adore you 5 | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
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その日は朝から憂鬱だった。
何もかもがどうでもよかった。信じていた人に裏切られるなどこの世に生きる価値もない。と荒んでいた。 
それでも朝はやってくる。

一馬とシャリフに行った後、週が明けてから私は結衣に話があると呼び出した。
勤務を終えて、2人で近くのファミレスに入った。

結衣は美人で秘書課の華。
どの男性社員からも憧れの目で見られていると噂ではよく耳にする。
確かに可愛らしくて誰もが手を貸したくなるだろう。

「今日はどうしたの?結婚式の準備で忙しいんじゃないの?」

アイスコーヒーを頼む。
私はホットで。

「そう言えば、部長、すごくめぐの事褒めてた。商品開発の星だって。同期のエース同士の結婚って話題みたいよ」

運ばれたアイスコーヒーにミルクを回しながら笑った。

「うん。そう?褒められる事べつにしてないけど…それより結衣、わたしに話があるんじゃない?」

ストローを咥えながらキョトンとする。
長い睫毛に縁取られた大きな目が愛らしい。

「話?何の?」

「わたし見たのよ、、先週…給湯室で貴方と一馬が…」

結衣は背もたれに体を預けた。

「…なんだ。そっか。。じゃあ、この前の土曜の夜貴女とのデートを邪魔したり、翌日の打ち合わせ阻止したのも…バレてる?」

「え?」

「一馬さんと私…少し前から付き合ってる。謝らないわよ。別に…お互いに求めてるのは誰にも止められないし。あ、結婚前だから良いわよね?一馬さん、私の方が好きみたいだし…。私は結婚に拘らないから、婚約者寝取られた。なんて体裁悪くて可哀想だからどうする?そのまま結婚はしたら?」

「そんな、、友達の婚約者よ?」

「あは。友達だなんて…本当に貴女ははおめでたいのね。入社して出会って一度もそんな風に思った事ないわ。隣においとけば引き立て役程度かしら。そういう利用価値はあったけど。。そんな貴女が同期のエースと婚約なんてなんの冗談かと思ったわ」
悪びれもせずに笑う目の前の友人に失望した。否、失望したのは友人と思い信頼していたみる目のない自分にだ。

「分かったわ。もういいわ。」

「もういいって何?もしかして一馬さんくれるの?だって彼は副社長の息子よ?出世間違いない人材よ?」

「出世?どうでも良いわ。一馬が一馬だから婚約したし、一生を共に歩きたかった。でも彼に貴女という最愛の人が出来たなら私は身を引く。あの人が幸せなら別に。。実は先週から婚約破棄の話をしているの。でもなかなか」

「一馬さんがゴネてる?」

「……」

鋭い視線で睨みつけるのを目を合わせずに答えた。

「どうかしら」

「何なの?その同情した表情。いつだってお高く止まって、飄々としてる。今だって彼がゴネてるって聞いたら私が傷付くとでも思ったんでしょ?余計なお世話だわ。貴女さえ消えれば別に後は自分で彼を手に入れるから」

「あとは自分で手に入れるからって…じゃあまだ手に入れてないみたいね?まあいいわ。頑張ってね。じゃあ、お幸せに」

そう、絞り出すのが精一杯だった。
こんなに申し分ない容姿で、性格も明るく、仕事で叱られた時は寄り添って話を聞いてくれた。なぜ私の傍に?と疑問を持つ程だったが、答えは単純に大輪の薔薇を引き立てる脇役が必要だっただけだった。

信じていた2人によって絶望の淵に立たされている。

コーヒー代金だけをテーブルに置き、そのまま店を後にした。店を出た瞬間に手が震え、足はなかなか前に進んでくれない。思った以上にダメージを受けた様だった。
どこをどう歩いたろう、、見覚えのある路地に地下へ降りる階段。

シャリフだと気付いたが、こんな気持ちで何処にも寄る気分じゃない。ましてやあの眩しい程純粋な笑顔の青年を目にしたくない。
酷く汚してしまいたくなる。自分の腹黒さを私は知っている。そこまで落ちぶれたくはない。

地下BARの入り口を横目に通り過ぎ、何事も無いように駅に向かって歩く。

心臓がリズムを崩し息苦しい。

駅前の信号で人々と行き交うも避けきれずに肩がぶつかる。衝撃に翻弄されながら少しずつ前に押しやられた様だった。
対岸にいた人達はこちらに向かい進んで来る。それを迎え撃つようにこちらも歩んでいるつもりが青信号が点滅しても全く歩が進まない。歩道の中央部分で立っているのがやっとだった。

