カーロ・ミラベラ=デイヴィスの長編映画監督デビュー作.。 異物を飲み込み続けることで、自分を取り戻していく女性を描くスリラー。

 

 

 

 

 

 

        -  SWALLOW  -  監督 脚本  カーロ・ミラベラ=デイヴィス 

 

 出演 ヘイリー・ベネット、オースティン・ストウェル、デニス・オヘア 他

 

こちらは2019年制作の アメリカ アメリカ フランス フランス の合作映画 です。(95分)

 

 

 

 

  完璧な夫にニューヨーク郊外の美しい邸宅。ハンターは、誰もが羨む暮らしを手に入れる。 ところが、夫は彼女の話を真剣に聞いてはくれず、義父母からも蔑ろにされ、孤独で息苦しい日々を過ごしていた。そんな中、彼女の妊娠が発覚する。待望の第一子を授かり、歓喜の声をあげる夫と義父母だったが、ハンターの孤独は深まるばかり。

 

 

 

 

ある日、ふとしたことからハンターはガラス玉を呑み込みたいという衝動に駆られる。導かれるまま、ガラス玉を口に入れ、呑み下すハンター。すると、痛みとともに得も言われぬ充足感と快楽を得る。異物を“呑み込む”ことで多幸感に満ちた生活を手に入れたハンターは、次第により危険なものを口にしたいという欲望に取り憑かれる。 しかし、胎児のエコー検査でハンターの体内に異物がある事を見つけられてしまい、緊急手術によって取り除かれる。 

 

 

 

 

医者はハンターが異食症を患っていると診断し、夫や両親はハンターの身体以上にお腹の子供の影響を心配し、精神科の治療を受けさせ、日常生活では男性の手伝いを雇い入れて、四六時中彼女を観察するようになる。 それによって、より不自由さを感じたハンターは、隠れて異物を飲むようになり、過激さを増していく。それを知った夫家族は遂にハンターを24時間看護の病院に入院させようと、彼女に無理矢理サインさせるのだったが、、、というお話です。

 

 

 

 

以前レンタルしたDVDに収められた予告を観て興味を持った本作。 てっきり異食症の女性をテーマにしたサイコサスペンスかと思ったんですが、実際の作品を観て良い意味でビックリの私好みな作品でした。 映画で描かれていたのは正統派ともいえる女性の解放と自立、そして過去への決別と再生を描いたまっとうな人間ドラマだったのでした。

 

 

 

 

原題でもあるSWALLOWという言葉には「飲み込む」という意味と、鳥の「ツバメ」という2つの意味がありますが、タイトル通り見事にその両方が込められた内容になっています

 

 

 

 

誰もが羨むお金持ちとの結婚。 夫の両親に買ってもらったその家は豪邸を絵に描いたように広く、モデルルームのように洗練された建物。 その広い空間に閉じ込められるように暮らすハンター。 その姿はまるで籠の中の鳥のようで、家だけでなく家長独裁の家族という大きな枠組みの中にいつの間にか縛られ、彼女は居心地の悪さと違和感を感じていました。 

 

 

 

 

それが妊娠した事により、今まで以上にハンター個人の人間性や感情は無視され、まるで息子の子供を産む道具のような扱いになる彼女。 まぁこの男尊女卑的ともいうか、ブルジョア気質というか、夫とその父親のハンターに対する態度がかなりムカつく場面が多く、ある種の胸糞映画な一面もあります。 

 

 

 

 

その抑圧の中でふと見つける異物を飲み込むという行為。 その背徳的な行為によって自身の存在や自由を得たような快感を覚えたハンターは、その行為を自分でも止められなくなってしまうのです。 飲み込んでは出し、身体を通って出て来た物をコレクションするハンターのどこか嬉しそうで、達成感を感じさせる表情にこちらもいつの間にか同調しています。

 

 

 

 

そこに見えるのは女性であるゆえのしがらみや世間的な視線、幸せなふりを演じきれない幸せそうに見える自分、そういった既存の価値からの解放というメタファーが映画の根底に感じられるからではないでしょうか?

 

 

 

 

映画後半ではより彼女の内面的な葛藤が具体的に描かれ、ある意外な人物によってようやく解放される事になります。 そして最後にハンターが飲み込むもの、そして彼女の身体から出ていくもの。 様々な意見があるとは思いますが、女性だけが背負わされ、女性であるからこそ、その痛みを感じ、そこから解放される彼女の姿に静かな感動を覚えてしまうのです。

 

 

 

 

劇中でハンターの唯一のプライベート空間として重要な役割を果たしているトイレという場所では様々な出来事が起こります。 そこだけは誰の干渉も受けない素の個人でいられる空間、エンディングもそのトイレで迎える事になります。 

 

 

 

 

ハンターが最後の行為を行ったトイレを去り画面から消えますが、固定カメラはそのままトイレを映しつづけます。  そこにはハンターの後から様々な事情を抱えているであろう女性達が入れ替わり立ち替わりトイレを利用する姿が映されていて、その長回しの映像からは女性に対する監督のメッセージが強く伺えてくるのでした。

 

 

 

 

とにかく美しい映像と無駄のない物語展開、そして主人公ハンターを演じるヘイリー・ベネットの繊細な演技が映画を普通以上の作品に仕上げています。 過度な演出がなく、比較的静かな心理描写で見せていく作品のため好みは分かれるかも知れませんが、私個人は様々な面で楽しめた作品でしたので、特に女性な方にはお薦めしたい作品です 機会があれば是非一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー