10月30日、建築塾第24回目です。
連日の寒さで、早くもストーブの登場です
今週は久しぶりに卒業設計コースの様子を覗いてみましょう
卒業設計は、敷地もプログラムもゼロから全て自分で考えていかなければなりません
しかしながら、全て自分の頭の中だけで考えていては、自分よがりの自己満足のものしかできませんし、前回のブログでもお伝えしたように、「言葉を越えた何か」を創造することは出来ません
建築塾では、「自律」と「他律」という言葉が良く出てきます。
「自律」=自分の中のもの。想いやパッション。
「他律」=自分の外にあるもの。建築の場合、敷地や周辺環境、コンテクスト(地域性、歴史性)などがそれにあたります。
自分の手の中を越えてモノをつくるとき、「他律」に自分を委ねてみるのです。
自分であれこれ無理をするのではなく、「他律」に耳を傾け、「他律」がするようにするのです。
実はこれは、言葉で言うほど簡単ではありません。皆、「自分」が出てきてしまいます
そこで、「自分」を押さえる訓練をするのです
写真は、修士設計に取り組んでいる、李くんのエスキスの様子
母国である中国の新都心に、集合住宅を計画しています。
そのなかで、敷地の周辺環境や、中国の歴史(客家)など「他律」を分析することで、新たなビルディングタイプの集合住宅ができないかと、模索しています。或いは、山水というコンセプトがありますが、それを「フィクショナルな山」という視点で捉えたりするような興味深い方法の戦略も練っています。
写真はその資料のほんの一部です。李くんは1週間やってきたことを、毎回沢山の資料にして持ってきます。
良いものをつくろうという気迫が伝わってきます
次に法政大学の持永くんです。
彼は、かつて賑わっていた隅田川の川沿いに、新たな手法で親水都市をつくろうとしています。
これまでは、順調に案を進めてきたのですが、何かが足りません。
狂気や、止むに止まれない情熱が作品から伝わって来ないのです
そこで彼は、江戸時代の隅田川を描いた、浮世絵を持ってきました。
夥しい数の人や、船が描かれており、息を飲むような迫力があります
持永くんは、自分の作品でもこのような迫力が表現できないかと、模索しています
このように「他律」から手掛かりを掴もうと、様々な角度から検証していきます。
今後の展開が楽しみです
続いて、設計演習コースの様子も覗いてみましょう
前田はよく、
“私が建築を作る”のではなく、“建築が建築を作る”と言います。
学生だけでなく、建築家の多くは、「私が建築を作る」という態度で建築をつくってしまいます
さらに先の「建築が建築を作る」に移行しなければ、いつまでも独りよがりのものしか作ることができず、自分の範囲を越えることはできません
先の「他律」と、思いとしては同じところにあります。
この日の設計演習コースのエスキスで、「私が建築を作る」から「建築が建築を作る」への移行に成功した塾生がいました。
第3課題「自然を受信する庭」に取り組んでいる、佐道くん。
「氷の溶解システム」を庭空間に翻訳しようとしています。
そこで、実際に自分で氷を溶かして、中から光を当ててみました
何か惹きつけられるものがあります
佐道くんは、今まで氷を「頭」で理解しようとしていて、なかなか前に進めませんでした
しかし、実際に氷を溶かしてみることで、氷がどうなりたいのかを「知る」ことが出来たのです
「氷のことは、氷に聞け。
光のことは、光に聞け。
土のことは、土に聞け。
敷地のことは、敷地に聞け。
そいつと仲良くなって、抱きしめてやれば
自然と相手から教えてくれる。」
と、前田は言います。
これは人間関係でも同じです。
相手のことを「頭」で理解しようとしているうちは、何も見えてきません
相手のなかに踏み込んで、抱きしめようとしなければ、本当の想いなど分かるはずがありません
(前田紀貞の建築ブログ「目を覚ませ若手建築家よ」
http://norisada.at.webry.info/200906/article_1.html
)
建築や人間関係だけでなく、生きることを、もっと深く考え、もっと抱きしめるように、日々精進です
今週はこれで終わりです。
次回もお楽しみに♪
前田紀貞アトリエ 尾茂田太