「ウィッチ」のロバート・エガース監督が、「TENET テネット」のロバート・パティンソンと名優ウィレム・デフォーを主演に迎え、実話をベースに手がけたスリラー。
- THE LIGHTHOUSE - 監督 ロバート・エガース
出演 ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー、ワレリヤ・カラマン 他
こちらは2019年制作の アメリカ映画 です。(110分)
1890年代。ニューイングランドの孤島に2人の灯台守、ウェイクとウィンズローがやって来ます。 彼らにはこれから4週間にわたり、灯台と島の管理を行う仕事が任されていました。 しかし、年配のベテラン、ウェイクと未経験の若者ウィンズローは、そりが合わず初日から衝突を繰り返します。
上司のウェイクは雑用を含む重労働をウィンズローに押し付けては酒を飲み、自分だけが灯台の灯りの場に入り、彼には決して立ち入る事を許しませんでした。 ある時ウィンズローはベッドの中に人魚の置物を発見し、そっとしまい込みます。
ウェイクの居る灯台を覗きに向かったウィンズローは、そこで裸になり恍惚の表情を浮かべるトーマスの姿を見ます。 その夜、彼は眠りの中で不気味なと死体と人魚が現れる奇妙な夢を体験をします。
ウェイクの執拗な命令に耐え切れず苛立ちを抑えきれなくなったウィンズローは、仕事の邪魔をする片目のカモメに八つ当たりをします。 しかしそれを見たウェイクは 「カモメを殺したり、傷つけたりするな」 と警告をします。 どうやらこの生き物には死んだ船乗りの霊などが宿っているという古くからの言い伝えがあったのです。
数日後、水道からヘドロのようなものが出てきた為、慌てて井戸を確認すると、そこに死にかけのカモメが浮かんでいました。そこに再び現れた片目のカモメ。 襲いかかってくるカモメにウィンズローは怒りを爆発させ、カモメを掴んで岩に叩きつけて殺してしまいます。 その瞬間、急に風向きが変わり天候が怪しくなり始めます。
最終日前夜、これが最後だからと2人は初めて酒を飲み交わし、ウェイクは初めて自分の名前がトーマス・ウェイクだと伝えます。 酔いつぶれた翌朝、ウィンズローが石炭を運んでいる途中で海岸に横たわる女性を見つけ近づくとそれは美しい人魚でした。 しかし人魚は突如目を開けて叫び、ウィンズローは恐怖のあまり走って家に逃げ込みます。
天候は悪化し、嵐でいつ迎えの船が来るのか分からない状況になります。 不安から激しく酒を飲むようになる二人。 溜まっていた不満をウェイクにぶつけるウィンズローと、その侮辱に対して呪いじみた言葉を返すウェイク。
その後、落ち着いたウィンズローは、酒の勢いで自分の秘密を語り始めます。イーフレイム・ウィンズローというのは偽名で、自分の本当の名前はトーマス・ハワードだといいます。 本物のイーフレイム・ウィンズローは以前彼が殺した木こりの名前だったのです。閉ざされた空間の中で二人のトーマスに最後の時が忍び寄ってくるのでした、、。
以前こちらで紹介した、魔女を描いたホラー 「ウィッチ」 のロバート・エガース監督の新作で、第72回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、同年のアカデミー賞では撮影賞にノミネートされたA24製作による本作。
物語自体は至ってシンプルで、孤島にある灯台を管理する為に二人の男が4週間の間島に滞在する事になります。 しかし劣悪な環境と過酷な労働、閉鎖された島と嫌味な上司のせいでウィンズローの精神は徐々に狂っていき、、というホラーチックな作品。
この話は実話をベースに脚色されていて、それが1801年に起きた「スモールズ灯台の悲劇」と呼ばれる事件が参照されています。 映画同様灯台守としてトーマス・ハウエルとトーマス・グリフィスという2人のトーマスがスモールズ灯台に派遣されて来ます。当初から仲の悪かった2人でしたが、グリフィスが仕事中の事故で亡くなってしまい、殺人を疑われたくないトーマス・ハウエルは、次のシフトが来るまでグリフィスの死体を灯台で保存し、腐敗死体と数ヶ月も過ごす羽目になったという不気味な事件です。
この話を基本に、ギリシャ神話や人間の業と欲望、過去の大罪といった要素が閉塞的な孤島の灯台の中で狂っていくウィンズローの姿として描かれています。 映画として特徴的なのがモノクロで撮影されているだけでなく画面サイズが驚きの1.19:1という、ほぼ正方形の画面。 これによって孤島の閉塞感が観ている側にもリアルに伝わって来ます
物語に対して本作がやや難解と評されているのは、説明的な表現が少ない事と、度々挟まれている抽象的な映像や意味深なセリフによるところが多く、そのほとんどが日本人の私達に馴染みのないギリシャ神話を引用した表現が多数使われている為です。
分かりやすい例でいえば、主人公二人の男を神話の神に置き換えて描いた部分。 ウェイクを予言の能力を持つ海神プロテウスに、ウィンズローをゼウスを騙して火を盗んで人間に与えたプロメテウスになぞらえています。 他にも神話では恐ろしいとされる人魚セイレーンを象徴的に登場させていたりして、全てを理解するのは困難ではあります。
男性的シンボルの灯台や女性を象徴する灯り、片目のカモメ、支配欲、性といったモチーフがモノクロのフィルムに抽象的に表現され、その中で優越を争う男二人のいがみ合いが繰り広げられる極限の狂気。 次第にこの人物すら二人存在しているのかさえ疑問に感じてしまう不気味な緊張感が張り詰めた物語です。
ほぼウェイクとウィンズローの2人しか登場しない本作ですが、それを飽きさせずに見せるウィレム・デフォーの存在感とロバート・パティンソンの競演は見事の一言です。 その2人を汚く美しく写すカメラは時に絵画のようにも見える気品を感じさて圧巻です。
ギリシャ神話がベースにあり、深く理解しようとするには難解に感じてしまう作品ではありますが、シンプルに孤島で狂気に落ちていく男の物語として観てもちゃんと楽しめる作品ですし、二人の演技、映像の美しさを観るだけでも価値のある映画だと思います。
いつもと違った感性をくすぐられるような体験、ちょっと普通じゃない感覚や考察を楽しみたい方にはたまらない映画体験になる作品だと思いますので、機会がありましたらご覧になってみて下さいませ、です。
では、また次回ですよ~!