、ニンニクなど香りの強いものも口にしない。
自分自身の五感を、仕事の道具として管理しています。
ここまで見ると、品質とは、
「同じものをつくり続けること」
のように思えます。
しかしサントリーは、それだけではありませんでした。
直火蒸溜を導入する。
木桶を使う。
ミズナラなど日本独自の樽を研究する。
より特徴のある原酒をつくる。
つまり、
完成品の品質は守りながら、品質をつくる方法は変え続けている。
ここが重要です。
ポイント② 売れない25年間にも研究をやめなかった
福與氏が入社した1984年は、日本のウイスキー消費が減少へ向かい始めた時期でした。
その後、約四半世紀にわたって市場は縮小。
製造量も減り、機械のメンテナンスや掃除、草むしりをする日々まであったといいます。
普通なら、
「衰退市場だから投資を減らそう」
「これ以上研究しても仕方がない」
となっても不思議ではありません。
しかしサントリーは研究を続けました。
売れない時代に、品質を上げ続けた。
そして後にジャパニーズウイスキーが世界から評価される時代が訪れます。
これは非常に大きな経営のヒントです。
市場が戻ってきてから品質を高めようとしても遅い。
需要がない時に何をしていたかが、需要が戻った時の企業間格差になる。
不況期や停滞期は、単なる「耐える時間」ではありません。
次の成長期に向けて、会社の能力を蓄積する時間にもできます。
水平思考――衰退市場にも成長機会はある
「国内のウイスキー市場が縮小している」
という数字だけを見れば、
撤退・縮小
という判断が合理的に見えます。
しかし視点を変えると違います。
国内消費量が減っていることと、
世界で日本のウイスキーが評価されないこと
は同じではありません。
実際、サントリーはスコットランドに学びながら、
「スコッチと同じもの」
を目指しませんでした。
日本の水。
日本の四季。
ミズナラ。
日本独自の蒸溜方法。
つまり、
弱点に見えた「日本でつくっていること」を、個性に変えた。
ここに大きなヒントがあります。
市場が縮小しているからといって、その商品そのものに未来がないとは限りません。
顧客・地域・用途・価値の定義を変えれば、衰退市場の中にも成長市場は存在する。
量子的に考える――未来の需要は「存在していない」のに、今日つくらなければならない
ウイスキー経営には面白い矛盾があります。
20年後に何が売れるかは分からない。
しかし、
20年後に売る商品は、今日つくらなければならない。
未来の需要はまだ観測できません。
それでも経営者は未来を仮定し、資金と時間を投入する必要があります。
だから長期経営とは、
未来を当てることではなく、複数の未来に対応できる「種」を今日仕込んでおくこと
なのではないでしょうか。
原酒も一種類だけではありません。
異なる樽、異なる製法、異なる個性の原酒を持っているから、将来さまざまな商品をブレンドできます。
企業経営でも同じです。
一つの未来を予測して全資源を賭けるより、
小さな可能性を複数仕込んでおく。
AI。
人材。
技術。
地域との関係。
新規事業。
海外市場。
すぐ利益にならなくても、それぞれを「未来の原酒」と考えればいい。
10年後、その中のどれをブレンドするかは、その時に決めればいいのです。
結論――伝統とは「変えないこと」ではなく「磨き続けること」
スコットランドで福與氏が感じたのは、彼らの「変えない努力」でした。
一方、サントリーは本場から学びながら、
自分たちの個性とは何か
を追求しました。
模倣から始めても、模倣で終わらない。
そして創業者・鳥井信治郎氏の「日本人の舌に合った、世界で愛されるウイスキーをつくる」という志は残す。
製法は変わる。
設備も変わる。
技術も変わる。
市場も変わる。
それでも、
「もっとおいしいものをつくる」という方向は変わらない。
これが本当の伝統なのだと思います。
自社への活用方法
今回の記事から自社に持ち帰りたいのは、まず**「未来の原酒を仕込む」という発想**です。
会社のすべての仕事に、すぐ利益を求める必要はありません。
現在の収益を生む事業とは別に、
3年後、5年後、10年後に価値を持つ可能性のあるもの
を少しずつ仕込んでおく。
重要なのは、一つに決め打ちしないことです。
複数の小さな種を持ち、時間をかけて観察する。
伸びるものには資源を増やし、違うと思えば止める。
これはウイスキーの原酒づくりに似ています。
そしてもう一つ学びたいのが、
「一滴を見逃さない」姿勢です。
長期ビジョンを語る一方で、福與氏は毎日100、200もの原酒を確認しています。
つまり、
遠くを見ることと、目の前を細かく見ることは両立する。
10年後を考えながら、今日の小さな変化を見逃さない。
これは経営者に必要な視点だと思います。
自社の哲学と照らし合わせる
今回、自社の哲学である
イノベーション・当事者意識・正しい評価・多様性・シンプル
の中では、特にイノベーションと当事者意識に重なります。
福與氏は、本場スコットランドの正解をそのまま持ち帰りませんでした。
学んだ上で、
「では、自分たちの個性とは何か」
を考えています。
これはイノベーションの本質でしょう。
そして、
「自分の鼻と舌を信じて、自分がおいしいと思うものをつくれ」
という次世代への言葉にも当事者意識があります。
市場調査もデータも専門家の意見も必要です。
しかし最後に、
「自分はこれを良いと思うのか」
という判断まで他人に委ねてはいけない。
経営にも同じことが言えると思います。