あぁ、もうこのまま車に轢かれても良いかも。
我ながらバカな思考に陥っていた。
初めてもう生きていたくないと思ってしまった。

立ち尽くした私を通り過ぎた人々の波を逆走する人がいた。

「めぐさん?やっぱり、、めぐさんだ。どうした?ちょっと危ないからとりあえず渡ろう」

腕を掴むとよろめく私を優しく誘導する青年。

顔を見上げなくともそれが誰かわかっている。今一番会いたく無い人物だった。

「リョウ君…」

「ちょっと…大丈夫?なにその青い顔…俺今からシャリフだけど…店でちょっと休む?」

安全な場所まで移動した私を覗き込む。

「うん、、あの…どこにも行きたくなくて…今日は帰るわ。ごめんね。また迷惑かけて…途中で足が動かな…くて」

「何があった?めぐさん…何でそんな泣いてるんだ?」

「え?泣いてる?私が?……あ、あら可笑しいわね。泣いてるつもりないのに…どうりでボヤけて前が見えないはず…」

「なんか…あった?こないだのあの男に何か…」

力なくだらりと落とした腕を取り手首の痕を確認する。
未だ幾らか残る赤い痕にそっと触れた。

「増えてはないみたいだな。。でも、あいつが関係してるだろ?」

「………」

駅前の道を少し行くと小さな公園がある。
レンガの小径に名も知らぬ雑草が伸びきって横たわる。
その恩恵でフカフカの地面は歩いていてもまるで地に足がついていないようだった。

暫く沈黙が続いた。私もとてもじゃなく他人を思いやる余裕はない。
1人でいたいという私の要望で、リョウは視界から遠ざかった。
公園の遊具に身を隠した様だった。

私はぼんやりと風の音を聞いた。
どの感覚も失われた気分だったが、段々と落ち着いた。
何故だか結衣を心底憎む事もできない。
かと言って一馬を嫌いにもなれない。私が身を引けば丸く収まるという答えも最善の選択だと自負していた。
なのにこの空しさは何だろう。

見上げると暗くなりかけた空に群れをなした鳥が巣に戻る為大きく旋回していた。

彼らから見ればちっぽけな私など取るに足りない存在だろう。
痛みも虚しさも絶望も今だけだ。きっと明日には痛みは薄れて笑える筈。
いつだってそう踏ん張ってきた。

一息吐くと、靴を脱ぎ草の上に立ってみた。
隠れていたリョウが慌てて出てくる。

「え?どうしたの?めぐさん…靴脱いで…」

「なんか、、草の上歩くの気持ちいいね。浮いてるみたい」

笑ってしまった。
本当にふわふわと浮上しているように思えた。

「考えすぎたらバカバカしくなっちゃったわ」

するとリョウも靴を脱ぐ。
「なんの儀式だよこれ!」

「ね?貴方の話し聞かせてくれる?私ばっかり変な所知られてて嫌だわ。。じゃあ、質問1彼女は?」

「え?彼女?今はいない…ってか、居たのか?アレは…なんだ?」

「どういう事?ちょっと…ひょっとしてかなり遊び人?」

「違う違う。彼女っていうかよく纏わり付いてキャンキャン吠える子犬みたいな、妹みたいなのは居たけど近所に。。彼女という括りじゃなかったしな…そう言われれば今までNO彼女。」

「え?じゃあ、、初体験は?まさか未だって事はないよね?」

「は!何聞いてんの?初体験?彼女じゃなくてもできるじゃん」

「うそ!酷いそれは!一番嫌いそういうの」

「ご、ごめん。。ごめん?ってなんで謝んの俺…。けど、本気で好きになるとかそういうのちょっと怖いからセーブしてるかも…1つは女は信用ならないから。地位に弱いから貧乏バーテン見習いなんて目もくれない。」

