adore you 6 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
bigbang winner ikon ユンウネちゃん、李宏毅君 趙露思ちゃん、藤井美菜ちゃん応援しています。
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相変わらず、鬱々としながらも何とか日々を過ごしていた。
結衣の妊娠説も本当かどうか分からなかった。
ただ、その噂に打ちのめされたのは確かで、小さくなった筈の一馬への想いは全く持って健在であった事が重くのしかかった。
私は未だ彼を愛している。
人生の半分以上を共に過ごし、泣き笑いも酸いも甘いも全てを共有してきた。 

リョウに言わせればそれは
「依存だろ?」
と一刀両断されたが、果たしてただの依存だろうか。
今となればよく分からない。
卵から孵った雛が初めて見たものを親鳥と思うように、初めて異性として触れたのが一馬だったからそれを愛だと思い込んだのだろうか。

一馬はあれから何度か話をしたいと家にやって来たが私は受け入れなかった。顔も見たくない。これ以上幻滅したくない。それは勿論見抜けなかった自分にも。
ただ、もう一度会ってしまえば…一馬を忘れられなくなる恐怖もあった。

結衣とのあれは間違いだという言い訳、『記憶がない』という一馬の言葉を信じてしまいたくなる弱さ。

一馬の説明では結婚式の私へのサプライズについて二次会幹事であった結衣に呼び出され、話し込み飲んでいて気付いたら朝になっていたと何度も聞いた。
でも考えれば酒に強い一馬が飲まれるはずが無い。
記憶がないなんて無責任にもほどがある。
そんな言葉で私を懐柔できるつもりなのかと失望もする。

そして一馬を切り離して考えられるようになったのはBARシャリフの見習いバーテンダーのリョウという青年が大きく影響していた。
悲しみの渦中、何も言わずに居心地の良い場所と気を使わない寛げる空気をくれる。

別れて暫くは孤独が嫌で仕事帰りにシャリフを経由して帰宅していた。アルコールが目当てではなく誰かと会話をしたかった。マスターやリョウはその心情を理解して私の存在を許してくれた。

不思議な事に未だ見習い青年はただ、何も言わずにいつのまにか傍にいて、男女の、何某かがあるわけでなくただ温かい。存在が救いになっていた。

  結婚式の半年前に婚約破棄。それも同じ社内での間でなんて気まずいやら恥ずかしいやらで本来なら悲惨な話なのに、私は全く惨めな気持ちにならなかった。それは紛れもなく出会ったばかりの青年が私の心を癒し、労ってくれたからだろう。

傷付いた私の為に部のみんなで飲み会があった時も嫌な気持ちになっていないか、気分が沈んだら迎えに行こうかと連絡が入っていた。
近付きすぎずある程度の距離を保ちながらそれでいて折に触れ踏み込んだ心配をする。
距離を取っているようで詰めるその緩急に心地よさを感じていた。

「眠れない」

と言うとシャリフを閉めた後に帰路の途中で連絡をくれそのまま一晩中話をする。
ある時はシャリフで、たまたま鞄から落ちた携帯に一馬の着信が残っていた事で私は酷く動揺した。発作の様に胸が痛み息が苦しくなった。その時もリョウが傍で救ってくれた。徐々にリョウに対して心を開く自分がいた。
その日もそんな夜だった。
ただ、今考えると私の精神状態が不安定で、あのどうしようもない不安感から藁にもすがる気持ちで出した言葉が、思いもよらぬ方向に舵を切った。

「仕事終わった。今日はちゃんと眠れる?」

仕事終わりに生存確認するという彼の申し出はいつしか私の精神安定剤だった。ハスキーな声が耳に優しい。

「お疲れ様。うん。大丈夫…」
それから他愛もない話を続ける。
ひとしきり本日のおかしな客の話やマスターに惚れているおっかけ女子の話、今日教わったカクテルの説明をした後で沈黙が生まれた。
いつもならここで私から、「おやすみ」が言えるのに。今日は言えなかった。

「どうした?めぐ…眠れない?」

「………」

「眠れないんだろ?も少し話す?」
なんとも形容しがたい不安、恐怖がじわじわと背中を這い回っている。
何かを察知したのか予感めいたものかそれとも単純に一馬の着信でまだ傷が癒えていない事を証明されたからだろうか。

