【第9回】名誉毀損で10か月―
―立花孝志の長期勾留と「人質司法」を考える
前回、竹内英明元県議をめぐる、
「逮捕予定だった」
という情報について書いた。
竹内氏が亡くなった翌日、
立花孝志氏が、
「明日逮捕される予定だったそうです」
などという趣旨の情報を発信。
翌日には兵庫県警本部長が、
その情報を明確に否定した。
そして竹内氏の妻が刑事告訴。
2025年11月9日。
兵庫県警は、
立花孝志氏を名誉毀損の疑いで逮捕した。 朝日放送テレビ
ここまでは前回書いた。
しかし――
今回私が調べたいのは、
立花氏が逮捕されたことではない。
その後である。
■ 2025年11月9日、立花孝志氏逮捕
まず事実関係を整理したい。
兵庫県警は2025年11月9日、
竹内英明元県議に対する名誉毀損の疑いで立花氏を逮捕した。
警察が逮捕の理由として説明したのは、
逃亡や罪証隠滅のおそれ。
つまり、
「名誉毀損だから自動的に逮捕」
という話ではない。
警察は、
身柄を拘束する必要があると判断したのである。 朝日放送テレビ
そして11月28日。
神戸地検は立花氏を起訴した。
ここで重要なのは、
起訴されたのが、
死後の「逮捕予定だった」という発言だけではないことである。
起訴対象は、
竹内氏の生前と死後を合わせた、
計6件の発言や投稿。
2024年12月には、
「警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」
などと街頭演説で発言。
竹内氏の死後には、
「明日逮捕される予定だったそうです」
などとSNSで発信したとされる。
これらについて、
名誉を傷つけた罪に問われている。 テレ朝NEWS
だから、
「悪口を言っただけで逮捕された」
と単純化するのも正確ではない。
検察側は、
具体的な事実を示す発言の中に虚偽があり、
それによって竹内氏の社会的評価を低下させた、
という事件として起訴している。
その違法性については、
本来、裁判で判断されることになる。
■ ところが、その裁判が始まらない
ここで私は、日付を見て驚いた。
逮捕。
2025年11月9日。
起訴。
11月28日。
そして2026年7月。
まだ勾留されていた。
保釈請求も却下。
しかも、
初公判の日程すら決まっていなかった。 ニュースjp
さらに9月になると、
逮捕から約10か月。
それでも身柄拘束が続いていたと報じられている。 News Everyday
私はここで、単純な疑問を持った。
10か月?
まだ裁判で有罪と決まっていない。
刑務所で刑罰を受けているわけでもない。
それなのに、
10か月も自由を奪われる。
これは、
いったいどういう仕組みなのだろう。
■ 勾留は「刑罰」ではない
まず、ここを間違えてはいけない。
勾留は、刑罰ではない。
裁判所自身も、勾留について、
逃亡や証拠隠滅を防ぎ、
刑事裁判を適切に行うための身柄拘束として説明している。 最高裁判所
つまり、
「悪いことをしたから10か月閉じ込めている」
という制度ではない。
有罪か無罪かを決めるのは、
これからの裁判である。
だからこそ逆に、私は疑問を持つ。
では10か月間、何を防ぐ必要があったのだろう。
■ 起訴された後も勾留は続けられる
日本の刑事手続では、
起訴された被告人についても、
逃亡や証拠隠滅のおそれなどがあり、
身柄拘束の必要性がある場合、
勾留を続けることができる。
起訴後の勾留期間はまず2か月。
一定の要件を満たせば、
その後、1か月ごとに更新できる。 最高裁判所
そして被告人には、保釈を請求する制度がある。
一定額の保証金を納め、必要に応じて条件を付けたうえで、
裁判まで社会生活を送りながら審理を受ける制度である。
法律上は、
一定の例外を除いて保釈を認める「権利保釈」があり、
それに該当しなくても、
逃亡や証拠隠滅のおそれ、
身体拘束による健康・経済・社会生活・防御準備上の不利益などを考慮して、
裁判所が裁量で保釈する制度もある。
さらに、
勾留による拘禁が不当に長くなった場合には、
保釈しなければならないという仕組みまである。 最高裁判所
制度だけを読むと、かなり慎重に作られている。
■ それでも立花氏は保釈されなかった
立花氏側は、保釈を請求している。
2025年12月にも却下。
そして2026年7月にも、
再び保釈請求が却下された。
少なくとも2回、
保釈を認めない判断が出ている。
7月21日には、
その判断を不服とした準抗告も棄却された。 ニュースjp
ここも重要である。
立花氏を拘束し続けるかどうかを、
検察だけが決めているわけではない。
保釈を認めるかどうかを判断するのは裁判所である。
だから、
「検察が10か月閉じ込めている」
という書き方も正確ではない。
検察側が保釈に反対することはある。
しかし最終的な司法判断は裁判所が行う。
■ では、なぜ保釈されないのか
ここが知りたい。
報道では、7月の保釈却下について、
罪証隠滅のおそれなどに関して保釈の条件を満たさないと判断されたとみられている。
ただし、
裁判所が具体的に何を証拠隠滅の危険と判断しているのかは、
公表資料からは分からない。 ニュースjp
これが、この問題を外から見る時の大きな限界である。
私たちが知らない証拠があるのかもしれない。
接触を防ぐ必要がある人物がいるのかもしれない。
まだ調べなければならない情報源があるのかもしれない。
だから、
「証拠隠滅のおそれなんて絶対にない」
と外部の人間が断定することもできない。
しかし一方で、
今回問題になっている発言の多くは、
街頭演説。
SNS。
動画。
すでに公になった発言である。
発言したかどうかという部分については、
映像や投稿などが残っている。
そうなると私は、また一つ疑問を持つ。
10か月たった現在、具体的に何を隠滅できるのだろう。
■ 「発言したか」だけを争う裁判ではない
ただ、ここも単純ではない。
名誉毀損事件では、単に、
「この言葉を言いましたか」
だけが問題になるわけではない。
例えば、
その情報は真実だったのか。
真実だと信じるだけの相当な理由があったのか。
情報源は誰だったのか。
何を聞いて、
どこまで確認して、
どのような認識で発信したのか。
そうした事情が、
争点になる可能性がある。
実際、立花氏は逮捕前の任意聴取で、
発信には真実だと信じる十分な根拠、
いわゆる「真実相当性」がある、
という趣旨の説明をしていたと報じられている。 熊本日日新聞
したがって、
動画が残っているから、
「証拠隠滅の余地はゼロ」
とも言い切れない。
情報源や関係者への働きかけという問題もあり得る。
ここは、分けて考えなければならない。
■ しかし時間がたてば、同じ説明でいいのだろうか
それでも、私はここが気になる。
逮捕直後。
捜査中。
関係者から話を聞いている。
証拠を集めている。
だから身柄を拘束する。
これは理解できる。
しかし、
起訴され、
数か月が過ぎ、
半年が過ぎ、
10か月が過ぎる。
その間も、同じように、
「証拠隠滅のおそれがあります」
という理由だけで拘束を続けられるのだろうか。
最高裁長官も2026年5月の記者会見で、
個別事件へのコメントではないと断ったうえで、
勾留や保釈については、
罪証隠滅や逃亡のおそれを個々の事件の具体的な事情に基づいて、
具体的かつ丁寧に検討すべきだ
という考え方に言及している。 最高裁判所
つまり、
勾留の必要性は、一度決めたら終わりではない。
時間の経過とともに、
改めて考えなければならない問題なのである。
■ そこで出てくる「人質司法」という言葉
この問題を調べると、
必ず出てくる言葉がある。
人質司法。
これは法律上の正式名称ではない。
日本の刑事司法を批判する側が使ってきた言葉である。
長期間身体を拘束し、
否認したり黙秘したりする被疑者・被告人ほど釈放されにくい。
その結果、
「認めれば外に出られる」
「争えば拘束が続く」
という圧力が生じるのではないか。
そうした問題を、
「人質司法」
と呼んで批判してきた。
立花氏の事件についても、
2026年5月、
弁護士ドットコムニュースが長期勾留を取り上げ、
弁護士から、
立花氏の言動への賛否とは切り離して、
身柄拘束の必要性を考えるべきだという指摘が出ている。 弁護士ドットコム
私は、ここが非常に重要だと思う。
■ 立花孝志が好きか嫌いかは関係ない
立花氏の政治手法を嫌う人は多い。
過激な発言もする。
人を強く批判する。
今回の竹内氏への発言についても、
遺族が深刻な被害を訴えている。
竹内氏の妻は、
起訴後、
夫だけでなく自分や子どもたちにも誹謗中傷が及んでいると述べ、
司法の場で責任が正しく問われることを望むとコメントしている。 神戸新聞
これは軽く扱うべき話ではない。
しかし、それと、
裁判前の身柄拘束がどこまで許されるのか
は別問題である。
嫌いな人物だから、
10か月拘束されても構わない。
好きな人物だから、
すぐ釈放すべきだ。
それでは、
法の問題ではなくなってしまう。
■ 無罪推定という考え方
刑事裁判では、
有罪判決が確定するまでは、
被告人を犯罪者と決めつけてはいけない。
いわゆる、
無罪推定の原則。
だから勾留は、
刑罰として使ってはいけない。
勾留の目的は、
あくまで裁判を成立させるためのもの。
逃亡を防ぐ。
証拠隠滅を防ぐ。
必要な場合に限って、
身体を拘束する。
そのはずである。
そう考えると、
10か月という時間は、
どうしても重く感じる。
■ しかも初公判が始まっていない
そしてもう一つ。
私が特に引っ掛かったのが、
裁判が始まっていない
という点だった。
2026年7月7日の時点で、
初公判の日程はまだ決まっていなかった。 ニュースjp
立花氏は、
裁判で有罪と判断されて10か月拘束されているのではない。
自分の事件について、
公開の法廷で本格的な審理が始まる前の段階で、
長期間身柄を拘束されている。
もちろん、
