第二次世界大戦中、ホロコーストを逃れて疎開した1人の少年が、様々な差別や迫害に抗いながら強く生き抜いていく姿を描く。ポーランドの作家イェジー・コシンスキ原作の同名小説の映画化。 第76回ヴェネツィア国際映画祭ユニセフ賞受賞。R15+指定

 

 

 

 

 

 

 - Nabarvené ptáče / The Painted Bird -   監督 脚本 ヴァーツラフ・マルホウル

 

出演 ペトル・コトラール、ハーヴェイ・カイテル、ステラン・スカルスガルド 他

 

こちらは2019年制作の チェコ  スロバキア  

                                           ウクライナ による合作映画です。(169分)

 

 

  映画は9つの章によって構成されています。

 

森の中を数人の子供達に追われる主人公の少年。 彼は胸にフェレットを抱いて逃げていますが、転んでしまい、殴られます。 抱いていたフェレットは子どもたちによって彼の目の前で無残にも焼き殺されてしまいます。

 

 

 

 

マルタ

少年はナチスのホロコーストから逃れるため、母親と父親の迎えを田舎にあるおばさ 

んマルタの家で待っていました。 しかし、数日後おばさんは死んでしまい、家も少年の不注意から燃えてしまいます。 行く場所を失った少年は集落へ向かいますが、地域の人々とは違う肌や目の色の少年は村人らに捕えられ鞭打ちを受けます。 それを止めた占い師の老婆オルガに少年は買われていきます。

 

 

 

 

オルガ

人々を魔術のようなもので治療する老婆のオルガを少年は手伝うようになっていました。 ある日、体調が悪くなった少年を直そうと、オルガは少年の首から下を土に埋め 一晩放置します。目が覚めるとカラスの大群によって少年の頭を突かれ流血する少年彼の病は治りました。 そんな生活も長くは続かず、川に落ちた少年を水が運んでいき ました。

 

 

 

 

ミレル

川に落ちて流された少年はミレルという男に助けられていました。 そこには彼の妻と 使用人の男が暮らしていましたが、嫉妬深い彼は妻と使用人の男との不倫を疑い、日常的に暴力をふるっていました。 ある日、嫉妬に激昂したミレルは使用人の目玉をく り抜き家を追い出します。 身の危険を感じた少年は、夜が明ける前にそっと家を出ま す。 その途中で​​​両目を失った男に少年は目玉を手渡して去って行きます。

 

 

 

 

レッフとルミドラ

沢山の鳥を籠に飼っている老爺レッフと出会った少年。 レッフにはルドミラという若い恋人がいましたが、ルドミラはレッフ以外にも多くの村の男と関係を持っていました。ある日レッフは1羽の鳥に色をつけて空に離します。すると鳥の群れはその1羽を目掛けて攻撃をして、その鳥は死んで落ちてしまいます。 その姿を見つめる少年。数日後、村の少年たちをそそのかしたルドミラは、母親たちから集団リンチを受けま   す。 それはルドミラの命が尽きるまで続き、悲しんだレッフもそのあとを追って首を吊ってしまっいます。 残された少年は鳥籠の鳥たちを全員空に逃してあげるのでした。

 

 

 

 

ハンス

次に少年が訪れた村では男達によって宴会が行われていました。 そこで少年は酒を飲まされ、いつの間にかドイツ軍へ引き渡されてしまいます。 ドイツ軍の将校は少年 を殺害する志願者をつのり、兵士ハンスが名乗りをあげ、少年を連れて線路を歩かせ  ます。やがて線路の終点まで来ますが、一向に少年を撃とうとしません。 しばらくする  とハンスは少年に逃げろと合図し、銃は空へ向かって撃たれました。 それを背に森へと逃げ込む少年。  しかし、逃げた森から見た光景は列車から逃げる人々を無残に  撃ち殺す兵士の姿と、その身ぐるみを剥ぐ村人の姿でした。

 

 

 

 

