映画史に残る名作として知られる「市民ケーン」の共同脚本家であるハーマン・J・マンキーウィッツの伝記映画。

 

 

 

 

 

 

    -  Mank  - 監督 デヴィッド・フィンチャー 脚本 ジャック・フィンチャー

 

 出演 ゲイリー・オールドマン、アマンダ・サイフレッド、チャールズ・ダンス 他

 

こちらは2020年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(131分)

 

 

 

 

  1930年代のハリウッド。アルコール依存症に悩む映画脚本家の“マンク”ことハーマン・J・マンキーウィッツは、気鋭の新人オーソン・ウェルズの初監督作の脚本に取り掛かっていた。

 

 

 

 

メディア王と呼ばれたハーストをモデルにした作品で、発表されればショウビズ界から大きな反発を招くことは必至だった。かつてハーストと良好な関係にあったマンクがなぜ、スキャンダラスな作品の執筆に挑んだか。話は数年前にさかのぼる、、。

 

 

 

 

第93回アカデミー賞では作品、監督、主演男優、助演女優など同年度最多の計10部門でノミネートされ、撮影、美術の2部門で受賞を果たした本作。 あの「ゴーン・ガール」から6年、その後テレビなんかをやっていたものだから、これが久々の映画監督作品となった我らがデヴィッド・フィンチャー。

 

 

 

 

その上、主演があのゲイリー・オールドマンという訳ですから観ないわけにはいきません。 さてそのお話ですが、映画史に残る名作「市民ケーン」の脚本を執筆したハーマン・J・マンキーウィッツこと通称モンクが如何にして「市民ケーン」の脚本を完成させたかの誕生秘話にスポットを当てた物語。

 

 

 

 

とはいえこの映画、史実を忠実に再現したノンフィクションではなく、史実をベースに大きく脚色した物語で、その多くは創作された作品であります。その為か場面転換ごとに脚本を書いているようなタイプの文字が画面に印字されるという憎い演出が施されています。

 

 

 

 

という事で、作家として執筆の苦悩や生みの苦しみ、オーソン・ウェルズや映画会社とのバトル、「バラの蕾」という言葉がどのようにして誕生したのか、、といった人間ドラマを期待したのですが、今回もその予想は裏切られ、「市民ケーン」の脚本執筆を軸にしてはいるものの、そこへ行きつくまでのモンクと当時の映画業界、そして政治絡みの巨大なドラマが描かれたものでした。

 

 

 

 

驚いたのがこの映画の脚本を書いたのがフィンチャーの父親であるジャック・フィンチャーが2003年に書き上げた遺稿を映画化した作品という意外性。 ちょっとフィンチャーらしからぬ人間味を感じさせるエピソードですよね。

 

 

 

 

で内容ですが、かなり前に「市民ケーン」を観てはいるものの、今回の為に観返す事はせずに「モンク」を鑑賞したのですが、大まかには問題なく観る事が出来ました。 ただ全く観た事がなくても話の筋は追えますが、観ておいた方がより楽しめる作品ではあります。

 

 

 

 

それは作品の性質上、この「モンク」という作品が「市民ケーン」の作りをオマージュした構成になっている部分が大きく、40年代の現在と30年代の過去を回想という形で行き来して語られるという「市民ケーン」と同じ方法を意図的に行っています

 

 

 

 

映像も「市民ケーン」を意識した陰影の利いた画面や、手前から遠景までピントが合っているパンフォーカスや特徴的なディゾルブ、またフィルムチェンジの合図になっていた画面右上に出るパンチ跡(刑事コロンボ/秒読みの殺人)をあえて入れ込んでいたりするフィンチャーらしい映像のこだわりがよく現れています。

 

 

 

 

ただ主人公モンク自体あまり知られていない人物である上に、過去現在を度々行き来する構成に混乱するだけでなく、実在した登場人物も多い為、ストーリーを追うばかりか状況を把握するのに苦労する場面も多々ある所が難点ではあります。

 

 

 

 

「市民ケーン」の脚本を執筆するマンクの描写やオーソン・ウェルズとの場面は僅かで、それ以上にマンクという人物と当時の映画界、そして社会主義への脅威という政治や選挙、そしてプロパガンダといった時代背景が色濃く描かれていて良く言えば重圧なドラマ、悪く言えば鈍重で苦しい人間ドラマがメインで描かれています。

 

 

 

 

少ない出番ながら登場するオーソン・ウェルズが度々口にする「市民ケーン」の前に製作する予定だった「闇の奥」という作品。資金面で流れた企画でしたが、後に同じ原作で舞台をベトナム戦争に移したコッポラの「地獄の黙示録」が好きで原作も読んだ私としては、この企画が頓挫した話こそ観たかったな~と妄想しちゃいましたよ。

 

 

 

 

ここといった物語上のピークが薄く、やや凡調気味に感じてしまう作品ですが、流石のゲイリー・オールドマンの演技やアマンダ・サイフレッドの美しさといった演者の好演は素敵ですし、モノクロを生かしたこだわりの映像や美術、衣装のヴィジュアルはそれだけで見応えがあります。

 

 

 

 

ただ不思議なのは、こういった映画を観た後には大抵そのテーマになっている作品をすぐ観たくなるものなのですが、この「モンク」を観た後、再び「市民ケーン」を鑑賞したくなるかというとそうでもないというのが正直な感想で、そこにこの作品の微妙さが表れているのかも知れません。 ほぼ内容や創造に触れられてないという、、

 

 

 

 

とまぁ、これまでのフィンチャー作品に期待してしまうスリルやドキドキ感は薄味の本作ですが、デヴィッド・フィンチャー好きとしてはこれを機に、リドリー・スコットのようにアクティブに映画を量産してほしいと切に願うばかりの私。

 

 

 

 

ゲイリー・オールドマンの演技と美しい映像、素敵な音楽にフィンチャーのこだわりが隅々まで感じれれる作品となっておりますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー