adore you 7 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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薄れゆく意識の中遠くでリョウの声が聞こえた。何かを叫んでいた。

地面に倒れていく筈だった私を誰かの腕が救った。抱きとめられたまま視界は消えていく。


どれくらい意識をなくしていただろう。覚醒を願っていたわけでもないのにおめおめと気が付いてしまった。
ただその異質な空間に郷愁の念を覚えた。目を開け最初に目にした見覚えのある天井。
見覚えだけじゃない、漂う香り全てが記憶にある。
その懐かしさに込み上げるものがあった。

「めぐる…起きた?」

必死に目を閉じてみたけれど…やっぱり無理だった。

「かず…ま?」

ベッド脇に座って心配気に覗き込んでいた。

「あの…私…」

「ごめん…めぐる…目の前で倒れ込んで。我慢できなくて余計なお世話はわかってたけど…体が動いて…」

「ううん、、ありがとう…でも…」

「シャリフから出てきためぐるが、呼び止められて…様子おかしいと思って見てたから…他にも誰か居たけど知らないな。めぐるをそのまま連れて帰ったから…」

「……そう」

「でも、あの女…何であんなとこに?しかもリョウって奴となんで顔見知りなんだ?」

「それより、貴方こそ…」

「………会いたくて。」

「………困る…私達はもう…」

何故か最後まで言えなかった。

「分かってる…ただ、幸せか気になって…」

「なんでそんな事今更言うの?結衣は?結衣はどうしたの?結婚するって。結衣は赤ちゃんできたって…」

「……いや、、、」

「大事にしてあげてよ。。私…幸せだったよ一馬といて…だから幸せになってよ。。私も幸せになるから…」


「今幸せか?」

「………うん」

「めぐるが幸せだったら…俺も幸せなんだって…今更気付いた…遅いけど」

何故今になって、、、言いかけてベッド脇のチェストが気になった

「ねぇ、、何?この薬、、どこか悪いの?」
処方箋の袋がいくつも置いてある。

「いや、ちょっと眠れないから眠剤。。」

「え?眠れないって…大丈夫なの?」

「俺の心配より、自分の体の心配しろよ…顔色悪いし…痩せたろ?」

「誰のせいよ……でも、貴方もお父様と仲直りされたのね?結衣と一緒の副社長とてもご機嫌だったわ」

「……仲直りしなくたって副社長は女好きだろ?」

「何それ…」

「それよりさ、商品開発の部長って本当ならその副社長に迫る程の人だったらしい…めぐるとの事で部長に怒られた…。おまえは間違ってるって…いいな。あんな人が父親だったらって感動した。心配したんだろうな…」

「部長。。。」
昔気質で親方気質の、熱い魂の人。
奥さんを病気で亡くして子供を1人で育てた。
愛妻家で再婚の話も生涯亡くなった妻しかいらないって断ってきた。

「愛妻家だもん、、、確かすごい大恋愛で奥様とは駆け落ちしたって聞いたかな…」

「へぇ、、、あの人そんな風に見えないけど案外恋愛体質なんだな…しかし、それに比べてあの狸…裏でどんな事やってるかわからないから気をつけろよ…それこそ部長を目の敵にしてるからな開発部なんて畑違いだしなんでだかわからないけどなんとなく敵意感じるから…おまえも気をつけろよ」

「え?どうしたの?っていうか…父親でしょ?貴方の狸だなんて…」

「父親だなんて口にしたくもない。開発部、今年も予算通らなかっただろ?多分…狸が邪魔したんじゃないかと思ってる。最初は息子の婚約を邪魔するためかと警戒してたけど…今もまだ裏で嫌がらせしてるみたいだから。それに加えて社長が代わって息子の代だろ?若い息子を抱き込んで好きな様にするつもりだろ」

憎々しげに罵る。
携帯がジャケットのポケットから鳴り響く

「あー、、あれ、結構鳴ってた」

「携帯?出た?」

「出た。」

「なんで出たのよ!誰かも分からないのに」

「リョウって奴だった」

ベッドから起き上がりジャケットの携帯を取り出した。

何十件と言わずに着信履歴が残っていた

なんだかバカバカしくなって、全てが虚像で…携帯をそのまま伏せた。

「掛け直せば?」

「…まぁ、そんな気分じゃないかな。」

「付き合ってるんだろ?その…そいつを…好…」

一馬の言葉を遮る。

「分かんない…今となったら…深入りする前で良かったかも…もう2度と傷つきたくないから」
とっくに心は深入りしていたけど、強がる様に吐き捨てた。

「ごめん…」

「大丈夫よ。貴方の事は気持ちに折り合いつけられたから…今回もきっと傷は軽いわ」

正直本心は折り合いなんてつけてなかった。なんならまだ、目の前にいる一馬を見て嬉しい気持ちがある。そんな自分が嫌になる。
けりをつけて、次に進もうとしてるのに邪魔される。試練にも思えた。

