「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」
のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう
本日8月25日
富士凸版印刷株式会社
理念と経営2026年8月号より

縁の下の力持ちとして、自社の魅力を発信
今年一月、小誌「理念と経営」が主催する第10回「ありがとう卓越経営大賞」特別功労賞の最優秀賞に輝いた富士凸版印刷、同社には兄弟で働く社員がいる。浅井直也さん(兄)と淘さん(弟)の二人だ。兄弟で同じ会社で働くというのは珍しいが、どういった経緯で入社したのだろうか。取材を進める中で見えてきたのは、二人の根底に流れる父の存在の大きさだった。
P60抜粋
富士凸版印刷株式会社
製造主任 浅井直也氏ら
今回の記事には、派手な新商品も、大きな経営戦略も登場しません。
中心にあるのは、会社が危機に陥った時、
「印刷現場は俺に任せてくれ」
と言った一人の社員と、その背中を見て育った二人の息子です。
私は、この言葉こそ今回の記事の本質だと思います。
会社が苦しい時、「会社はどうするんだ」と経営者を見る人は多い。
しかし、
「ここは自分が守る」
と言える人が何人いるか。
組織の本当の強さは、こういう時に表れるのだと思います。
ポイント① 会社の危機を救ったのは社長だけではなかった
約20年前、富士凸版印刷では二代目社長が急逝。
急きょ山本登美恵氏が社長に就任しました。
業界では女性社長への不安から、他社に吸収されるのではないかという噂まで流れ、社員も辞めていきました。
組織全体が不安に包まれる中、工場長だった浅井兄弟の父・茂氏が言います。
「印刷現場は俺に任せてくれ」
そして印刷機を止めず、周囲の社員を巻き込みながら会社を支えました。
ここで重要なのは、茂氏は社長ではなかったことです。
会社を守る責任を負っていたのは、本来なら経営者です。
しかし、
役職上の責任と、本人が感じる責任は別物です。
「自分は工場長だからここまで」
とは考えなかった。
会社全体の危機を自分事として受け止めた。
これが本当の当事者意識でしょう。
ポイント② 理念は言葉だけでは継承されない
その後、二人の息子も富士凸版印刷で働くようになります。
興味深いのは、父親が息子たちに経営理念を講義したわけではないことです。
早く出社する。
仕事の準備をする。
印刷機を止めない。
細部まで妥協しない。
何か起きても最後までやり遂げる。
二人は、それを父親の背中から学びました。
つまり、
理念を教えたのではなく、理念を見せた。
ここは非常に重要です。
会社に立派な理念が掲げられていても、上司や経営者の行動が違っていれば社員には伝わりません。
逆に、言葉にしていなくても、毎日の行動が一貫していれば価値観は伝わります。
理念とは、読むものではなく、
日々の判断と行動に現れるもの
なのだと思います。
ポイント③ 「一万枚」ではなく「一枚」を見る
製造現場を担う直也氏の言葉も印象的です。
印刷するのは一万枚でも、お客様が手に取るのはそのうちの一枚。
だから、
一枚一枚を正しいものにする。
印刷は気温や湿度、紙やインクの状態によって仕上がりが変わる「生き物」です。
昨日うまくいったから、今日も同じようにすればいいとは限らない。
だから毎日の経験を次の日に生かし、知識を積み上げていく。
その結果、何年にもわたってクレームゼロを続けています。
これはまさに、
凡事の積み重ねが会社の利益をつくる
という話です。
一つのミスを防ぐ。
刷り直しをなくす。
納期を守る。
品質を一定にする。
どれも華々しい成果には見えません。
しかし、それらが積み重なると会社の信用と利益になります。
水平思考――会社の利益をつくっているのは誰なのか
会社では営業成績や売上が目立ちます。
「○○さんが1,000万円売った」
という数字は分かりやすい。
しかし、
「○○さんがミスを防いで100万円の損失を発生させなかった」
という成果は見えにくい。
まして、
早く出社して準備する。
機械を整備する。
品質を確認する。
後輩を助ける。
問題が起きる前に対応する。
こうした仕事は数字にすら出てこないことがあります。
しかし会社の利益は、
売上をつくった人だけでなく、損失を発生させなかった人によってもつくられている。
ここを正しく評価できる会社は強いと思います。
今回の「静かな主役」というテーマにも、その本質があります。
量子的に考える――「何も起きない」ことも成果である
さらに考えてみます。
経営では普通、
何かを達成した。
売上が増えた。
新商品をつくった。
契約を取った。
という「起きたこと」を成果として評価します。
しかし現場には、
「起きなかったこと」
という成果があります。
クレームが起きなかった。
事故が起きなかった。
機械が止まらなかった。
納期遅延がなかった。
顧客を失わなかった。
会社が危機の時にも工場が止まらなかった。
これらは何も起きていないので、成果として見えにくい。
しかし実際には、
誰かが仕事をしたから、何も起きなかった。
ここに「静かな主役」を評価するための重要な視点があります。
経営者は「何をしたか」だけではなく、
「その人がいたから何が起きずに済んだのか」
も見る必要があります。
結論――強い会社には「俺に任せろ」と言える人がいる
今回の記事を読んで、私は会社の強さを測る一つの基準が見えるように思います。
会社に問題が起きた時、
「社長、どうしますか?」
と聞く人ばかりなのか。
それとも、
「ここは私がやります」
と言える人がいるのか。
後者が何人いるかで、組織の強さは大きく変わります。
しかも、そういう人は命令だけでは育たないでしょう。
浅井兄弟がそうだったように、
誰かの背中を見て育つ。
そして自分も次の世代に背中を見せる。
企業文化とは、就業規則やマニュアルだけで継承されるものではありません。
人から人へ受け渡されるもの
なのだと思います。
自社への活用方法
今回の事例から自社に取り入れたいのは、まず、
「目立たない成果を評価する仕組み」
です。
売上だけを見るのではなく、
トラブルを未然に防いだ。
修繕費を抑えた。
入居者への対応で退去を防いだ。
業務を効率化した。
誰かの仕事をフォローした。
新しい技術を身につけた。
こうした成果も評価する。
特に小さな会社では、一人の「静かな主役」が抜けただけで突然仕事が回らなくなることがあります。
だから経営者は、
「誰が目立っているか」ではなく、「誰が会社を止めないようにしているか」
を見る必要があります。
そしてもう一つ。
経営者自身も、理念を説明するだけでは足りません。
社員は、
「社長が何を言ったか」以上に、「問題が起きた時に社長がどう行動したか」
を見ています。
理念教育の最も強い教材は、経営者自身の行動なのだと思います。
自社の哲学と照らし合わせる
今回は、自社の哲学である
イノベーション・当事者意識・正しい評価・多様性・シンプル
の中でも、特に**「当事者意識」と「正しい評価」**に重なります。
茂氏の、
「印刷現場は俺に任せてくれ」
という一言。
これほど当事者意識を端的に表した言葉はありません。
そして、そのような人を会社が正しく評価することも重要です。
声が大きい人。
売上をつくる人。
役職が高い人。
そういう人だけが会社を支えているわけではありません。
会社を止めない人も、会社をつくっている。
「静かな主役」を見つけ、正しく評価することも経営者の大切な仕事です。