密謀 | Archive Redo Blog

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密謀 (下) (新潮文庫 (ふ-11-13))/藤沢 周平
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時代小説でお馴染みの藤沢周平さんが、大河ドラマ「天地人」の主人公、直江兼続を描いた歴史小説です。


「天地人」の兼続と藤沢さんの兼続。


藤沢さんが描く時代小説と歴史小説。


この小説を読む際に、これら2つの相違をどうしても意識してしまいます。



まず、「天地人」(原作ではなくドラマの方ですが...)との違いですが、「天地人」では兜に掲げた「愛」の字と謙信から受け継がれた「義」の志を前面に押し出していますが、「密謀」では戦国きっての智謀の将のイメージが色濃く出ています。


豊臣から徳川へと移り行く時代を、上杉家、そして兼続がどう立ち回ったのかという点に主眼を置いて描かれているためにそういう印象を抱くのかもしれません。


主君景勝、盟友石田三成との関係も「天地人」より自然に淡々と描かれていますし、(兼続自身の)色恋の話は皆無で、妻お船もほとんど出てきません。


それでいて、時折さりげなく人の機敏に触れる人間描写はさすがです。



そして、藤沢さんの作品としては希少な歴史小説としての本作品についてですが、史実を尊重し、その枠をはみ出すことなく物語を構成しながらも、例えば「越水の会」の伝承など、史実としての信ぴょう性が疑われるような事象については、それがたとえ作品を脚色する素材として有用であったとしてもあっさりと切り捨てています。


一方で、兼続を陰で支えるものとして草のものや剣客を登場させるなど、史実に影響の及ばないところでは、お得意の時代小説的なエッセンスを積極的に取り入れています。


歴史に最大限に敬意を払いながら、エンタテイメント性を加えて厚みのある作品に仕上げていく...


このあたりに藤沢さんの歴史小説に取り組む姿勢というものがうかがえます。