「昨日の自分よりも成長し、目的を達成するための実践」
のひとつとして、図書から学んだことを実践していこう
本日7月14日
理念と経営2026年7月号より

世界中の人を笑顔にする市場をつくりたい
医療用サポーター、コルセットの開発・製造・販売を手がけるダイヤ工業は、培ってきた“カスタマイズガを生かして、作業支援ツール「アシストスーツ」の新サービスも展開中だ。3代目の松尾社長が描く経営ビジョン-----。
P39抜粋
ポイント
1. 事業の成長は、人の成長の先にある
ダイヤ工業は、腰や膝などの医療用サポーターを開発・製造する企業である。
しかし、松尾浩紀社長が重視しているのは、単なる商品開発ではない。
「事業の成長は、人の成長の先にある」
という考え方である。
会社が成長するためには、社員一人ひとりが人間性を高め、自分で考え、周囲のために行動できるようになる必要がある。
2. 原点は「目の前の一人を支える」こと
松尾氏が仕事のやりがいを実感したのは、脊髄損傷で車いす生活を送る人のために、専用グローブを開発した経験だった。
- 滑りにくい素材を選ぶ
- 耐久性を確認する
- 洗濯できるように工夫する
- 本人の身体に合わせて調整する
その結果、利用者は自分の力で車いすを動かし、行動範囲を広げられるようになった。
商品を売るのではなく、
その人の自由と生活の質を取り戻す
ことが仕事の本質だった。
3. 新しいことをするだけでは、革新とは言えない
社長就任後、松尾氏は「父を超えたい」という思いから、さまざまなデジタル施策を進めた。
紙のカタログを廃止してウェブへ集約したところ、顧客が減少した。
接骨院では、患者と一緒に紙のカタログを見ながら会話し、症状に合う商品を選んでいたからである。
そこで松尾氏は、同社が通信販売を
「通心販売」
と呼んできた本当の意味に気づいた。
効率化が正しくても、顧客との心のつながりを失えば価値は下がる。
4. 失敗の原因を周囲に求めない
松尾氏は新規事業を急ぐあまり、社員を疲弊させ、父の意見も聞かなくなった。
その姿勢を、地元の先輩経営者から、
「そんな考えなら、経営者をやめてしまえ」
と厳しく叱責された。
これをきっかけに父へ謝罪し、教えを請う姿勢へ変わった。
最大の転機は、経営手法を変えたことではなく、
うまくいかない原因を他人ではなく、自分の中に探すようになったこと
だった。
5. フィロソフィは「自分を省みる鏡」
コロナ禍の中、松尾氏は社員と共に「ダイヤフィロソフィ」を作った。
社長一人で決めるのではなく、希望者を募り、課題図書や合宿、議論を通じて十八項目を策定した。
内容は、
- 素直な心
- 感謝の気持ち
- 仲間に尽くす
- 謙虚である
- 私心のない判断をする
といった、人間としてのあり方である。
フィロソフィの目的は社員を統制することではなく、
社長も社員も、自分に足りないものに気づくこと
にある。
6. 理念は、行動に表れて初めて本物になる
物流責任者が、休日に物流センターのトイレを掃除していた。
他社の人も出入りする場所だから、皆が気持ちよく働ける環境にしたいと考えたためである。
誰かに命令された行動ではない。
これは「仲間に尽くす」「感謝する」というフィロソフィが、本人の判断として現れた事例である。
理念の浸透とは、暗記することではなく、誰も見ていない場所で行動が変わることである。
7. 自社の強みを、売り方にも反映する
アシストスーツは購入者と利用者が異なることが多く、身体に合わない、使い方がわからないという問題があった。
そこで同社は、単なる売り切りからサブスクリプション型へ転換した。
- 利用者の体格を確認する
- 作業内容を把握する
- 使用方法を支援する
- 継続的に改良する
- 現場に伴走する
という形である。
同社の本当の強みは、製品そのものではなく、
一人ひとりに合わせるカスタマイズ力
にあった。
結論
ダイヤ工業の事例が示しているのは、
新しい商品や制度よりも、経営者と社員の人間的成長が会社を変える
ということである。
松尾氏は、父を超えようとして新しいことを急ぎ、顧客や社員との心のつながりを見失った。
しかし、自らの未熟さを認め、父や社員から学ぶ姿勢へ変わったことで、会社は再び一つになった。
経営理念やフィロソフィは、社員に守らせる規則ではない。
経営者自身が、自分を省み続けるための鏡である。
水平思考
この事例は、医療用品メーカーの成長物語ではなく、
「製品販売業」から「生活支援業」への転換
として見ることができる。
車いす用グローブも、サポーターも、アシストスーツも、商品を売ること自体が目的ではない。
顧客が、
- 自分で移動できる
- 働き続けられる
- 痛みを減らせる
- 活動範囲を広げられる
という、人生の選択肢を増やすための手段である。
つまり、ダイヤ工業が販売しているのは器具ではなく、
人が再び自分らしく動ける可能性
なのである。
量子思考
一見すると、
- デジタル化
- 人間的なつながり
は対立するように見える。
しかし、本来はどちらか一方を選ぶものではない。
紙のカタログを廃止して効率化した結果、顧客との対話が失われた。
一方、チャットボットは問い合わせ対応を助け、顧客の利便性を高めた。
違いは、デジタルを導入したかどうかではない。
人との関係を減らすために使ったのか、人をより深く支えるために使ったのか
である。
技術は、心を置き換えるものではなく、心を届ける範囲を広げるために使うべきである。