「……うん…だな」

一馬は見たこともない辛い表情で笑った

「なんで貴方が泣きそうなのよ…」

「……別に…」

それから他愛もない話をした。
懐かしい香り。優しい声。そのどれもがまだ胸に痛みをもたらす。

「……ねえ、会社。休んだりしてるって聞いたけど。ほんとに大丈夫?」

「俺の事心配?」

「うん。そりゃ…身体とか壊してない?」

「ははっ。めぐる。そこは気にしてないって言うべきだ。もしか俺が又期待したらどうするんだよ…残酷だな」

「だけど仕方ないわ…こんな事で嘘はつけないし」

「強がりはするけど?」

「!!」

やっぱりばれてる。一馬にはお見通し。

「さっきも言ったけどめぐるかなり痩せたな…食べてるか?って俺のせい?」

「そうだよ」

「ごめん…めぐる…ごめ…」

「うん…」

「あいつ…シャリフの見習い。怒ってるかも…目の前でかっさらったから…」

「…、、案外気にしてないかもよ。婚約者さんが登場したし」

「婚約者?あの女が?それはないだろ!だってあれは確か…」

「え?誰?知ってる?」

「いや、もしかしたらってだけだ。どっかで会った気がして…」

「まぁいいわ。どちらにせよ私の周りにはロクな男はいないってだけ…今日はありがとう。助けて…くれたのよね?あのままでも良かったのに…」

「あのままに出来るわけないだろ?」
 
「有り難いけどね、貴方は結衣の心配すべきよ…私とは終わったの!」

自分自身をも断ち切るように声を荒げる

「じゃあ、本当にありがとう。元気でね…」

「送るから」

そう言ってジャケットを羽織ろうとした一馬を制止した。
「やめて。自分で帰るから…放っといて欲しいの…じゃあ。最後に…はい」

彼に最後の挨拶として右手を差し出し握手を求めると、彼も納得したように握る。

一馬の瞳は私を見つめる。
居た堪れない私は思わず足元に視線を落とす。
そのまま2人は言葉が出なかった。

「………一馬…手…」
離そうとすると強く握る。

「…めぐる……」

最後の懇願は耳元で囁く。
右手を一瞬にして引き寄せ一馬の身体に包まれていた。懐かしい温もりに引き戻されそうになる。

「離したくない…」

「………一馬…無理だよ離して…一緒にいる今私がどれだけ苦しいか貴方には分からないっ私だって平気なフリしてるだけで平気なわけじゃない」

「ごめん…」

「じゃあ…さよなら」

彼の部屋から出ると、そこから一馬を振り返る事はなかった。

「はぁ、、何やってるんだ私は…」

心の声が口先から漏れてしまうほど、空虚だった。
携帯がどこかで振動しているのを感じながら、誰とも連絡を取るつもりはなかった。

何度も鳴る携帯に辟易しながら、無視し続けたとしても無意味だと一呼吸置き通話ボタンを押した。

「はい…」

「めぐ?…」

「はい。」 

「身体は大丈夫か?今どこ?何処に行って…あいつから何かされなかったか?」

繋がった瞬間に一気にまくし立てるようだった。

「大丈夫。何もされてないしむしろ助けてもらったみたい。もう家に着くわ」

「……あの…今から行って…」

「来ないで。ちょっと私も考えたいから…今は貴方の顔…見たくないの…」

「俺の事もう…好きじゃない?」

「っっ……」
よくそんな質問ができるものよと腹立たしく感じる。

「じゃあ、1つ聞くけど…あの人は?貴方の何?」

「あの人…ってカナ?カナは幼馴染で妹みたいなもんだけど…」

「でも本人は婚約者だって…私が一馬に捨てられた可哀想な女だって知ってたみたいだけどもしかして面白がってた?」

「そんな訳ないだろ?めぐの話なんてしてない。ましてや傷ついて苦しんでるの知ってて。。」

「信じたいよ。でも確かに貴方は何をしても何処かよそよそしく感じたし。関係が深まるほどに冷たくなる。求めるくせに来なくていいとか、、何かあるのかなって不安で。一馬に裏切られて、、その上貴方にまでなんてもう誰も信じられない。じゃあ何でその幼馴染が私のことを知ってるのよ」

帰りの道すがら話す事でもない。
何かいいかけたリョウを遮るように吐き捨てた。

「もういいわ。とりあえず誰にも会いたくない。」

一方的に電話を切り電源を落とした。

それからの日々は暫く、家と職場の往復で、それだけでも辛かった。

リョウは翌日、部屋の前で待っていた。
私は無視を決め込んだ。
無性に自分に対する腹立たしさでまともな話ができそうもなかった。

私が立ち止まる事なく部屋に入るのをどんな気持ちで見ていたかを思うと良心の呵責に苛まれたが、それすら弟妹を持つ自分ならではの感覚だろうと身に付いた甘さにも嫌気がさしていた。

それでなくとも会社では心配した一馬が事あるごとに開発部のフロアーに立ち寄り、話しかけてくる。それを見た人々の好奇の目にうんざりする。そして結衣の取り巻き達には未練がましく元婚約者に縋る女のレッテルを貼られている。これがウンザリしなくて何がウンザリするのか、、、食堂で面白おかしく話題に上るのを黙って聞いておける程人間ができていない。
お陰で開発部以外のフロアーには顔を出しづらくなり食堂すら行かなくなった。

結衣はというと最近入社した秘書課の新人教育を邪魔する事にかまけているようで私と一馬の事よりも新人いびりに邁進していると開発部では噂になっていた。一度は激しく言い争いをしていたという。
結衣と言い争える子ならば大丈夫じゃないかと若い秘書課の蕾を心配する男性社員を宥めた。

だからこんな風に部長命令であっても食堂前を通り資料室に行くなど不本意極まりなかった。

エレベーターを降りると人だかりができている。何やら騒然とした雰囲気。人の山の背後をするりと抜けて資料室に向かう。皆は騒ぎに夢中で都合よかった。

ふと足を止めたのは渦中の声には聞き覚えがあったからだった。
目を向けるとやはり声の主は結衣で周囲には取り巻き達が結衣に加勢するように囲んでいる。

「ちょっと!何してるの?」

思わず人波を掻き分け声をあげた。

「何よ…別に何してたわけじゃないわよ。新人教育の一環ていうやつかしら。仕事も覚えないし、皆んなでミーティングしてたのよ。部外者は口出さないでよ」

「それにしても1人に対してそんな人数で…確かに部外者だけどもうすこしやりようがあるじゃない」

「食事に出ればどっかのホテルのレストランで高級ランチ。昼食時間が終わっても帰らない。スケジュール管理も出来てないし、何?どっかのお嬢様がコネ入社って今時迷惑しかないわ。」

「そうなの?新人さん、、、え?」

初めて結衣を睨み返す新人の顔を見た。

「貴女は……」

「どうも…この前は。」

不本意ながらの挨拶だった。

「え、、っとカナさんだったかしら…あぁ、貴女が。。」

「えぇ。でも私…スケジュール管理なんて分からないし…何も教えてくれないからランチタイムに限りがあるのも知らないし。」

「え、、っと…そうね。きちんと規則を伝えてないなら秘書課のミスだけど…分からなければ貴女も自分から聞くべきだわ」

「聞くって?何を?」

「。。。ちょっとー、仕事は遊びじゃないんだから!ある程度の一般常識くらい身に付けて社会に出なさいよ…ねぇ?」

「…結衣。貴女はちょっと言い過ぎだと思うわ。新人教育って大義名分振りかざしてこんな大勢のいる前で複数で恥をかかせる言い方は尊敬できない。貴女…カナさんも。働きに出てきたなら相応の知識を持ってくるのが礼儀よ。」

「………」

外側の人波から歓声が上がる。
それが引き金で結衣は顔を真っ赤にして敵意を向けた。

「人の彼氏を未だに追いかけてる人間に言われたくないわ…捨てられたくせに」

「未だにって…私別に…」

「みっともないからすがらないでくれる?どっちが常識ないの?」

「……なんだこの騒ぎは…何かあったのか?」

たまたま開いたエレベーターの奥から声がする。

「シュウちゃん!」

傍のお嬢様が叫ぶ

「社長!!新しくきた社長だ…え?新人て…社長の知り合い?」

長身の若い青年がエレベーターから一歩出る。周囲を見渡すと皆はそのオーラに圧倒された。

「あ、君はいつかお会いしましたね。シャリフで…」

「………?」

「分からないかな。あの時はフラれたし…又お時間作って貰えたら嬉しいな」

「!!!」

このまま、このままいっそこの世から消えてしまえばいいい。
意識を完全になくすまでに私はそう考えていた。

adore you8へつづく