妻を植物人間にした罪で訴えられた貴族--1980年アメリカで実際に起きた事件を裁判に関わった法学者の手記を基にして映画化した心理サスペンス。

 

 

 

 

 

 

          - EVERSAL OF FORTUNE - 監督 バーベット・シュローダー

 

 出演 ジェレミー・アイアンズ、グレン・クローズ、ロン・シルヴァー 他

 

こちらは1990年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(111分)

 

 

 

 

  1980年代のアメリカ。 ハーバード・ロー・スクールの法学部教授で人権弁護の世界的権威であるアラン・ダーショウィッツは、ニュー・ポート在住のクラウス・フォン・ビューローから刑事裁判の弁護を依頼されます。 

 

 

 

 

彼の妻である大富豪のサニーはある日バスルームで倒れ、長時間放置された事が原因で植物状態に陥ってしまったのですがそれが夫クラウスの手によるインスリン注射が原因であり、故意による殺害を企てられた結果であると義理の息子・娘とメイドのマリアに告発され、地方検事局の告訴により第1審で懲役30年の有罪判決を受けていたのでした。

 

 

 

 

クラウスの事件は上流階級のスキャンダルとして大きく報道され世間の注目を浴びていました。 当初ユダヤ人であるアランは、上流階級のクラウスに対し反感と不信感をを抱いていましたが、事件の概要を知って興味を持ち始め、別に抱えている人権関係の裁判費用を調達するためにも依頼を引き受けることにします。 当初はアランすらも裁判に勝ち目はないと考えていましたが、チームを組んで調査するうちに、その背後にある意外な真実を探り当ててゆく事になります。 

 

 

 

 

妻のサニーは薬物中毒であり、そんな妻から逃れたがっていたクラウスとの夫婦関係は破綻状態でした。殺害計画に用いられたとされる注射器の入っていたバッグがクラウスのものではなく、息子アレクサンダーから麻薬を入手していたサニーのものであることを突きとめるアラン。  サニーの個人的問題、クラウスとの夫婦生活、そして家族にあった問題が浮き彫りになり、再審で検察側の証拠を崩す事になるのですが、、。

 

 

 

 

1980年 インスリンを過剰投与し、妻の殺害を図った容疑で裁判となった「クラウス・フォン・ビューロー事件」の実話を映画化した本作。 原作となっているのは本件でクラウスの弁護を務めたアラン・ダーショウィッツ自身が出版した書籍という、いかにもアメリカらしい大富豪をめぐるスキャンダラスなお話で、この作品でジェレミー・アイアンズはアカデミー主演男優賞を受賞しています。

 

 

 

 

実際の裁判を映画化したものですから、事件についての判決は既に出ているお話で、結論からいえばアランの活躍によって無罪判決を勝ち取っています。 オイオイ、それは反則の完全なるネタバレでは?とおっしゃる方もおられるとは思いますが、この作品の闇深で面白い所は、あくまで法というルールに則った裁判では無罪になったというものではあるのですが、実際には何が起こり、真実はどうだったのかは、夫のクラウス本人と植物人間になって眠りつづける妻のサニーの二人にしか分からないという所です。

 

 

 

 

裁判制度の限界と映画でよくある無実の人間が正義を勝ち取るという法則を逆手に取ったような法の矛盾を突いた、「法とは、裁判とは、無罪とは」 という疑問や疑惑が充満した作品です。

 

 

 

 

映画は植物人間となったサニーが、そのベッドの上から語り部となって物語を進めていく構成になっていますが、彼女の口からも真実は語られず、あくまで裁判の為に様々な証拠や証言がアラン達によって集められていく過程が描かれ、新たな事実が明かされるたびにアラン同様、観客も事件が故意によるものなのか、そうでないのかが分からなくなるのです。 

 

 

 

 

本作の面白い所は弁護する側のアラン自身もクラウスの事を無実だと思っていない所から始まり、あくまで法の下で行動している点です。 その行動によって真意ではない方向へと進んで行き、裁判や法というものの矛盾と危うさがリアルにこちらにも伝わるような展開になっています。 そして映画では裁判までの過程が丁寧に描かれていますが、実際の法廷での裁判の描写は、いともあっさりと触れられる程度という所もこの作品の意図を強く感じます。 

 

 

 

 

そんな事もあって、裁判が終わった後もクラウスが本当に無実なのか、実は故意に妻を殺したのか、の真相は現実的にモヤモヤしたまま終わりとなっています。 このやや現実離れしたクラウスという人物を演じるジェレミー・アイアンズの凛とした不気味さは見事ですし (あの髪型をどう作ったのかが最大の謎)、サニーを演じるグレン・クローズの病み感、アランを演じるロン・シルヴァーの人間臭さと、三者のアンサンブルが素敵です。

 

 

 

 

と同時にアランが裁判の証拠を集める為に生徒や知人と組織したチームとの人間臭いコンビプレーも映画の見所の一つで、法律に詳しいチームの中でも様々な意見があり、解釈の食い違いが起こるという所もこちらの感情移入がしやすくなっています。

 

 

 

 

裁判の怖さと矛盾がリアルに味わえる本作、実際のサニーはこの事件後も28年の間昏睡状態から一度も目覚めることのないまま、2008年に死去し、クラウス本人も2019年に亡くなっています。 その為、この事件の真相を知る人物はもうこの世には存在しなくなった事となりましたが、本作をご覧になってみて、ご自身の推測を巡らせみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー