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午前8時00分
中央司令部

「寒いな…」

ギルはズボンのポケットに手を入れ、やや猫背になって歩いている。日差しの入った窓に背を預けた。

「…煙草…ない…はぁ…」

胸ポケットを漁るが何時も吸っているのを忘れてしまったようでぼけーっと遠い目で扉を見つめていた。職務上、ギルはこの司令部の最高責任者なので軍隊に奉職しているからにはいい手本にならなければならないのである。

てくてくと、我が物顔で禁煙である廊下を煙草を吸いながら跳ねまくった長い赤毛が特徴的な中年面した男性が近づいてきた。

「ガハハ!よぉ、大佐殿なんだ今日は煙草忘れたのか?」

「キール、お前も大佐だろ?茶化すな…」

「ハハハ、カリカリすんなっつうの」

キールと呼ばれた赤毛の男は季節の変わり目にもかかわらず分厚い動物の皮、恐らく鰐とおぼしき柄なのか、染色されているのかやや白みがかったひざ下丈までのロングコートを肩にかけた状態でギルの真正面に立った。

ゆるゆるなネクタイに数個ボタンが外れた黒いYシャツを着て足が長いのか丈の長いダークシルバーのズボンを着こなしていた。恐らくギルが名前でいうあたり同年代だろう、キールはタバコを吸ったまま煙草を忘れたギルを見てほくそ笑んでいた。そしてキールは口を開けた。

「……明朝、あの『タケミカヅチユニット』が研究所からいなくなったとさ」

「なんだとっ!?」

ギルの表情が変わった。怒りではなくいつになく嫌な予感がしたのは間違いではなかったようだ。

「おいおい、お前は知ってると思って言ったんだが…まあ、今頃研究所じゃあの博士が角生やしてるだろうな!ハハハッ!!」

キールは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするが、焦りの色が見えるギルを茶化すような笑いが木霊した。

ギルは思いもよらないアクシデントに対応しきれずこめかみに右手の人差し指を一定のテンポを入れ考えを纏めた。その顔は迷いはなかった。

「…部隊編成を行う。私の部屋に来いキール大佐」

そう言えば正面にあったドアを開け中に入っていった。

置いてけぼりにされたキールは感傷に浸りながら吸っていた煙草を窓に押し付け煙を吐いた。

「…あの顔、あの時以来だな。」

そう言って執務室の中に入っていた。




東のアトラ山脈を越えた嘗て紛争が絶えなかった三国を一つの国に纏めた一人の女傑がいるヴァルキリアス帝国。

ルナ・ヴァーク・アルテミス

彼女の名を知らぬ帝国の民は殆どいなかっただろう。
だが、そんな帝国であるが物量と兵力は近辺の国々からしたらかなりの脅威を持っている。

しかしながら未だに帝国民の民事問題はまだまだ残るが、皇帝のルナに頭が上がらないのは仕方ないものだ。

「…疲れました…」

ペトッと執務室の机に突っ伏した。女傑であるルナそのものである。書類の整備をしていた。毎日30km走れない苛立ちからか書類の判を押す早さが増していた。

同時刻
ヴァルキリアス帝国上空6000m

雲一つない空に蛇行するように飛行する何かが飛んでいる、幻の生物である聖龍の姿を模した機械の龍、『機龍』が空をゆったりと駆け抜けているがその頭部には女座りをした和の服を着た女性の姿があった。

何者にも染まらない黒く艶やかに輝く着物を肩の部分まで露出させており下ろした黒く長い髪を向かい風の風に棚引かせているが何より目に行くのは側頭部に生えた厳つい双角であった。

「ほほほ…ワチキの眠りを覚めさせたなら…吸血鬼よ、それなりの醍醐味はあるのだろうのう?」

顎に手を添え受ける突風を気持ちよさげに顔を綻ばせ今から起きる事に興味を津々とさせて西方に向かい始めた。