「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」

のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう

 

 

本日8月17日

 

理念と経営2026年8月号より

 

株式会社セブン&アイホールディングス

名誉顧問
鈴木敏文(すずき・としふみ)

 

 TODAY'S
 
用意された原稿を読むだけのトップがいる。それなら、その原稿を書いた人間がトップをやればいい。自分の言葉で語れない人間はトップをやる資格はない

 

あの時、あの言葉――鈴木敏文氏

「用意された原稿を読むだけのトップがいる。それなら、その原稿を書いた人間がトップをやればいい。自分の言葉で語れない人間はトップをやる資格はない」

セブン・イレブンを立ち上げ、日本の小売業を大きく変えた鈴木敏文氏。

今回の記事で私が最も重要だと感じたのは、「自分の言葉で語れ」という言葉だけではありません。

その言葉を生み出している根底にある、

「現場で考えろ」
「お客様の立場で考えろ」

という二つの考え方です。

これは小売業だけではなく、あらゆる経営に通じる考え方だと思います。


ポイント① 「お客様のために」と「お客様の立場」は違う

鈴木氏が繰り返していたのは、「お客様の立場で考えろ」ということでした。

一見すると「お客様のために」と同じように聞こえます。

しかし、実はかなり違います。

「お客様のために」と考えると、いつの間にか、

「自分たちがお客様にしてあげたいこと」

になってしまう可能性があります。

一方、

「自分がお客様だったら何が欲しいのか」

と立場を入れ替えると、見える景色が変わります。

24時間営業もそうです。

当時の常識では「深夜に買い物する人などいない」。

しかし実際には、深夜にも働いている人がいる。

その人たちの立場から考えれば、

「夜中にも店が開いていてほしい」

という需要が見えてきます。

コンビニのおにぎりも同じです。

「家庭のおにぎりを商品化する」のではなく、

買って時間が経っても、パリパリの海苔で食べたい。

消費者の立場から考えたことで、新しい商品が生まれました。


ポイント② 仮説→検証→修正を現場で回す

鈴木氏の経営で特に重要なのが、

仮説 → 売り場で検証 → 修正

という考え方です。

これは現在ならPDCAやデータ経営と表現されるかもしれません。

しかし、鈴木氏の方法には大きな違いがあります。

数字だけを見て判断していない。

チャーハンが売れなければ、

「味付けが悪いのではないか」

「材料ではないか」

と仮説を立てる。

そして最終的には、調理方法そのものに問題があると考え、炒めるための釜まで作らせた。

つまり、

結果を見る → 原因を考える → 現場で確かめる → また変える。

この繰り返しです。

経営者が会議室から指示を出すのではなく、現場から答えを探しているのです。


水平思考――競争相手を見るより、生活者を見る

ここには重要な経営のヒントがあります。

普通ならコンビニ経営では、

「他のコンビニは何を売っているか」

「競合店はいくらで売っているか」

を調べたくなります。

しかし鈴木氏が見ていたのは、競合ではありません。

生活者の変化です。

深夜まで働く人が増えた。

家庭のあり方が変わった。

食事の仕方が変わった。

消費者が求める品質が変わった。

だから店も変える。

競争相手ばかりを見ていると、結局は同じような商品、同じようなサービスになります。

しかし、

「世の中の人は今、何に困っているのか」

を見ると、新しい市場が見えてくる。

これは非常に重要だと思います。


量子的に考える――「現場」とは場所ではない

今回の記事をさらに別の角度から考えてみます。

「現場で考えろ」というと、店舗や工場など物理的な場所を想像します。

しかし、本当の現場とは場所なのでしょうか。

私は違うと思います。

現場とは「変化が起きている場所」です。

店舗も現場。

お客様からの電話も現場。

クレームも現場。

SNSへの投稿も現場。

社員との会話も現場。

空室も現場。

契約を断られた理由も現場です。

そう考えると、経営者が守るべきなのは「特定の現場を持ち続けること」ではありません。

現実との接点を持ち続けることです。

事業を売却したり、業態を変えたりして物理的な現場がなくなっても、新しい現場をつくることはできます。

むしろ重要なのは、

現場を所有することではなく、現場から学び続ける仕組みを所有すること。

ここは鈴木氏の言葉から、さらに一歩進めて考えておきたいところです。


結論――経営者の仕事は「答えを知っていること」ではない

鈴木氏は成功した経営者だから、正解を知っていたのでしょうか。

私は逆だと思います。

正解が分からないから、仮説を立て続けた。

そして現場で確かめた。

違っていれば修正した。

この繰り返しだったのではないでしょうか。

だからこそ、

「自分の言葉で語れないトップは資格がない」

という言葉にもつながります。

自分で現場を見て、

自分で考えて、

自分で仮説を立てて、

自分で判断しているなら、

経営者は自然と自分の言葉で話すようになるからです。

逆に、誰かが作った資料と原稿だけで経営していれば、自分の言葉は生まれません。


自社への活用方法

今回の記事から、自社では特に三つを意識したいと思います。

第一に、「現場」を意図的につくること。

不動産、畑、地域活動、伊勢型紙、SNS、新しい事業――規模は小さくても構いません。

自分自身がお客様や地域、社員と直接接触し、変化を感じられる場所を持つ。

第二に、仮説を小さく試すこと。

最初から大きな投資をする必要はありません。

「こうしたら喜ばれるのではないか」

「この需要がこれから生まれるのではないか」

と考え、小さく実験する。

うまくいけば広げ、違えばやめる。

第三に、他人の答えをそのまま自社の答えにしないこと。

コンサルタントの意見も、社員の意見も、AIの分析も材料にはなります。

しかし、最後に判断するのは経営者です。

材料は他人からもらっても、結論まで他人に委ねてはいけない。

これが「自分の言葉で語る」ということだと思います。


自社の哲学と照らし合わせる

自社が大切にするイノベーション、当事者意識、正しい評価、多様性、シンプルという考え方の中で、今回もっとも重なるのは「当事者意識」です。

現場を見る。

仮説を立てる。

試す。

失敗すれば修正する。

そして最後は自分で決める。

これはまさに当事者として経営するということです。

そして「仕掛け人」という考え方にもつながります。

未来を正確に予測することはできません。

それなら、

未来を待つのではなく、小さな仮説を仕掛けて、現場から答えをもらえばいい。

鈴木敏文氏の経営から学ぶべきなのは、コンビニ経営の技術ではありません。

変化する社会に対して、自分自身も変わり続ける姿勢なのだと思います。


今回の一言

知行合一(ちこうごういつ)

知ることと、行うことは本来一つである。

どれほど優れた経営理論を知っていても、現場で試さなければ本当に分かったことにはなりません。

仮説を立て、現場へ行き、試し、間違っていれば修正する。

そして、その経験から得たものだからこそ、経営者は**「自分の言葉」**で語ることができます。

鈴木敏文氏の「現場で考えろ」という経営を一言で表すなら、今回はこの言葉が最もふさわしいと思います。

知ってから動くのではない。
動くことで、本当に知る。