「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」
のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう
本日8月23日
山福水産株式会社
理念と経営2026年8月号より

縁の下の力持ちとして、自社の魅力を発信
静岡県焼津市で水産加工を手がける山福水産が存在感を高めている。ここで中小企業には珍しいひとり広報”として活躍しているのが奥村あき乃さんだ。
P58抜粋
山福水産株式会社
広報 奥村あき乃氏
今回の記事は「一人広報」として奮闘する奥村氏の物語ですが、経営の視点で読むと、もっと大きなテーマが見えてきます。
それは、
「良い商品をつくれば、それだけで会社は評価されるのか?」
という問いです。
答えは、おそらく「違う」でしょう。
どれほど良い商品をつくっていても、知られなければ存在していないのと同じです。
一方で、どれだけ発信しても、商品そのものに価値がなければ長続きしません。
今回の山福水産は、
「つくる人」と「伝える人」の両方があって初めて、企業価値が社会へ届く
ことを教えてくれる事例です。
ポイント① 中小企業だからこそ「広報」が必要
地方の中小企業では、広報専任者を置く会社はまだ多くありません。
営業、総務、事務などは必要不可欠と考えられても、
「広報は余裕ができてから」
と考えられがちです。
しかし山福水産は逆でした。
自社だけではなく、焼津という地域まで含めて将来を考えた時、
「自分たちが何者なのかを伝える力が必要だ」
と判断しました。
奥村氏を広報担当に置き、ウェブサイトのリニューアル、オウンドメディア、飲食店、オープンファクトリーなどへ活動を広げていきました。
結果として自社の認知度だけでなく、異業種とのつながりが生まれ、そこから新しい仕事まで生まれています。
つまり広報は、
売上が出た後に行う仕事ではなく、未来の売上や縁をつくる仕事
でもあるのです。
ポイント② 「やってみないか」ではなく「自分で手を挙げろ」
私は見崎社長の人の動かし方にも注目しました。
奥村氏に広報を命じたわけではありません。
「やりたいんだったら、主体性が大事だから自分で手を挙げてくれ」
この一言は重要です。
会社から、
「今日からあなたは広報担当です」
と言われるのと、
「私がやります」と自分で決める
のでは、その後の仕事への向き合い方が違います。
しかも奥村氏は当時、退職まで考えていました。
会社からすると、危うく失うところだった人材です。
ところが新しい役割を与えることで、その人が持っていた別の能力が表に出た。
前回の木村石鹸工業の「適材適所」ともつながります。
人材が会社を辞めたい時、その人が会社を嫌いなのではなく、現在の役割に未来が見えなくなっている場合もある。
これは経営者が覚えておきたい視点です。
ポイント③ 最初は社内から理解されない
奥村氏の活動が最初から歓迎されたわけではありません。
撮影などで外出すると、
「今日もいない。何をやっているんだろう」
と思われる。
社員をオウンドメディアへ出そうとしても、
「私はいいよ」
と断られる。
これは新しい仕事を始める時によく起こります。
特に、
成果が数字としてすぐに見えない仕事
ほど理解されにくい。
広報、SNS、AI、人材育成、新規事業なども同じでしょう。
しかし奥村氏は続けました。
そして外部から、
「最近、山福水産をよく見るね」
という声が返ってくる。
そこで初めて社内の見方も変わり始めます。
つまり、
社内を説得してから始めるのではなく、小さな結果を外から持ち帰ることで社内を変える
という方法もあるのです。
水平思考――広報とは「広告」ではなく「接点づくり」
広報というと、
SNSを更新する。
プレスリリースを書く。
ホームページをつくる。
という「情報発信」を考えがちです。
しかし山福水産を見ると、それだけではありません。
カツオの情報メディア。
残渣を肥料にした米づくり。
その米を使った飲食店。
オープンファクトリー。
地域企業との連携。
これらはすべて、
会社と社会との接点を増やす活動
と考えることができます。
そう考えると広報の定義が変わります。
「会社の情報を発信する部署」ではなく、
「会社と外の世界をつなぐ部署」。
だから異業種との出会いが生まれ、新しい仕事まで生まれるのでしょう。
量子的に考える――「発信する側」が主役とは限らない
SNSの時代には、発信する人が目立ちます。
フォロワー数。
再生回数。
「いいね」の数。
つい発信者が主役だと思ってしまいます。
しかし奥村氏自身は、そう考えていません。
「本当の主役は現場の人たち」
と言っています。
これは非常に重要です。
広報が100の魅力をつくるわけではありません。
現場に100の価値があれば、それを社会へ100に近い形で伝える。
逆に現場に10しか価値がないのに、広報で100に見せようとすれば、いずれ信用を失います。
だから、
発信力を強くすることと、発信者が前に出ることは同じではない。
優れた広報ほど、自分ではなく商品、社員、顧客、地域を主役にする。
ここに「静かな主役」という今回の特集テーマがよく表れています。
結論――「良いものをつくる」と「良さを伝える」は別の能力
中小企業では、
「うちはちゃんと仕事をしていれば分かってもらえる」
という考え方が残っていることがあります。
しかし今は、それだけでは足りません。
良い商品をつくる能力と、
その商品の良さを社会に理解してもらう能力は別物です。
そして広報によって会社の存在を知った人が、顧客になるとは限りません。
取引先になるかもしれない。
採用応募者になるかもしれない。
地域の協力者になるかもしれない。
まったく違う業界から、新規事業の話を持ってくるかもしれない。
だから広報の成果を、単純な「広告費対売上」だけで評価してはいけないのでしょう。
広報は会社の周囲に「縁」をつくる仕事でもある。
山福水産の事例からは、そう読み取れます。
自社への活用方法
今回の記事は、自社にもかなり直接的に活用できます。
特に重要なのは、
「何を発信するか」より「誰を主役にするか」
です。
会社そのものを宣伝するだけでは、発信は単調になります。
社員の技術。
現場での工夫。
修繕。
地域。
文化。
新しい取り組み。
失敗と改善。
普段は表に出ない人や仕事を発信する。
そうするとSNSやブログは単なる広告ではなく、
「会社が何を大切にしているかを見せる場所」
になります。
そしてもう一つ。
広報担当だけに広報を任せないことです。
山福水産でも最初は奥村氏一人でしたが、徐々に社員が投稿者として参加するようになりました。
理想は、
広報担当が毎回ネタを探す会社ではなく、社員から自然にネタが集まる会社。
広報担当者は発信者というより、
会社の中に埋もれている価値を見つけ、社会へ翻訳する「編集者」
と考えた方が面白いと思います。
自社の哲学と照らし合わせる
今回、自社の哲学である
イノベーション・当事者意識・正しい評価・多様性・シンプル
の中で特に重なるのは、当事者意識と多様性です。
奥村氏は、
「広報担当を命じられた」
のではありません。
自分で手を挙げた。
だから未知の仕事でも、教えてくれる人を探し、一つずつ覚え、社内の協力者まで増やしていった。
そして広報の主役を自分だとは考えなかった。
現場で魚を加工する人。
料理が得意な社員。
地域企業。
工場。
商品。
それぞれにスポットライトを当てています。
会社には、まだ知られていない価値がたくさんある。
経営者や広報の役割は、それを自分の手柄にすることではなく、
見つけて、つないで、世の中に伝わる形にすること。
これも「仕掛け人」の一つの姿だと思います。