最近、「クールジャパン機構」というものが気になって少し調べてみました。
正式名称は「株式会社海外需要開拓支援機構」。
日本のアニメ、漫画、食、ファッション、観光など、日本の魅力を海外に
売り込んでいくために2013年に設立された、いわゆる官民ファンドです。
最初に聞いたときは、
「国と民間企業が一緒になって、日本のコンテンツを世界に売っていく会社なんだな」
くらいに思っていました。
ところが、調べていくとどうも気になる数字が出てきます。
累積赤字は数百億円規模
クールジャパン機構は長年、かなり大きな累積損失を抱えています。
もちろん投資ですから、失敗することはあります。
むしろ民間企業だけではリスクが高くて投資しにくい分野にお金を出すのが
官民ファンドの役割でもあるので、
「赤字が出た=悪いことをしている」
という単純な話ではありません。
ただ、私が引っ掛かったのは別のところでした。
「官民」と言うけれど、ほとんど国のお金だった
現在の出資構成を調べてみると、おおむね
政府:約93%
民間:約7%
です。
これにはちょっと驚きました。
「官民ファンド」と聞くと、国と民間企業がある程度一緒にリスクを背負って
事業をするイメージを持っていたからです。
ところが実際には、圧倒的に国のお金が多い。
民間株主には、電通、博報堂、JTB、ANA、三越伊勢丹、髙島屋、パソナ、
バンダイナムコ、金融機関など、誰でも知っているような企業が並んでいます。
これだけの企業が集まり、各分野のプロが参加している。
それなのに巨額の累積赤字。
ここで素朴な疑問が出てきました。
本当に「運命共同体」として事業を成功させる仕組みになっていたのだろうか?
民間企業のリスクが小さすぎないか?
例えば、ものすごく単純化して考えてみます。
国が95億円、民間企業が5億円を出して100億円の事業を始めたとします。
失敗して価値が半分になれば、当然、民間企業も出資分については損をします。
そこは間違いありません。
ところが、その民間企業が同時に、
広告
イベント運営
コンサルティング
海外プロモーション
システム開発
などの仕事を、その事業や関連する政府事業から受注できるとしたらどうでしょう。
仮に5億円を出資していても、別のところで15億円の仕事を受注して利益を得られるのであれば、
「投資では損をしても、会社全体としては儲かる」
ということは十分あり得ます。
もちろん、これだけで不正という話ではありません。
仕事をして適正な対価を受け取るのは当然です。
ただし、制度として考えたとき、
「事業を成功させること」と「事業が動き続けて仕事を受注すること」
が必ずしも同じ利益にならない可能性があります。
ここがどうしても気になりました。
そこで電通について少し調べてみた
電通はクールジャパン機構の民間株主の一社です。
さらに、クールジャパン機構が10億円を出資した「MCIPホールディングス」という
海外向けエンターテインメント事業にも、電通自身が3億円を出資していました。
ここまでは、まさに官民一体の投資です。
ところが調べていくと、電通はクールジャパン機構とは別に、政府が実施していた
クールジャパン関連の国際広報事業も多数受注していました。
確認できた2014年度~2019年度だけでも、その契約額を合計すると約91.5億円。
さらに機構設立以前の2011年度の「クールジャパン復興キャンペーン」でも、
電通への約8億円規模の支出が確認できます。
ここは誤解のないように書いておきます。
約91.5億円は電通の「利益」ではありません。
広告会社ですから、テレビなどの媒体費、制作費、人件費、海外事業者への支払い、
再委託費などが当然掛かります。
また、これはクールジャパン機構から電通に91.5億円が支払われたという話でもありません。
政府が別途行ったクールジャパン関連の広報事業です。
したがって、
「電通が5億円出して91億円儲けた!」
という話にしてしまうのは間違いです。
それでも、なんとなくモヤモヤする
ただ、数字を並べてみると私はどうしても考えてしまいます。
民間企業は比較的小さな金額を出資する。
国は圧倒的に大きな資金を出す。
事業が失敗すれば、金額的には国側のダメージが圧倒的に大きい。
その一方で、参加する民間企業の中には、クールジャパンに関連する
政府事業を受注する会社もある。
これでは本当に、
「国も民間も同じ船に乗って、何としてでもこの事業を成功させよう」
という仕組みになっているのだろうか?
と思ってしまうのです。
本当に官民一体でやるなら
例えば国50億円、民間50億円。
あるいは少なくとも、民間側も失敗すれば相当痛い金額を出資する。
そうなれば、
「この事業、本当に海外で売れるのか?」
「この広告費は本当に必要なのか?」
「ここまで赤字なら撤退した方がいいんじゃないか?」
という判断も、より真剣になるのではないでしょうか。
自分のお金が大きく掛かっているからです。
逆に、失敗したときの大部分を国が負担する仕組みでは、どうしても民間だけで
投資するときとは緊張感が違ってしまうのではないか。
これは特定の企業が悪いという話ではなく、制度設計そのものの問題だと思います。
「利権だった」とまでは言えない。
でも……
今回いろいろ調べましたが、
「クールジャパン機構は特定企業を儲けさせるために作られた」
という証拠が出てきたわけではありません。
そこまで断定するつもりもありません。
ただ、
政府が圧倒的なリスクを負う一方、民間企業は比較的小さなリスクで参加できる。
そして一部の参加企業には、関連する政府事業を受注する機会もある。
この構造を知ってしまうと、
「本当にこれで良かったのかな?」
という疑問は残ります。
民間企業が本当に「世界で勝てる事業だ」と判断していたのなら、もっと自分たちの
お金を出しても良かったのではないでしょうか。
成功すれば一緒に喜ぶ。
失敗すれば一緒に痛みを負う。
本当の意味での「官民一体」とは、そういうものではないのかな?
クールジャパン機構について調べてみて、私はそんなことを考えてしまいました。
※この記事は公開されている政府資料、クールジャパン機構資料、企業発表等をもとに、
筆者個人が制度について考えたものです。
特定企業による違法行為や利益供与等を主張するものではありません。