「……」

「 どうした?」

「…………」

この目の前の暗闇の正体をどう伝えれば良いか分からない。
ブラックホールが頭上に出現してやがていつか私を吸い込んで行く。そんな不安感だった。

「眠れないなら…行こうか?眠れるまで。。居ようか?」

「…………」

「このまま話してようか?」

「………来て…欲しい」

振り絞るのが精一杯だった

「わかった」

切れたばかりの電話を少し眺め、夜中に何を言ったんだと狼狽えた。
弱い、弱すぎる自分に嫌になりながら、もう大丈夫になったと、来なくても良いと言えない。
座り込んでどうすれば良いか絶望していた間にインターホンが鳴った。

「めぐさん…オレ…」

その声ですぐに扉を開けた。

「こらこら、こんな夜中に誰かも確認しないで開けるなんて危険だろ?」

入るなり指導される。

「他に誰が来るの?誰ももう来ないわ……あ、ごめん卑屈になった訳じゃなくて…一馬が仕事うまく行ってないみたいに噂があって…仕事も休みがちだって聞いて…」

多分笑って言えた筈だけど語尾は震えた。

「こんな風に心配したりして、誰でも信じ切って隙だらけだから…浮気…されたのかな」

一言を絞り出した瞬間に、リョウの腕は私を抱きしめた。

「そんなことない。めぐさんはなんも悪くない」

初めて私からしがみついて泣いた。
寂しくて苦しくて踠き苦しむ姿は恐らく惨めで醜いのに。

「…週末の夜になると怖い…いつも会ってた時間が無くなって…でも結衣の話ではその時も嘘つかれてたんだって事実を思い出して…深い井戸の底に落とされたまま取り残された気になるの…頭の中は一馬を信じたい気持ちもあって」
押し殺した感情が溢れた。

「そっか……それで?」

「急に孤独になって…この世に1人になったみたいで…」 

「うん……」

「……朝が来ない気がする…」

リョウは私を落ち着かせるように額に張り付いた髪を指で払うと

「朝は来るし、めぐは1人じゃない。どうして欲しい?俺に…」

覗き込む

「………」

「慰めて欲しい?」

腕の中は温かく、安らいだ。

「慰めって……?」

「せっく……す」
耳元で囁いた。
突然の生々しい言葉がきっかけで我に返り
私は思い切り首を振る

「何?やなの?じゃあ、どうしたい?」

「このまま…ねたい…」

腕の中が余りにも安心で僅かにまどろんだ、
心地よさが睡魔を運ぶ。

「このまま?」

いけないことをしているわけではないけれど、どこか背徳にも似た後ろめたいような変な気分だった。 

「うん。このまま…」

暫く沈黙が続き観念し溜息混じりに呟いた。

「………良いよ」

そのまま…ベッドルームまで抱き合ったまま、正確に言えば彼にしがみついたまま連れて行かれ、そしてベッドの上に転がった。

通常の若い男女ならば熱いキスをして、服の下から手を入れて指を這わせて、いつのまにか着ているものを剥がされて裸で組み伏せられてもおかしくない。
しかし実際の彼はそうしなかった。
しがみついて離れない私の体を包むようにしてゆっくりと頭を撫で、それから背中をトントンと何度か叩いた。眠りに最適なリズムで私を夢の世界へいとも簡単に導いてくれた。

朝、眠りに入った時のままの姿勢で、向かい合って抱き合ったまま目覚めた。
こんなに安らいで目覚めたのはいつぶりだろう。目を開けるとリョウはもう起きていて、しっかりと目が合う。
 
