カンヌの国際広告祭で8度のグランプリに輝いているCF界の巨匠、ロイ・アンダーソンの監督作。 2000年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。

 

 

 

 

 

 

 -  SANGER FRAN ANDRA VANINGEN  - 監督 脚本 ロイ・アンダーソン

 

 出演 ラース・ノルド、シュテファン・ラーソン、ルチオ・ヴチーナ 他

 

こちらは2000年制作の スウェーデン  フランス フランス の合作映画です。(98分)

 

 

 

 

  ここは、とある惑星のとある場所。 

世の中は株価が下落を続け、不景気を極めている。 ある大企業の社長は大規模なリストラを実行して1000人を解雇する決断を秘書に告げる。 あるサラリーマンは勤続30年の会社から突然リストラされて泣きわめきながら担当者の足にしがみつく。

 

 

 

 

スヴェンソンという人物を探していた男は道で暴漢達に襲われて舗道に倒れ込む。年老いたマジシャンは人体切断のマジックに失敗して客に怪我を負わせてしまい、客を連れて病院に駆け込む。 駆け込んだ病院では医者が不倫相手の看護師に「いつ奥さんと別れてくれるの」と問いただされていた。

 

 

 

 

そんなある日、家具屋を経営するカールは、保険金欲しさに自分の会社に火をつけてしまい、炎と共にすべてを灰にしてしまった。 カールにはふたりの息子がいるが、詩人でタクシー運転手をしていた長男トーマスは、人々の悩みを聞かされるうちに自分が精神を病んでしまい、誰とも話せなくなって入院していた。 

 

 

 

 

次男シュテファンは、兄に代わって義姉の面倒を看ながらタクシー運転手をしていたトーマスのもとへ面会に訪れるカールだったが、返事もしない彼の態度に毎回腹を立て怒鳴ってしまう。救いを求めて教会を訪ねるが、神父も悩みを抱えている様子だ。街中はデモをする人々であふれ、道路は常に渋滞。 不安な人心につけ込んだ友人の紹介で、カールはキリスト像で一儲けをもくろむが、、。

 

 

 

 

スウェーデンの奇才ロイ・アンダーソン監督作の作品で、こちらでは「さよなら、人類」という作品を以前ご紹介した事があります。 そちらでも触れていますが、この監督さんかなりクセの強い作風の持ち主。 カメラは全て固定でワンシーンをワンカットで撮影されていて、ほぼ人物のアップはありません。 

 

 

 

 

俳優も監督自らがスカウトした素人の演者のみ。 画面もどう見ても屋外としか思えない景色も全てセット内での撮影というこだわりで、全体にグレー味を帯びた映像の中で動く登場人物達は何故か白塗り顔という独特な世界観の小宇宙で繰り広げられるお話です。

 

 

 

 

これといったストーリーというものがあるようでないような、、、大まかに言えば群像劇といった感じの内容で、自分の会社に放火したカールという中年男性を中心に、その町に暮らしているであろう人々の、喜怒哀楽のほぼ「怒哀」の連続が皮肉たっぷりに描かれています。

 

 

 

 

見た目はややアート寄りではありますが、ワンカットごとにどこか笑えてしまう部分があって、見方によってはシュールなショートコントを繋ぎ合わせているような一面もあります リストラされた人間が足にすがり付いて引きずられる、マジシャンが失敗して客に怪我を負わせてしまう、といった画面に映る当事者にとっては悲劇的な場面なのですが、第三者の俯瞰で見ると笑らえてしまうという絶妙なバランスがこの映画の魅力でもあります。

 

 

 

 

まるでCGのような映像は、全てアナログのだまし絵や遠近法、ミニチュアで高速道路を作ったり、滑車の付いたネズミの人形をヒモで引っ張ったりと、あの円谷プロも顔負けの創意工夫で異世界空間を作り出してはいるものの、そこに描かれている出来事はとっても普遍的。 そんな匿名性の意味もあっての白塗り顔でしょうか? 私達が日常で出会う様々な出来事や悩みがそこに紡がれています。

 

 

 

 

そんな絵画のような映像の中でも群衆を使った場面も多々あって、こちらも魅力的です  謎の動きをするスーツ姿のデモ隊や、畑から一斉に現われるゴースト達のホラー感。大勢が見守る中で儀式のように少女が生贄として崖から突き落とされる場面は、まんま「ミッドサマー」でオマージュ?されていたりと、個と群の画的な対比も見応えありました

 

 

 

 

今回DVDをレンタルしたのですが、その特典には監督のインタビューが収められていて、「この映画はコインのように裏表のある作品で、悲劇でもあり喜劇でもある。そして基本的に普通の人々への讃歌として作ったものなんだ。」 と語っています。

 

 

 

 

 

ラストでカールが叫ぶ 「私は静かに穏やかに暮らしたいだけなんだ!」 という一言すらも難しくなっている現代社会をシニカルとブラックなユーモアで描いた本作。 ちょっと難しそうという先入観は置いといて、他では観れないこの独特な映像世界を一度はご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー