半島を出よ 上 (1) (幻冬舎文庫 む 1-25)/村上 龍- ¥760
- Amazon.co.jp
半島を出よ 下 (3) (幻冬舎文庫 む 1-26)/村上 龍- ¥800
- Amazon.co.jp
2011年4月、開幕戦が行われている福岡ドーム(現 福岡 Yahoo! JAPAN ドーム)を突然9人の北朝鮮の特殊部隊が乗っ取り、その2時間後にさらに500名の特殊部隊が輸送機で飛来し、福岡市の中心部を制圧。彼らは北朝鮮の反乱軍、「高麗遠征軍」だと名乗り、さらに9日後には12万人を乗せた本隊が到着すると言う...
という衝撃的な内容の長編小説です。
文庫化を機に購入・読破しました。
この小説には全体を通した主人公が存在しません。
福岡市民を人質に取られ、彼らを攻撃することもできず、逆にテロリストが東京へ乗り込んで来るという噂に動揺して福岡を封鎖しまう日本政府...
有効な手を打てない日本政府を尻目に福岡市民と共存し、九州を統治し、日本から独立させるための準備を着々と進める高麗遠征軍...
想像だにしない異常事態を様々な思いで受け止め、行動する福岡市民...
そして、社会からはじき出された若者たちの決起...
政府関係者、北朝鮮特殊部隊員、福岡市民、そして若者たちと、各章ごとに異なる人物を主人公としてピックアップし、それぞれの立場や思いというフィルターを通してこの異常事態の推移を描くという面白い手法を用いています。
しかし、どのような視点に立とうとも、どのような事象を描こうとも、圧倒的な情報量をベースにした描写は驚くほど緻密で、ありえないような状況が恐ろしくリアルな状況であるかのように思えてきます。
特に北朝鮮の特殊部隊員の描写については、よくもここまで書けたものだと驚きます。
また、この小説は裏表紙のあらすじを見る限りはテロリストに立ち向かう若者たちを描くヒーローもののように思えますが、それだけではありません。
対北朝鮮、対テロにとどまらず、現在、そして近い将来の日本が抱えうる様々な危機管理の問題が巧みに盛り込まれています。
北朝鮮の特殊部隊が福岡を占拠し...という以前に、財政が破綻し、預金封鎖・資産凍結が行われ、経済が収縮し、国際社会から孤立化した日本という設定自体にまずゾっとします。
平和ボケの日本人が意識的・無意識的に触れることを避けている様々な問題に対峙させられる衝撃作です。