「ちょ、、めぐさん…あの」

「ん?リョウ。おはよ。ぐっすり眠れた。」

「あぁ、おはよう。それは良かった。うん…あ、でも待って。動かないでそのまま。」

「???どう言う事?え?」

「いや、、やっぱさ…朝はさ…健全な男子だしさ…こういうのは自分で自由効かないから…」

「え、、あっ!え???」

「こらこら、動くなよ…落ち着くまでな。うん…朝は男子は本体より先に起きちゃうから…」

自分に言い聞かせているのか、私に言っているのか分からない。

「分かった。動かないね。あはは…」

「あのなぁ、この状況がどれだけ奇跡だか分かってんの?本当。襲われてもおかしくない状況なんだけど?」

「ううん。分かってる。もし、、襲われてもそれは仕方ないかなってちょっと思ってた。でも、それよりも何だか安心してゆっくり眠れて…ありがとう。本当。」

「マジそれ!!でもまぁ、抱き枕になれたならよかった。結構キツいけど」

「うん…だけどさ弱ってる女に付け入るような卑怯はしないでしょ?」

「げ。それは言い方が卑怯!俺のジェントル精神に訴えかけるやり方?じゃあ即答しかねる。俺かなり頑張ったし。若いんだぜ?次は襲うからな」

「あはは。うん。ごめんね」

それがワザと元気になるようにふざけているのはいくら私が隙だらけで鈍感だとしてもピンとくる。

「生抱き枕で貸し出しして欲しい〜」
抱きついたまま言うと少し怒った様に睨む

「いやだ、それは酷ってもんでしょ?キスオプション付きなら考える」

「えー。うーんじゃあ良いよ」

「なんだそれもダメかー!」

「そうじゃなくて。良いよって…」

「え??」

「うん。だから…良いよ。しても」

本音は…私がしたかった。
いつも何かあっても助けに現れるリョウに心を開きたいと感じた。

「マジ?…いや、嘘だ…」

「だから良いって!じゃあ、はい。今日の分ね」

顔を近づけるとリョウは少し逃げ腰で

「いや、ちょっっ、、待って待って。マジ?」

「もう、何なの?私だって恥ずかしいのに頑張って近付いたのに」

「ご、ごめん。わかった!まさかの展開について行けなかっただけだから…心の準備して良い?気持ち変わらない?」

「……うん」

「あ、、、はいじゃあ、いきます!」

謎の掛け声をかけて、私を引き寄せる。ゆっくりと距離が縮まりやがて唇が軽く触れた。

「は!!ヤバい。やわらかっっいや…何言ってんだ。バカか俺」

「ねーねー、、心の中で話してくれない?」

思った以上に純粋な反応で驚いた。

「いや、俺本気で好きな人とした事なかったからなんか動揺してるわ…」
照れた様に顔を両手で隠した。

「いや、、だから心の中で話してよ…なんかこっちが恥ずかしいよ」

「わ!!ちょ、、今もしかして俺どさくさ紛れに告白した感じ?」

今度は青ざめている。

「忙しいね…赤くなったり青くなったり」

「何だよ。男の純情を…」

「ううん。からかってない。素直には嬉しい…でも、、まだ…」

人を信じるのが怖かった。

「うん、いや。分かってる。今のは事故的な発言だからノーカウントで。時期が来たらちゃんと言いたいから」

……

私は何も言わずに頷いた。
人の気持ちは変わるのだ。嬉しい気持ちの半分は疑う気持ちが抱き合わせて生まれていた。

それから彼は私から解放された。
背中を見送る私に振り向いた。

「又、シャリフ。来る?」

「うん…」

「………そっか。待ってるな」

「?どうしたの?」

「別に…じゃあ」

最後は笑顔で。だけど一瞬の微妙な表情の変化に気付いた。

リョウとの日々は毎日の電話ではとても楽しいのに、店に行くと暗い。

それでも顔を合わせれば楽しく会話が続く。
マスターを追っかけていた若い女性はいつのまにか店に来る人と出会い恋に落ち、マスターが振られた気分だと嘆く。 
「人生はそんなものですよ。タイミングを逃したらやっぱり歯車は合わなくなる。。次の機会が又一回り先になる」

「じゃあ、僕もタイミングを大事にしようかな」
背後から、見知らぬ男性が立っていた。

「あ、石田様。お久しぶりでございます」
マスターが席に案内する。リョウの顔は無表情で考えが読めない。

「いや、僕はこちらで頂きたいな。美しい方の隣で、、ダメかな?」
若そうな声だったが顔は見ることはできなかった。恐らく、一馬と体型が似ている。そんな男性らしい人物には体が拒否反応を示す。

「え?いえ…あの。私もう帰るつもりでしたので…すみません。」

「なんだ残念。又いつかまたお会いしたいな…」

「……すみません」

立ち上がると急いで出口に向かう。
扉を開けると階段を駆け上がる。
「ちょっと待ってめぐ!」

リョウが荷物を持って追いかけて来た。

そして震える私を見つめた。

「ごめん…めぐ…やっぱりもう此処には来ないで欲しい」

「え?何?突然…どうして?」

「あ、いや。なんか…簡単に声かけられるの見たくないし、まだ…男が怖いんだろう?」

「そんな…怖くない。大丈夫だから…来るな。なんて言わないで…要らないって言わないで…」

不要な存在だと言われた気がした。精神安定剤の断薬の診断を受けた様に不安が増した。
明日から何を生きがいにすれば良いのか…

「ごめん、、来ていい。来ていいから…」

その日は無言で帰宅した。何度もかかる電話も無視した。言い知れぬ底闇に取り憑かれそうだった。
リョウは店が終わるとすぐにやってきた。その時私の意思は固まった。

「さっきは。ごめん」  

「ううん。。ねぇお願いがある…」

「なに?おれで出来る事ならいいよ」

「貴方にしかできないし…言えない」

「光栄だな。なに?」

「抱いて欲しい…」

「え?」

驚く彼にキスをした。
固まったまま動かない。

「一馬を…忘れたいんじゃなくて…貴方を知りたいの…」

「………」

「……黙ってないでなんか言ってよ…ダメならいいから。」

離れようとした瞬間に捕まってしまう。

「ダメなわけない。ただ、、本当に良いのか?俺、多分…無茶苦茶にしてしまうし…」

「うん…無茶苦茶にして…欲しいの」

「やば、、マジで好きなんだ…俺」

泣きそうな顔で私を見つめると今度は深い深い気持ちを探る様なキスをくれた。そのキスは幾度も繰り返し降り注いだ。
途中、何故だか涙が溢れた。 

一馬との決別の涙なのか何なのかは説明つかない。心の中の蛇口が全開にされたようだった。
リョウはその涙に気付くと涙の痕に口付けをくれた。
「めぐ…ごめん…俺がまだ準備できない…嬉しいけど。。なんか…」

「な、なんで?私ごめん泣いたりして…これは違うの…なんか…」

「うん、分かってる。どうせ泣く程嬉しいんだろ?…ごめんな、俺が、、緊張しちゃって…本当ごめん。その代わり抱き枕で寝かせてあげるから…安心して」

わざとおちゃらけたように言う彼の優しさ。
低いリョウの声は私を例えようもない程の安堵をくれた。優しく抱えるように抱きしめる。胸に耳を傾けると鼓動が早鐘のように打っている。その脈打つ鼓動を聞いて彼の準備ができていないと言う言い分は嘘だと分かった。

私がまだ、私の方がまだ心の準備が出来ていなかったのを見抜いていたのだ。

こうなってしまってようやく自分の未熟さを目の当たりにする。「抱いて欲しい」等と恥もなくよく口に出来たと恥ずかしさが込み上げた。
いなくなった恋人への寂しさが8割を占めていたが彼への好意は確かにあった。
その8割をリョウに埋めて貰う為に彼への好意で正当化しようとしたのだ。

それらを全て理解した上でリョウは優しく丁寧に私を労わり、愛してくれた。
繋いだ手指から、絡ませた足先から、そして時々思い出したように交わすくちづけから全てが流れ込んでくる。
行為ではなく、心使いや1つの視線だけで徐々に私の中の一馬の記憶を癒し、やがて嵐が去った様に跡形もなく消し去った。
身体の結びつきは「めぐが心からそう望むまではしない」と言って直ぐに自分の言葉に後悔していた。本気で悔しがる姿が愛おしい。
安らぎに感謝する。

いつしか2人は約束をせずとも時間を共にする事が増えていた。そして、ごく自然に2人の距離は縮まっていった。
心の距離というべきであろうか。
身体は未だ、どうしても躊躇してしまう。
愛したいのに…何処かで一馬が存在している。
それでもリョウは後から思えば忍耐強く待っていてくれた。

