蝉しぐれ | Archive Redo Blog

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DBエンジニアのあれこれ備忘録


蝉しぐれ/藤沢 周平
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歴史上の人物や出来事を史実に基づいて描いた小説を「歴史小説」、時代設定だけを拝借して架空の人物や出来事を描いた小説を「時代小説」と定義付けるとすれば、私は歴史小説はそこそこ読んだことはあるのですが、時代小説は読んだことがありません。


池波正太郎とか藤沢周平とか、うっすらと興味はあったのですが、なぜか手が伸びなかったのです。


なぜなんでしょう?


今、改めて考えてみると、「歴史小説」と「時代小説」を混同していたのかもしれません。


「歴史小説」を読むのは、歴史そのものへの興味+読み物としての小説の面白さからだと思いますが、「時代小説」を同じ価値観で見た場合、歴史そのものへの興味があまり満たされません。


だから「時代小説」には手が伸びなかったのではないかと思います。



そんな「時代小説」に手を伸ばすきっかけとなったのは「たそがれ清兵衛」という映画でした。


そこから藤沢周平という人が気になりだし、「たそがれ清兵衛」と同じく、藤沢周平の出身地である庄内地方をモデルにした海坂藩(架空)を舞台とした代表的作品「蝉しぐれ」を手に取ったというわけです。



この「蝉しぐれ」は「たそがれ清兵衛」とは違って、青年藩士の成長と恋と友情を描いた小説ですが、非常に面白かったです。


まず風景描写が見事です。ただ美しくリアルに描いているというだけでなく、人の息吹が伝わってくると言いますか、緻密に描き出された自然や街の中を登場人物たちが本当に歩いている、生きている、そしてそれを見ているという感覚になります。そして、はるか昔の架空の話にも関わらずそこに郷愁のようなものも感じます。


また、物語の展開も絶妙です。ゆるやかに流れていく時の中、小さな緩急をつけつつ、終盤一気にテンポアップしていく展開は読む者をぐっと惹きつけます。


そして、苦難を乗り越えて成長していく青年の颯爽とした行動が清々しい読後感を残します。



藤沢周平作品の一端に触れただけであり、まだまだその魅力を十分に味わえたとは言い難いところですが、「時代小説」というものの捉え方が一変したような気がします。