「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品で、古田新太主演、松坂桃李共演で描くヒューマンサスペンス。

 

 

 

 

 

 

             - 空白   -   監督 脚本  𠮷田恵輔

 

出演 古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、寺島しのぶ、片岡礼子 他

 

こちらは2021年制作の 日本映画 日本 です。(107分)

 

 

 

 

  はじまりは、女子中学生の万引き未遂事件だった。 スーパーの化粧品売り場で万引き現場を店長の青柳に見られて逃走した彼女は、国道に出た瞬間、乗用車とトラックに轢かれて死亡してしまう。

 

 

 

 

だが、女子中学生の父親・添田充は「娘が万引きをするわけがない」と信じ、事故に関わった人々をモンスターのように追い詰めていく。さらに、店長の青柳と女性ドライバーは、父親の執拗な追求にも増して、加熱するワイドショー報道によって、混乱の極みと自己否定に追い込まれる。

 

 

 

 

真相はどこにあるのか、、。 少女の母親、学校の担任や父親の職場をも巻き込んで、人々の疑念は増幅し、事態は思いもよらない結末へと展開する。

 

 

 

 

以前ご紹介した「許された子供たち」に近いテーマを扱った犯罪にまつわる重めの人間ドラマの本作スーパーで万引き犯に間違われた女子中学生が逃走中に車にはねられ死亡してしまい、納得のいかない父親が真実を追求する為にスーパーの店長を執拗に追い込んでいく姿が描かれていきます。

 

 

 

 

この概要を聞いた時に真っ先に思い浮かんだのが2003年に起きた川崎少年万引き事件です。川崎市の古書店で、万引きをして逃げた中学3年の男子生徒が、逃亡中に踏切で電車にはねられ死亡してしまい。それを受けて万引きをされた側の古書店が「人殺し」などと非難を受け、店を閉店するまでに至ったという事件。 これは身柄を警察に委ねた後に起こった事である為余計ややこしいのではありますが、、。

 

 

 

 

で、本作の予告を観るとまるで父親・添田の古田新太が「アオラレ」のラッセル・クロウのように店長・青柳の松坂桃李をバイオレントに追い込むような作品かと思うのですが、まぁそれなりにヤバめでありながらも娘を失った父親の起こす行動としては理解出来る範疇のもので、一定の共感の中でリアルに感じられるものになっています

 

 

 

 

この添田という父親は漁師を生業に誰に対しても高圧的な態度をとる昔気質の男。妻とは離婚し一人娘の花音と二人暮らしをしているものの娘にも高圧的で、その為に娘は日常会話すら普通に出来ないような関係にあります。 父親からすればそれが普通で、娘の事は全て知っているような気になっていたと思われます。

 

 

 

 

しかし事件が起きて娘が突然無残な姿で亡くなってしまいます。 それを知った父親の態度からして彼なりに娘を愛していた事は理解出来ますが、それまでの彼の態度から今更?と正直感じる所も多々あります。 母親からもらった携帯を必要ないと窓から捨てるような父親って、、その母親との繋がりに嫉妬しての行動ではあるとは思いますが、、。

 

 

 

 

娘が亡くなった後、別れた妻に 「自分には花音しかいないって言うけど、あなた花音の何を知っているの? 娘の好きな食べ物は?テレビや音楽は?」と聞かれても何一つ答えられない父親。  一緒に暮らしてたというだけで娘の全てを理解していたと思い込んでいた幻想が崩れる瞬間。 実は何一つ娘の事を知らなかった自分への怒りが事件の真相を知る事に向けられていく事になるのです。

 

 

 

 

タイトルにもなっている「空白」という意味には様々な解釈が出来ますが、その中心になっているのが娘を失った空白、そして取り戻せない娘と父親との関係の空白が描かれますが、一番謎なのがスーパーの事務所の空白です。 父親が最後までこだわった真実、最後まで謝るばかりで核の部分を話そうとしない店長の青柳。 事務所内で何があったのかが謎のままである為、一概に被害者とも思えない青柳の闇の空白、、。

 

 

 

 

そもそも画面上で花音は万引きをしておらず、いきなり腕を掴んで事務所に連れていくというのは不自然な行動です。 その後の青柳のキャラクターと整合性がとれない表情とその行動の不自然さ、事務所に入って数分後に花音は逃げるように事務所から飛び出して店外へ逃げ、それを執拗に追いかける青柳の姿には不信感を抱きますし一切反論もせず謝るばかりという行動の裏には闇の空白を感じさせる何かがあります。

 

 

 

 

他にも花音を最初に跳ねてしまったドライバーは理解出来ますが、跳ねられて起き上がろうとした彼女を再度対向車線のトラックが轢き、実質的に花音の命を奪った不注意なトラックドライバーがその後全く登場せず、添田の怒りの矛先にならないというのにも疑問が湧きましたし、マスコミの歪んだ編集報道等にステレオタイプなものを感じました。

 

 

 

 

実はこの青柳以上に病んで闇深く感じたのが、彼のスーパーで働く寺島しのぶが演じる草加部という女性。 常にポジティブシンキングで彼女なりの正義を他人にも強要してくる人物。 自分の価値観の行動原理で結局は添田を追い込む形になっている事すらも気づかず、下の人間には強く当たるという空気の読めなさが尋常でない人。 自殺未遂を図った青柳に、女丸出しで決めにかかる場面はもうホラー以上の鳥肌でした。

 

 

 

 

この作品で最も不幸だったのは飛び出した花音を轢いてしまった最初のドライバーさんでしょうか?あんな事になった後の彼女のお母さんの贖罪とでもいうべき謝罪の言葉は聞いていて辛かったです。あと草加部に付き合っていたボランティアの女性。 手を火傷してなければいいけど、友達とランチ行ってね~です。

 

 

 

 

他にもあんな添田を気に掛ける弟子の野木のナイスガイぶり、きっと添田に亡くなった父親の影を見てるんでしょうね。 時折二人の掛け合いが北野映画に見えたぞバカヤロー(笑) 弁当やにクレームの電話入れた瞬間に垣間見えた青柳のダークサイド。 選挙ポスターにキレる母親、わざわざ公園にぬいぐるみを捨てる父親の心理等、妙にその残像が多く残る映画でありました。そうそう、意外にもリアルな交通事故場面も、

 

 

 

 

映画の最後で、娘を理解していたという幻影に悲しむ父親が、実は同じ雲を娘も心に留めていたという事実を絵を通じて知るというラストに微かな癒しと希望を感じ、少しだけ父親と娘の空白が埋まる瞬間には、ただただ静かな感動と後悔を味わいました。

 

 

 

 

透明なマニキュアを塗っていた花音、それに気付くことなく普通に話せる関係を持てなかった父親、離れていても娘を案じていた母親、親子だけでなく事件に関わった人達の心の「空白」と、それにどう折り合いをつけて生きていかなければならないかという人間の弱さを描いた作品となっておりますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー