2009年に愛知県半田市の中学校で男子生徒が女性教師を流産させる目的で給食に

 

異物を混入させた実際の事件をモチーフに脚色を加えた映画化作品

 

 

 

 

 

 

       -  先生を流産させる会  -  監督 脚本 製作 内藤瑛亮

 

 出演 宮田亜紀 、小林香織、高良弥夢 、竹森菜々瀬、 相場涼乃、室賀砂和希 他

 

こちらは2011年制作の 日本映画 日本 です。(62分)

 

 

 

 

 

  ある郊外の女子中学校教員・サワコは、難しい年頃の生徒たちや子供に過剰な愛情を注ぐ父兄らに手をこまねながらも、時に厳しく教え子たちを指導する。そんなサワコが妊娠した。一気に色めき立つ生徒たち。退屈な毎日に刺激が欲しい生徒たちにとって、それはひとつの事件だった。担任のおめでたに過度に反応したのは、複雑な家庭環境に育ったミヅキたちのグループ。

 

 

 

 

思春期の少女たちにとって、それは汚らわしい行為にしか思えない。彼女たちは廃墟となったラブホテルの一室で、ある会の結成の儀式をたてる。名付けて“先生を流産させる会”。早速サワコに嫌がらせを始めるミヅキたち。理科室で薬品を盗み、サワコの給食に混入する。異変に気付いたサワコはすぐに口に入れたものを吐き、保健室のベッドに運ばれた。その後、ホームルームで、心当たりの生徒の名前を配った紙に書くよう告げるサワコ。

 

 

 

 

そこから犯人を割り出したサワコは、放課後ミヅキたちを教室に残す。「私は赤ちゃんを殺した人間を殺す。先生である前に女なんだよ」というサワコの怒りを込めた訴えも、罪の意識が希薄なミヅキたちには通じない。逆に嫌がらせはエスカレート、後ろめたさを感じ始めたメンバーも仲間外れにされる恐怖感からかミヅキに異を唱えることができない。サワコにあからさまな対決姿勢をとるミズキらに、大人として、そして母親として毅然として立ち向かうサワコだったが、、。

 

 

 

 

もうこの「先生を流産させる会」というタイトルが最大のインパクトの本作です。 その上、これが実際の中学校で起きた事件を下敷きにした映画と言う事で、実録ものマニアの私には興味津々の作品でございます。

 

 

 

 

実際の事件を起こしたのは男子中学生で、女性教師から部活動での注意や、発達障害のある生徒や不登校気味の生徒に配慮しての席替えに不満を持った男子生徒5人が「流産させる会」を発足させます。 最終的には11人の男子生徒が入会し、ミョウバンを教師の給食に混入させたり、教員が座る椅子のねじを緩めて転ばせようと画策、他にも精液を模した液体を担任の車にかけるといった幼稚なものまで行われていました。 それを見ていた女子生徒が別の教諭に相談して事件が発覚し、中心となっていた5人を含む11人の生徒が謝罪、後に女性教師は無事出産した事によってで事件は一応の解決に至ったというのがこの事件の概要です。

 

 

 

 

映画は一見してインディペンデントの低予算作品である事が伺える映像で、有名な俳優も誰一人出演されていません。 特に主役を演じる5人の生徒の見た目がメジャー作品では決して見る事がないような、普通以上にあか抜けしていないルックスが妙に不気味さと説得力を感じさせて独特な作品のカラーとなっています。

 

 

 

 

公園で飼われているウサギを滑り台の上から投げ落とすオープニングが印象的で、投げたリーダーのミヅキの無表情とそれを見てケラケラ笑うグループの生徒4人。その変な友人関係の繋がりと生き物を殺したという罪悪感すらない意識の希薄さと幼稚性がこの作品では一貫して描かれています。

 

 

 

 

動物を殺すのも退屈しのぎのイベントのような彼女等に担任のサワコが妊娠している事が知れ渡ります。 それを聞いたミヅキは「あの先生セッ〇スしたんだよキモくない?」と嫌悪感を抱くのです。 それをきっかけに担任を流産させようと給食に薬品を入れたり椅子に仕掛けをしたりと、まるで暇つぶしのイタズラでもしているような流産計画が実行されていくのです。

 

 

 

 

他の生徒からの密告で5人の名前が判明し、怒りに任せたサワコは生徒の前で5人にビンタをしますが、これが保護者の間で問題となり、事なかれ主義の学校は校長を含めて保護者に謝罪する事態に、事件の根幹はあやふやなまま、サワコに始末書を書かせて事を済まそうとする校長。 いつしか生徒の興味は別の事へと移りますが、一人残ったミヅキは新しい計画を立てるのでした、、。

 

 

 

 

本作の主人公を男子から女子生徒に変更した理由を監督が語っています。「先生を流産させる会と」いう言葉をテーマにした映画を作るためには、妊娠を嫌悪しているキャラクターでないといけない。この時期の女の子は妊娠できる身体になりつつあるので、女の先生を将来の姿として見ることもできるし、先生は生徒たちを過去の自分として見ることが出来るようにもなるかなと思って、女の子に変えました」

 

 

 

 

思春期で身体も心も一番変化するこの時期の女子にとって、特に性に対しての興味と不安はある意味漠然とした脅威でもあります。 身近な存在である担任のサワコが妊娠したという事実に強い嫌悪感を抱くミヅキと友人の生徒達。 流産させるという目的の下でより強い仲間意識が生まれる恐ろしさが不気味です。

 

 

 

 

映画の中で最後まで流産させる事こだわるミヅキのバックグラウンドには、彼女に興味を示さない親の存在が見え隠れして、愛情を与えられない子供の淋しさや、彼女自身が産まれてきた意味を見失い、サワコが身ごもっている子供に自分を投影しているようにも思えました。

 

 

 

 

この作品には他にもモンスターペアレントや体罰、学校の事なかれ主義や育児放棄といった様々な問題も描かれています。 実際の事件には間違っている事は明らかなりに、ある程度の理由を見い出せますが、本作にはその明確な理由が見当たりません。 つい理由や動機付けによって彼女達の心理を理解して、自分を納得させようとする嫌な大人の悪い癖を真っ向から否定されるような不気味さを持った作品でもあります。

 

 

 

 

実際の事件後に公表された校長のコメントがあります。
「ゲーム的な感覚や友人との付き合いでしたことで、流産させようと 本気に画策したわけではないと思う 。命の教育を浸透させ、今後二度と起こさないようにしたい」

 

 

 

 

直接先生を殺すのではなく、先生のお腹に宿った子供らしきものを流産させようというその発想のおぞましさが強烈な衝撃を与える作品で、「生まれる前に死んだんでしょ。いなかったのと同じじゃん」 と無邪気に告げられるセリフに、大人としてどう答えを出すべきなのかを迫られているような強い衝撃を含んだ作品でした。

 

 

 

 

DVDには特典として「廃棄少女」という内藤監督の9分の短編映画も収録されていますこちらはただただ少女達が繰り広げるバトルアクションが観れますので、レンタルした際には併せてご覧になってみて下さい。 短めの映画ではありますが、低予算独特の映像が逆に生々しさを生んでいる特殊な映画となっていますので、機会があればです。

 

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

 

 

「廃棄少女」 廃幼稚園を舞台に防護服を着た者に命を狙われる少女たちのバトル。