リョウとの距離が縮まるという事は反対に一馬との距離が遠ざかっていくという事。
一馬との完全なる別れの日からいつのまにか2ヶ月が経過していた。

相変わらず職場では様々な噂の的となっていたようだがその頃には全てがどうでも良いとさえ思えていた。

繁忙期があって3日、4日ほどはリョウにも会えなかった。堪らず5日目にシャリフに向かった。

扉を開けるとリョウがいた。
「いらっしゃいませ」
言いながら私に気づくと笑顔の後少しばかり顔を歪めた。
通常であれば気付かないほどの僅かなものだったが、一馬との一件から、相手の顔色を判断する能力が長けてしまった。違和感に不安が襲う。

「…あれ、来ちゃまずかった?」

「いや、大丈夫だよ。。どうぞこちらへ」

マスターが奥からにこやかに迎えてくれる。
「いらっしゃい。待ってましたよ」

いつも私が座るリョウの前の席には若くて愛らしい、そしていかにもハイブランドな装いで固めた女性が座っていた。

私を一瞥するとあからさまに悪意を向ける。

臆しながら別の席に着いた。

「お忙しかったんですか?」
マスターの笑顔にここは敵陣ではないと安堵した。

「あ、はい。社長が代わって…いえ、代わってというか…以前から代わってたんですが海外で勉強されててようやく帰国されたんで…就任の準備などをして…部署の案内係を…」

「え?新社長…って……めぐが案内したの?いや、めぐさんが案内されたんですか?どんな社長?」

リョウが会社の話に食いつくのは珍しかった。

「あ、はい……若くて。。でもあまり…開発している商品に興味がないみたいで、、でも、何故私が案内係になったのか…美人秘書達もいるし、、」

「それは、商品をよく知る貴女だからでしょう」
マスターの言葉で納得している最中も
リョウの前の席に座る女性はリョウに向けて微笑む。
心のざわつきがますます広がる。

「そうですか。社長がね、、代わったとなると又色々大変ですね…」

「あ、はい。まぁ私は経営のことはあまり分からないんですが…社員はついていくだけなので…」

「まぁ!自分の働く会社の事がわからないなんて…社長も大変だわ」
女性から悪意の横槍が入る。

「華奈!おまえには関係ないだろ?」
リョウが険しい顔をした。

「貴方は黙ってて。関係ないんでしょ?」
リョウの前にいた女性は明らかに敵意をもって私に向かっている。

「あの…私、帰った方が良いかな…マスター。すみません。また来ます」

「ちょ、待って!送るから…」

リョウは慌ててカウンターから飛び出したがそれすら煩わしかった。

つくづくシャリフに縁がないのだろう、やっとの思いで来てもすぐに店を出る羽目になる悲運の自分を呪った。リョウの気持ちを利用して慰めだけを貰い、彼の気持ちに応えずにズルズルとした卑怯な自分がそう感じるのも烏滸がましい事だが今の気分はあの日、初めてこの店を訪れるきっかけとなった時と同じく、裏切りに遭った気分でならなかった。

一馬と別の女性が笑い合い、体を絡ませてキスをする姿を見た時と同じようなみぞおちの辺りに広がる冷たい重りが身体を制御不能にする。
もうここには来ない方が良いかもしれないと思いながら店を後にした。

「ちょっと!貴女っ」

さっきの女性が立っている。

「はい???あの……」

「貴女、めぐるさん??で良かったかしら」

「あ、はい…」

「話は聞いてます。貴女が婚約者に捨てられたって」

「え?」

立っていた場所は平坦であった筈なのに、グラグラと揺れて感じる。

「…………えぇ。そうですけど誰に…」

私は何が起きているか何とか思いを巡らせた。血の気が引いていくのを感じながらどうする事もできなかった。

「もちろん、リョウに決まってます可哀想な女がいるって。。店に来てもらう為に慰めてるみたいだけどやめてほしいんです」

「え、、、」
目の前が真っ暗になる。

「私とリョウは結婚の約束をしています。もし彼を好きでも諦めてください。」

「どう…いう事…?」

私の身体はそのまま地面に向かって傾いた。

adore you7へ続く