「なんで好きになるのが怖いの?」

「見境いなくなりそうだし、気持ちコントロールできない自分って…恐怖でしょ??めぐさんもさっき操縦不能になってたけど…何があった?」

リョウは振り向き、悲しげに見つめると
何故こうなったのかを聞き出そうとした。それでも私は何もかもを話し、異性の彼の同情を引くのはプライドが許さなかった。

「もう、かなり落ち着いたわ。この前から変なの。感情がうまく制御できなくて…だけど大丈夫。もう。」

彼はため息をつく
「…話してくれって言っても話さないよね?」

「ごめん。可愛げない女ってよく言われる。でも、婚約破棄くらいで弱ってる話なんてしたくないし」

「婚約破棄?」

「あ、話してしまった私…」

「あはは。めぐさん。可愛いよ!弱ってるの?」

「全然。大丈夫!」
そんな筈はなかったがどうしてか強がった。

そんな私の頭をポンと優しく叩くと

「強がりなお姉さんだな」

彼は笑った。
胸の奥がざわついた。それから、彼は私の意思を汲んで甘い缶コーヒーを持たせると駅迄付き添ってくれた。

「何だかリョウくんとは良い友達になれそう…」

「なんで?」

「出会いから最低部分見せてるから何だか気楽なの」

「そっか、うん…友達でも良いよ。最初はね」

「え?」

「何でもないよ。誰かに付けられた傷は別の誰かに消毒してもらうとすぐに治るって…知ってる?」

「???知らない…偉人の言葉?哲学か何か?」

「うん、そう。」

ごく自然に目の前に差し出された手のひらに、反射的に手を重ねてしまう。

リョウはその手を捕まえると私の手首のうっすらと残った痣にキスをした。

「え??な、何?」

「傷が早く治るように!さっきのは俺の格言。。ww」

「あ、、ありがとう……?」

照れ臭くてさっさと改札の中へ向かった。

「あの子、案外危険かも…」

純粋な笑顔の中にもしたたかな男の傲慢さを垣間見た気がした。

それから暫くして、私と一馬は正式に別れた。社内では結衣と一馬と私の三角関係が其処此処で噂されている。
それを知らない顔して仕事に没頭した。

結衣の取り巻きや、男性社員はあからさまにすれ違いざま嫌味な笑顔を向けた。

「相手が結衣さんなら仕方ないよね、ただの頭良いだけの堅物女だもん…何処がいいんだかって思ってた」

なんて言葉も耳にした。苦しかったし泣きたかった。逃げ出したかったけどしなかった。
堅物女だから。確かに。
私はそれは胸に刺さったけれど、事実だと甘んじて受けた。
結婚の報告をしていた部長に破談の話をする時、一番堪えた。私を入社当時から可愛がってくれた部長は本来ならもっともっと上の地位に居た筈。当時の先輩の罪を被り一次降格処分されていた。永らくの処分が解けて又順調に這い上がってきた言わば叩き上げ。

彼が一番心配し、そして気遣ってくれた。商品開発部の皆も一様に同じだった。
結衣と一馬の噂を聞き、怒ってくれる人もいた。

私はそれだけでどうにか溜飲を下げるようにしていた。

どうにも心が騒がしい時、落ち着かない時はシャリフで少し危険な彼と他愛ない下らない話をして紛らわせた。リュウも又そんな私の気持ちを恐らく知っていていつも笑わせてくれた。

ある日は客の1人にもらったと、お笑いを観に行こうと誘われた。興味はなかったが、笑いたかった。
笑って吹き飛ばしたかった。

意外と笑えた。笑いながら此処に一馬がいたら。なんて思ってしまって涙が込み上げて嗚咽する程泣けた、気付けばリョウが手を握ってくれていた。

相変わらず俺は危険な男だと自虐し耳元で囁いた。泣きたい時に笑わずに泣けと言う。
笑いの場で爆笑しながら泣くという、奇妙な女が私だった。

そんな日々を過ごしていたある日、結衣が妊娠しているという噂が耳に届いた。
残業し、社を後にした私の眼前に副社長の車に結衣が乗っているのを見た数日後だった。
副社長は一馬の父親だから息子の嫁として受け入れられたのだろう。私はなかなか認めてもらえなかった。部長も副社長に掛け合ってくれ、反対を押し切る形で婚約した私と、すんなり受け入れてもらえる結衣。虚しさばかりが私を包む。

結衣と一馬の話。何処かでこんな日が来るのではないかと覚悟を決めていた割に実際にそうなると打ちのめされた。
やはり私はまだ一馬を忘れていない。

その事実に絶望してしまった。
そんな事知りたくなかった。

adore you6へ続く