大藪春彦の原作を、「氾濫」の白坂依志夫が脚色し「大人には分らない・青春白書」の須川栄三が監督したスリラー。パースペクタ立体音響。

 

 

 

 

 

 

           -  野獣死すべし  - 監督 須川栄三   原作 大藪春彦

 

 出演 仲代達矢 、小泉博 、東野英治郎 、団令子 、中村伸郎 、白川由美  他

 

こちらは1959年制作の 日本映画 日本 です。(95分)

 

 

 

 

  「岡田さん、、」深夜の住宅街を歩く岡田刑事は車の中から呼びかける声に近づいた。 と小さく鋭い銃声、岡田は歩道に倒れた。 車から降りたった青年、伊達邦彦であった。 岡田のレボルバー拳銃と警察手帳をポケットにつっ込み、死体を車の後部に押し込むと、シボレーはすごいスピードで走り出した。 引金を引いてから一分とたっていない

 

 

 

 

伊達邦彦は大学院の学生だった。 ハードボイルド文学の杉村教授のアルバイトをする傍ら、論文をアメリカのある財団の主催するコンクールに出して留学の機会をねらっていた。 秀才、勤勉、誠実というのがもっぱらの評判だ。 サッカーで鍛えた強靭な体、巧みな射撃術、冷徹無比な頭脳。 その彼に完全犯罪の夢がくすぶり始めていた。

 

 

 

 

動機はない。 殺す瞬間のスリルと殺人の英雄らしさを味わいたい、それだけだった。 女にしてもそうだ。 彼は決して一人の女を三度以上愛さない。妙子も例外ではなかった。

 

 

 

 

乗り捨てられたシボレーから岡田の死体が発見され捜査網がはられた。 新米刑事真杉もその一人だ。伊達は岡田のレボルバーと警察手帳を巧みに使い、国際賭博団の根城「マンドリン」を襲っては留学資金をためていた。

 

 

 

 

数日後、伊達は血眼になって彼を捜している賭博団の用心棒、三田と安に出会った。 行きずりのゲイボーイの手をつかむと、伊達は路上のキャデラックで逃げた。場末の川端で三田に追いつめられた。一瞬ゲイの手が離された。悲鳴をあげて駈け出したゲイを追う三田は伊達の射つレボルバーに倒れた。

 

 

 

 

捜査は進まなかった。当局は見当違いのやくざ関係を洗っていた。一人真杉にはこれが意外な者の犯行と思えた。新聞でみた杉村教授の現代犯罪論が真杉の気をひいた。教授を訪れた真杉は伊達を見てあっと叫んだ。この男だ!

 

 

 

 

この男こそ教授の云う「時代が創造した新しい犯罪者」に他ならない。犯人は伊達だ、真杉は信じた。留学資金をかせぐ伊達の最後の仕事は大学の入学金を奪うことだった伊達は手塚という男と知り合い、二人は大学を襲った。 筋書通りに運んだが、、

 

 

 

 

T〇UTAYAで度々目が合ったこの映画。80年の松田優作主演作が好きな私としてはなかなか手を出すのに躊躇する作品ではありましたが、ジャケット写真に写る仲代達矢の勇姿に魅せられて遂にレンタルしてみる事にいたしました。

 

 

 

 

本作は大藪春彦デビュー作「野獣死すべし」の最初の映画化作品で、アレンジの加わった松田優作の作品よりも概ね原作に近い内容になっているという所も、原作未読の私には興味深くて惹かれるものがありました。

 

 

 

 

ついつい80年のイメージがあった為、映画がモノクロだった事にまず驚きました。 最初の刑事殺害を起こし、その遺体を車に乗せて夜の街を疾走する主人公伊達邦彦。 フィルムノワールな映像の雰囲気とジャズ風の音楽がとっても洒落なオープニングです。

 

 

 

 

表面的には真面目で実直な大学生を演じながら、心の中では社会に対する憎悪を燃え上がらせ、金と力と武器、そして行動によって既成の社会を無視してのし上がろうとする伊達邦彦の犯罪と思想。その合わせ鏡ともいえる法の番人、警察の新米刑事真杉との対比と捜査が描かれていきます。

 

 

 

 

この冷徹な主人公伊達を演じているのが仲代達矢、社会に不満をたぎらせ心の奥に闇を抱えた男の不気味さを、あの爬虫類のような目で見事に演じています。 彼の異常性を感じる場面は、バーで花売りの老婆に金をちらつかせ歌と踊りを披露しろと言うシーン。 哀れに踊る老婆とそれを見て笑う伊達の構図は資本主義社会の皮肉に見えます

 

 

 

 

それを追うベテラン東野英治郎と新米小泉博の刑事コンビは正に昭和の匂いがプンプンの子弟関係。 それでもこの目的が理解出来ない伊達の犯罪動機に、新米小泉が迷い共感する若者像には斬新な部分も感じられました。

 

 

 

 

本作の一番の魅力は夜のシーン。モノクロに写される闇の暗さと車のヘッドライトがこの映画のハードボイルドな雰囲気を引き立てます。 車のカーチェイスや銃撃戦の緊迫感。道路に水を張って光の反射を生かしたり、火を付けた車をクレーンで撮影したりとフィルムノワール的な映像に対するこだわりもしっかりと見えました。

 

 

 

 

反面、説明的なセリフや言い回しが多かったり、ピストルがバキューン!という迫力の無い銃声だったり、血糊もなく撃たれたリアクションのみという時代的、技術的な部分にちょっと残念に思う所もありました。

 

 

 

 

とはいえ当時としては斬新なサイコパスで猟奇的なアンチヒーローを主人公に、アンダーグラウンドで反社会的な犯罪をテーマにしたこの作品はかなりショッキングだったのではないでしょうか?  唐突に登場し、無残に殺されるゲイボーイの青年も当時の社会的風潮を感じてしまいました。 ああ無情、、。

 

 

 

 

主演以外にも多くの役者陣が好演されていて、伊達の彼女に団令子 、小泉刑事の彼女に白川由美という配役。 個人的には小泉刑事の彼女に団令子の方がしっくりきた気がしましたが好みですね(笑)。 

 

 

 

 

伊達の恩師を絶妙な嫌味で演じているのが放庵こと中村伸郎ははまり役でした。 印象深い花売りの老婆は黒澤映画でよく見かけた三好栄子という女優さん。 彼女とゲイボーイ青年、間抜けな佐藤允も印象に残りましたよ。

 

 

 

 

といった感じでディテールに時代は感じるものの、仲代達矢の不気味さやスタイリッシュな映像と音楽、夜の街や素敵な自動車の姿、変化していく時代の空気感や思想が絶妙に散りばめられていて、日本的なハードボイルドの世界が味わえる作品です。

 

 

 

 

エンディングは好みが分かれますが、私的には「蘇る金狼」と重なる所もあって好きなタイプのエンディングでした。 最後に伊達の人間的な部分があだとなるような終わり方は、アンチヒーロー好きな私にはその後を感じさせる余韻がザワザワする快感でした。

 

 

 

 

独特な貧しい時代感とフィルムノワール的な闇、伊達邦彦こと仲代達矢の不気味な存在感と闇深いあの目が印象深いハードボイルドな作品となっておりますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

こちらも宜しければお聞き下さいですよ~! 音譜