メキシコ農村の一少年がひたむきに育て上げつつも闘牛場へ連れ去られた子牛を、純真な愛の力で取り戻すまでを描いた心温まる物語り。

 

 

 

 

 

 

           -  THE BRAVE ONE  -       監督 アーヴィング・ラパー

 

 出演 マイケル・レイ、ロドルフォ・オヨ・Jr、エルザ・カルデナス 他

 

こちらは1956年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(100分)

 

 

 

 

  貧しい農家に育った少年レオナルドは母の葬式がすんだ晩、落雷で倒れた大木の下敷きで死んだ母牛の傍に生まれたばかりの黒い子牛をみつけ、家に連れ戻る。父親から、育ててもよいとの許可をもらい献身的に育て始める。闘牛用の猛牛の子にも拘らず“ヒタノ”(ジプシー)と名付けられた子牛は少年によくなついた。

 

 

 

 

だが、やがて姉マリアに父親からヒタノは雇主である牧場主ドン・アレファンドロの所有だから烙印を押さねばならぬと聞かされ可哀相でならず学校の先生に頼んで牧場主に手紙を書いてもらう。ヒタノは遂に烙印を押されたが、牧場主は子牛を少年に任せると約束をする。

 

 

 

 

2歳を迎えたヒタノは逞しく育ち、闘牛用猛牛のテストにも勇猛ぶりを見せた。だが、少年が学校を卒業した日、牧場主は事故で惨死。ヒタノは競買のうえ、メキシコ市の闘牛場へ送られることになってしまう。その夜、少年はヒタノを連れ出し、あてもなく山中に逃げ込んだ。木陰で眠る少年めがけて襲いかかった大山猫を、ヒタノはその鋭い角で突き伏せて小さな主人を守った。

 

 

 

 

翌朝、探しにきた父親にこんこんとサトされた少年は、しかし何とかしてヒタノを救おうと家出し、ヒタノを乗せたトラックに同乗してメキシコ市に向かう。彼らはかねて先生に聞いていた通り、大統領に自分の願いを告げようと市内を駈けめぐり、ようやく大統領官邸に辿りついた。

 

 

 

 

衛兵の隙みて門内に入った少年の涙ながらの言葉に感動した大統領は、闘牛場経営者宛にイタノ返還を依頼した手紙を認めたうえ、専用サイドカーで闘牛場に送ってくれた。だが、少年が着いたとき、イタノとメキシコ一の名闘牛士フェルミン・リヴェラの勝負が始まってしまう、、。

 

 

 

 

農場で育った少年レオナルドと闘牛用として育てられた牡牛との友情と信頼の物語という至ってシンプルなお話ですが、この原案を書いたのはこちらでも紹介した映画 「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」 のダルトン・トランボで、「ローマの休日」同様に赤狩りの最中、ロバート・リッチ名義で参加しながらもアカデミー賞の原案賞を受賞したという皮肉な作品で、後の1975年にあらためてアカデミー賞から賞を授与されています。

 

 

 

 

舞台はメキシコの田舎。牧場主から譲り受けた母牛から生まれた黒い子牛を親友のように育てる少年。やがて牧場主が不慮の事故で死んでしまい、立派に育った牡牛を手放さなければいけなくなります。 それまでも大人の都合で何度か子牛と引き離されそうになっては連れ戻すというレオナルドのひたむきな姿に胸を打たれます。

 

 

 

 

売られてしまうと分かったヒタノを夜にをこっそり盗み出し、あてもなく森の中を彷徨うレオナルド、野宿した彼に獰猛な野生のピューマが襲い掛かり、勇敢なヒタノがそれを追い払うという動物同士のバトルシーンにサービス精神を感じました。

 

 

 

 

前半の雄大な牧場を離れ、レオナルドはヒタノを追って首都のメキシコシティーへと向かいます。 映像はガラリと変わり大きな建物と人混みでごった返す都会へと変化して、まるでレオナルドが都会のアリスにでもなったかのように見え、貧しさとよそ者感、そして孤立と孤独が画面から伝わってきます。

 

 

 

 

様々な大人に助けられて目的の闘牛場へとたどり着いたレオナルドが見たのは巨大な闘技場とそれを見る多くの群衆。 このラストの闘牛場の場面はただただ圧巻の一言です。 実際の闘牛場を埋め尽くす大観衆の迫力、その中心で行われる闘牛士とヒタノの一対一の戦いの場面はかなり長く、牛が登場して戦いを終えるまでをほぼノーカットの時間を使って克明に描写されています。

 

 

 

 

大観衆が見守る中、牛の背中に幾つもの剣が刺され、血を流し、殺される姿を見るというかなり残酷な闘牛という見世物には多分多くの人が今の時代的にそぐわないものを強く感じるのも当然かも知れません。 しかしここでは克明に描く事で、逆に一人で牛に向き合うマタドールの真摯さも感じられる緊迫した見事な場面になっています。

 

 

 

 

互いに母を亡くしたレオナルドとヒタノが、それぞれの立場で苦難や逆境を乗り越え、互いに愛情と信頼を築いていく姿にはただただ感動してしまいます。 特にヒタノという牡牛が人間的な感情を表さない動物である事も重要で、その動きやささやかな表情の変化に人間的な感情をこちらが読み取ってしまうのでした。

 

 

 

 

牧場側の都合で牧場から闘牛場へと送られ、観衆の前に晒されるヒタノ、剣を刺されながらも闘牛士に正面から向かっていく牡牛の姿には、正にトランボ自身の姿が確かにオーバーラップされて映ります。 他にも何故か唐突にも思える牧場主の車に突進して車体傷をつける場面にも、彼の心意気と反屈精神がうかがえる場面でした。

 

 

 

 

そういった大人の事情を含んだメッセージを含みつつも、少年レオナルドと牡牛ヒタノの純粋な物語には強く心を打たれます。 シネマスコープで撮影された雄大な牧場の風景の美しさや、闘技場の群衆、マタドールの身のこなしとヒタノの野生的な力強さといった映像はそれだけで映画という醍醐味を感じますし、それに乗せた音楽も素敵です。

 

 

 

 

大統領や牧場主といった劇中に登場する大人は、レオナルドの言葉に耳をかたむける人物がほとんどで、いわゆる悪人という人物が皆無なのは、この作品が児童向けだという一面もある気がしますが、レオナルドの視点で世界を描いたこの作品にはそういった描写は必要なかったのかも知れません。 彼にはヒタノが全てだったのですから。

 

 

 

 

ある意味この映画の全ては少年レオナルドの物語です。 彼がヒタノを抱きしめて笑い、愛おしみ、走り、追いかけ、涙して、見つめる、その一挙種一投足、そして彼の瞳の中に映る純粋な牡牛を通して私達も純粋な何かを一緒に感じる映画。 これこそが正に映画的な体験が出来る作品なのかも知れません。

 

 

 

 

観ながらなんとなく 「世界名作劇場」 を思い出していた私(笑)。ラストはある種ファンタジックでありながらも単純に感動してしまうエンディング、ヒタノに駆け寄るレオナルドの姿とその笑顔。 「ヒタノ!ヒタノ!」 と叫ぶ彼の声がしばらくの間映像と共に耳に残る良作だと思いますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

 

では、また次回ですよ~! パー