僕らの花はいつ開く | **arcano**・・・秘密ブログ

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韓流、華流ドラマその後二次小説、日本人が書く韓流ドラマ風小説など。オリジナルも少々。
bigbang winner ikon ユンウネちゃん、李宏毅君 趙露思ちゃん、藤井美菜ちゃん応援しています。
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モニターに映る彼女を見てセキュリティロックを外す。

エレベーターが階に到着するまでを逆算して部屋中をウロウロと落ち着かなく歩き回る。

浮き足立った自分にふと気付き咳払いで一蹴した。
気付くと困り顔の彼女が立っていた。

『あ、、ごめん出迎えもしなくて』

『ううん。エレベーター降りたら部屋だったからびっくりしちゃって』

『あぁ、この階はここしかないから』

『お、お邪魔しても大丈夫ですか?』

恐る恐る一歩を踏み出す彼女
『あぁ、どうぞ入って』
目の前を通過する瞬間ふわりと柔らかな香りが鼻腔をくすぐる。

ほんの刹那でそれが何の香りであるか確かめようと近付けば忽ち気でも触れたかと警戒される。そう容易に推測され意識的に一定の距離を置いた。

そうすれば芳香を追求せずに済む。

『何か飲む?お腹とかスイテナイ?』

韓国語の合間に聞こえた母国語に彼女は一瞬振り向いた。

大きな目が更に大きく輝いている

『日本語!?空いてない?って聞いてくれたの?!』

輝ける笑顔を向けた。日本語に驚いた彼女が見せた表情に逆に狼狽えた訳で、実に屈託無く笑う罪深い女性である。

『え?もしかして言葉間違えた?』

『ううん。間違ってない。驚いただけ。』

『驚いた?』

『気遣ってくれてるなって嬉しくなったの。。あ、お腹は空いてないわ。早速本を何冊かお借りしたいの』

『分かった。書斎っていうか本はそっちの部屋だから勝手に選んでいいよ。なんか飲み物用意しとくから』

『ありがとうあ、それからこれ甘い物とか好き?』

『何?』

『つまらないものですがどうぞ』

『つまらない物?食べ物?』

『うふふ。日本ではそういってあまり高価でないと気を遣わせないように謙遜してお土産を渡すのよ。でも本当は食べてもらいたくて選んだの一生懸命』

『僕に?ありがとう』

『いいえ、お口に合えば良いのですが』

彼女はいたずらっぽく笑った。

『差し入れ?』

『まぁ似てるけど違う。。』

手土産を受け取る。

『あ、こっちどうぞ』

目的の書斎へと案内する。
彼女は天井から床までびっしりと壁一面の本に感嘆の声を上げる。

『わ、凄い天井迄ある、、これ全部読んだの?』

『あまり時間ないけど読める時は読むよ』

『オススメはありますか?』

『最近はこういうのとか』

『あ、、ダンテ?』

『知ってる?好みによるから無理は言わないけどお薦めするよ』

分厚い一冊を手渡した。

目を細めて表紙を見つめそして項目をめくる。

『どう?』

『うん昔読んだ事あるけど今巡り会う事に意味があるかも』

『昔とは違う感じ方かもしれないって?』

『そう。』

パラパラと頁をめくりながら文字の世界に突如吸い込まれて行く彼女を見つめた。

肩にかかる髪が美しく揺れている。
陽に透けて茶色がかった髪は柔らかそうにウェーブしている。


そもそも、不思議な再会だった。

メンバーの日本でのソロ活動に顔を出したのがきっかけで、偶然に思わず息を飲んだ。それまで何度かすれ違う程度の出会いが伏線の様に起きていたからだ。

スポット的な休みで、本来ならゆっくりしたい。でも何故かその時は外に出て行きたい気持ちでいっぱいだった。無性に誰かに会いたかった。

楽屋で談笑していると同じように休みのメンバーが現れ結局こうして集う事にやけにテンションが上がった。

暗い気持ちも思い出されたがその事に気付いたメンバーは『大丈夫だ。うまくいく』と笑った。
『何がだ?』と誤魔化すが長年の仲間にはこの胸の内は何もかもお見通しだった。

肩に手を乗せ『今日のコンサートの成功だよ当たり前だろ?俺たち応援にきたんだろ?』

全てを含んで安心感をくれるこの存在に救われるばかりだ。

『あ、そう言えば、今回バラード、ヴァイオリンとピアノ生演奏なんだよ。奏者双子なんだけどびっくりするほど良いの。聴いてみる?アレンジがすごくよくてさ』

『へぇ、、聴いてみたい。』

『じゃ、ちょっと呼んできて貰おう。彼女ら自身可愛いから狙わないでね。仕事場だから』

相変わらず生真面目に釘を刺す男だった。

『末っ子いないから大丈夫デショ?』

冗談に笑い合う。不安を掻き消すひとときだった。

暫くすると今から聴きたいという我儘を聞いてヴァイオリンを手にした女性とピアニストが入ってくる。

『わ、そっくり。』

『あ、初めまして。よろしくお願いします。』

韓国語で挨拶をすると照れ隠しに肩を竦めた。可愛いらしさとある種艶めいた雰囲気もある。しかも双子で末弟がいたら楽屋がさぞ『美女が2倍』と言って本人ばかり盛り上がっただろうと想像できた。

『え?あれ…韓国語話せるの?』

驚きの声で問うとはにかみながら愛らしく笑う。

『ちょっとだけ挨拶と少し日常会話程度なら。あ、でも今日はペラペラの友人が来てるんでここに呼んでも良いですか?韓国で時々仕事もしてるんですよ。久々に帰って来てて。彼女にも聴かせたくて』