刑事裁判では公判前に争点や証拠を整理する必要があり、
複雑な事件では初公判まで時間がかかることもある。
今回の事件では、
特に死者に対する名誉毀損という珍しい論点も含まれている。
神戸新聞は起訴時、
死者への名誉毀損が法廷で争われるのは極めて異例だと報じている。 神戸新聞
したがって、
「裁判が遅い=何かがおかしい」
とまでは言えない。
しかし――
裁判に時間がかかることと、その間ずっと拘束する必要があることも、また別問題である。
■ 裁判が遅いなら、なおさら保釈を考える必要はないのか
例えば、
裁判の準備に1年かかるとする。
それ自体に合理的な理由があるなら、
仕方がない場合もある。
しかし、だからといって、
被告人も1年間拘束しておかなければならない、
ということにはならないはずだ。
裁判所の制度説明でも、
身体拘束による健康上、経済上、社会生活上、
そして防御準備上の不利益を考慮して、
裁量保釈を認める制度がある。 最高裁判所
むしろ裁判まで長期間かかるのであれば、
その間も拘束を続ける必要性を、
より慎重に確認する必要があるのではないか。
私はそう感じる。
■ 弁護士からも批判が出始めた
逮捕から半年となった2026年5月、
弁護士ドットコムニュースは、
立花氏の長期勾留を取り上げた。
記事では、
日本の保釈制度や、
いわゆる人質司法の問題が解説されている。
さらに9月には、
逮捕直後に弁護人を務めていた石丸幸人弁護士が、
約10か月に及ぶ勾留と、
なお初公判が開かれていない状況について、
極めて強い言葉で批判したと報じられた。 弁護士ドットコム
もちろん弁護士が批判したから、
直ちに勾留が不当だと確定するわけではない。
裁判所には、
裁判所なりの判断材料があるはずである。
ただ専門家から見ても、
「この長さは本当に必要なのか」
という問題提起が出ていることは確かである。
■ 私たちには見えていないものがある
ここまで調べても、
結局分からないことがある。
裁判所は、
具体的に何を証拠隠滅のおそれと見ているのか。
誰への接触を警戒しているのか。
どんな証拠がまだ整理されていないのか。
なぜ初公判の日程が決まらないのか。
これらは、
公開情報だけでは分からない。
だから私は、
「立花氏の勾留は違法だ」
と断定するつもりはない。
それを判断できるだけの材料を、
私たちは持っていない。
しかし逆にだからこそ思う。
10か月もの身体拘束を続けるのであれば、
その必要性について社会が疑問を持つのは当然ではないだろうか。
■ もし裁判が始まったら、ここを確認したい
今後、
初公判が始まれば、
少しずつ事件の中身が見えてくる。
検察側は、
どの証拠を提出するのか。
誰を証人として呼ぶのか。
立花氏は、
どの部分を認め、
どの部分を争うのか。
「逮捕予定だった」という情報について、
どこから聞いたと説明するのか。
そして、
これまで長期間の身柄拘束が必要だった
理由につながるような事情が、
公判で見えてくるのか。
私はそこを見たい。
もし、
裁判で出てくる証拠が、
すでに公開されている動画、
SNS投稿、
関係者の証言などが中心だったとすれば、
当然、
「では10か月の勾留は何のためだったのか」
という疑問はさらに強くなるだろう。
逆に私たちが知らなかった重要な証拠や、
証拠隠滅のおそれを具体的に裏付ける事情が出てくれば、
見方は変わる。
今の段階では、
そこは決めつけない。
■ そして、ここで20年前の兵庫県政につながる
NHKについて調べていた。
そこから、
立花孝志という人物に行き着いた。
立花氏を追うと、
兵庫県知事選挙へ行き着いた。
兵庫県政を調べると、
告発文書。
百条委員会。
不信任決議。
竹内元県議。
SNS。
警察。
そして、
日本の刑事司法制度にまで話が広がった。
正直、
最初にNHKを調べ始めた時、
ここまで来るとは思っていなかった。
しかし兵庫県について調べていると、
さらに別の話が出てきた。
約490億円。
しかも、
今の斎藤県政で突然発生した借金ではない。
話を遡ると約20年前の兵庫県政に行き着く。
公共用地を先行取得するために使われた地方債。
その返済。
土地売却代金。
そして、
2020年度に行われた約490億円の借り換え。
現在、兵庫県自身が、
その処理について検証を進めている。
私はここで、
また同じことを思った。
一体、兵庫県で何が起きていたのだろう。
そして、
斎藤県政になってから表面化したこの問題は、
今回の一連の騒動と何か関係があるのか。
それとも単なる偶然なのか。
ここは絶対に飛躍してはいけない。
今のところ、
告発文書問題と約490億円の借り換え問題が、
直接つながっていることを示す証拠は確認できていない。
だから次回は、
まず数字と公文書だけを見る。
そして最後に、
点と点は本当につながるのか。
そこを考えてみたい。
次回
【第10回】20年前の県政まで掘り返された――490億円の借り換え問題と、点と点は本当につながるのか
