少し読んで中断したまま長年放置していた「坂の上の雲」。
昨秋から今春にかけてドラマの再放送があったので、今度こそと思い、ドラマの進行に合わせて何とか読み切ることができました。
司馬さん自身が「この作品は、小説であるかどうか、実に疑わしい。」とあとがきで触れていますが、読むのに苦労した要因はこの点に尽きます。
ドラマでは創作を交えて人間模様も手厚く描かれていましたが、原作では特に子規の死後、日露戦争へと突入すると、日露戦史と言ってもいいほどに日露戦争の全貌を俯瞰的に捉えることにより重心が置かれるようになり、登場人物らの会話や感情表現よりも史実の説明や余談が多くなり、主人公である秋山兄弟が登場しない頁が増え、彼らの成長や活躍を楽しむような物語ではなくなっていきます。
そのため、他の小説のようには読み進まなかったわけですが、司馬史観がこれほど色濃く出ている作品は他にはなかなかなく、特に現代日本の成り立ちにも直結するような近い時代の話であるため、歴史書という意味で非常に勉強になる作品でした。
数々の失敗を犯し、多大な犠牲を払いながらも、それ以上の失策を繰り返したロシアに対して薄氷を踏むような勝利を収めたこの日露戦争は、日本の近代史における一つの大きな分岐点となったことは確かかと思いますが、司馬さんの目がその結果そのものではなく、常にその先の日本の行く末を見据えているところが印象的でした。
そのおかげなのか、そのせいなのか、負けていたらどうなっていたのか、そもそも戦争を仕掛けなければどうなっていたのか、何も確かなことは言えず、ただ、その後の歴史の積み重ねの結果として今の日本があるわけですが、昨今のロシアを見ていると日露戦争当時と本質的には変わっていない印象があり、将来的に当時と同じような危機が訪れないとも限りません。
そうなったときに日本はどうするのか、どうなるのか、今だからこそ考えさせられます。