『へぇ、今日来てるの?どうぞ入って貰おうよ韓国で仕事って何してる人かな、、、』

『この前までは映画撮ってましたけど…では呼んで来ますね』

そして双子の1人と共に入って来た女性に誰もが目を見開いた。

圧倒的な光がそこに集まったように楽屋の一同が停止した。

『こんにちは初めまして』

『あ』

『あ、、、』

華美なものではないファッションでも着ている者を映すのか清楚で上質を纏うその人と目が合うなり長らく止まっていた時が動き出したように感じた。

この再会が何かを齎したのかも知れない。

『あ?ってなんだ?もしかして知り合い?…あ、でもなんか…見た事ある?俺たち知ってる?』

『あは…勿論。知らない人いないと思う』

『いや、、まぁ何度かすれ違った?』

『えぇ、、何度か…』

『事務所同士が近いのかな』

『……はい。』

照れた様子で足元ばかりを見つめる彼女をからかいたい。悪戯心が湧き上がる。

『偶然なのかな?いや、それとも追っかけてきた?僕らのファンとか?あ、もしかして僕のファン?』

わざと意地の悪い一言を投げた

『ちが!違いますよ!』

怒ると上気して顔が赤く見える

『なんだ違うんだ…残念』

『いえ、違うって言うか…違う事はないけど…』

『ないけど?あ!僕を知らない?』

『そ!そんな訳ないでしょ?嫌いな人がいるわけないし。。街中でも流れてるし海外でも有名で、、あ…もしかしてわざと?わざとからかったんですか?』

『あはは…わざと!ごめん。』

『最悪!全然イメージと違うんですね』

怒って尖らせた唇から目が離せずにいた。

『楽しそうだな、、久しぶりに』

仲間の1人が割り込む。

『あ?いや…別に』

確かに知らぬ間に笑っていた事に気付いた。
否定しようとすれば仲間達はさも意味ありげに笑みを浮かべる。

『じゃ、楽屋じゃなんだからさちょっとホールいこうよ。リハ前の休憩だから』

そう言うとぞろぞろと部屋を後にする

『危ない、そこコードあるから』

『あ、はい。大丈夫。』

細い足首がいつ、とぐろを巻いたコードに引っかかってしまうかと内心ハラハラしながらも平然としてみせた。

『あ、、それ』

『あ、これ。本?』

徐に彼女が指差したのは片手に持っていた一冊の書籍だった。

『本読むの好きなんですか?』

『読みますけど?好きっていうかまぁ…作曲したり作詞したりするのに刺激?』

彼女と並んで歩いていた双子の音楽家は乱雑に転がった障害物を華麗に回避していた。暗がりのステージ裏も慣れた様に進み行く姿に安心感が込み上げる。
ステージにてさしずめリハーサルの更にリハーサルが始まる。

余りにも甘美で細やかでいて力のある楽器の音に皆も笑顔がこぼれた。成功の予感が実感となった。

『最高だ!良いよ。。良かったな』

拍手喝采の中、ふと振り返る

『え?泣いてる??』

隣で聴いていた彼女は誰にも知られぬ様に咄嗟に指の腹で涙を拭った。

『あ、、大丈夫です。ちょっとバラードが良すぎて歌…音色が胸に…』

ただ立ち尽くしたまま拭う事も忘れ大きな瞳から涙の粒が零れる様子をもう少し見ていたい気持ちになった。

『何かあったとか?ですか?泣くような事』

『別にただ感動しただけです。それに貴方があんな本持って』

『本?あぁ、詩集?』

『えぇ、、ごめんなさい。少しナーバスになってて。。』

『いや、いいんだ。。君の気分を悪くしたのが僕のさっきの冗談じゃなければ』

『さっきの冗談て?』

『僕を追いかけてきた?ってやつ』

『ああ。そんな事で気を悪くなんてしませんよ』

その言葉に顔を上げた彼女は笑った。思えばあの笑顔が初めて釘付けにされた笑顔というものかも知れない。

『?!さんっ!』

『あ?あぁ、どうした?』

『本に夢中になってて気づいたら時間経ってたからごめんなさい集中しすぎてしまって。それにしてもぼんやりして、貴方こそどうしたの?』

『うん、、ちょっと思い出してて出会いっていうか、再会っていうか?』

『え?私たち?』

『そう。。君は泣いていたし…ちょっとムカついた』

『え?ムカ?ムカついた?』
大きな瞳がさらに大きくなる。

『なんで?』

『いやぁ、感動して泣いたなら俺が泣かせたいしね。他の奴の歌で泣かれるのはイヤだな』

『泣いたっていうかちょっと目から汗が……いや…あの時はちょっと…落ち込んでたから…』

その話になると言葉に詰まる彼女にその理由は深く聞けなかった。

『まぁでも、楽屋に入って来た時は読書仲間になるなんて…』

『それはこちらのセリフよ。本を読む時間さえ無さそうなのに…』

『移動中にね、本読むか曲作るか移動距離によるけど』

『ずっと起きてるの?』

『うん。大体最近はまぁ色々あってゆっくりは眠れてないかもソロ活動も忙しいしね』

『あ、仕事の立ち入った事を聞いてしまってごめんなさい…』

『いや、、あ、コーヒーで良いかな?淹れたけどちょっと冷めたかも』

『わ、嬉しい。ありがとう夢中になると飲むのも食べるのも忘れちゃって』

こうして不思議な再会から始まった「読書の会」は激しい感情の揺さぶりというより静かに徐々に人知れず浸透するように彼女に心奪われていくものとなった。