司祭とガルボス

次に少年は心優しい司祭に拾われ、侍者として教会に仕えることになりました。 少年の身を案じた司祭は信者のガルボスに少年を託しますが、敬虔なガルボスの裏の顔 は小児愛者だったのです。 虐待される日々でしたが、仕打ちを恐れて司祭に告げる ことができないでいました。 しかしそれに限界を感じた少年はガルボスをおびき出し、ネズミの群れる穴へと落として逃げ出します。

 

 

 

 

ラビーナ

雪に覆われた山小屋にやってきた少年。凍死寸前のところを助けてくれたのはラビーナという若い女でした。彼女は年老いた男と暮らしていましたが、やがて男は死んでしまいます。 2人の生活は穏やかなものでしたが、次第にラビーナの性的欲望は少年 に向けられるようになります。 しかし大人としての機能が未熟な少年に、次第に辛く当たり始めるラビーナ。ついにラビーナは山羊の性器で欲望を満たすまでになっていました。 その姿に少年の心には激しい憎しみと怒りの衝動が育っていき、遂にはその山 羊を殺し、頭部をラビーナの寝室へ投げ入れて家を去ります。 その後、少年は初めて老人を襲い、身ぐるみ奪うのでした。

 

 

 

 

ミートカ

訪れた村は軍隊に襲われ殺戮が行われていました。 少年は戦災孤児としてソ連軍の駐屯地で保護されます。 狙撃兵のミートカは少年に同調するかのように、何かと面倒を見てくれました。 彼は戦争に厳しさを少年に教え、別れ際拳銃を手渡してくれました

 

 

 

 

ニコデムとヨスカ

遂に戦争が終わり、少年は孤児院に引き落とられます。 同じような戦争孤児たちと共同生活を始めますが、少年は馴染めずにいました。 市場で盗人呼ばわりして殴った  店主に報復として銃殺してしまう少年。 警察で処分を待っている少年の前に男の姿が現れるのでした、、。 というお話です。

 

 

 

 

今回もポスターアートのイメージのみ、事前の知識なしでレンタルしてみました。 こういった作品だったんですね。 意外に出演者が豪華だったのにも驚きました。全編モノクロの美しい映像で撮られた本作は、その画面に映し出される映像の美しさとは真逆の、とことん残酷な物語が綴られたもので、主人公が少年という無垢な存在である分、余計にその痛みと苦しみが際立った作品になっています。 

 

 

 

 

そして本作の特徴的な所は劇中で使われている不思議な言語です。 映画を観ていて気になった事でもあるのですが、その舞台がいったい何処なのかという説明すらありません。 それは製作者側の強い意図があり、特定の国を意識させる言語を排除した演出がされ、言語には舞台となる国や場所を特定されないよう、インタースラーヴィク(スラヴ諸語を基に作成された特定地域型の国際補助語)という人工言語を使うという徹底ぶりです。 

 

 

 

 

そのためポイントとして出演しているハーヴェイ・カイテル等の俳優さん達は全てこのインタースラーヴィクという言語のセリフを喋っている不思議な悪品です。 まぁ英語すらちゃんと理解出来ない私なんかにはどの国の言葉でも同じではあるのですがね、、。少年の旅で出会う大人の名前がそれぞれの章の名称になり、その章ごとに異なった出来事が少年の身に降りかかるという構成で物語は進んでいきます。

 

 

 

 

映画のオープニングから同じ無垢な子供同士であるはずの少年が、戦争の本質ともいえる差別や迫害に遭う印象的なシーンから始まり、疎開先という異世界で独りぼっちに否応なくその身を置かれてしまう少年の痛々しい姿。 彼に降りかかる不条理な世界と出来事は全て大人達のエゴや身勝手さによって引き起こされるという残酷さ。

 

 

 

 

少年の表情や態度が日を追うごとに無表情、無反応になっていく事で、戦争下に生きる過酷さと、人間性の損失という恐ろしさと恐怖が浮き彫りにされていきます。美しく静かで俯瞰した語り口の映像はタルコフスキーを思わせる深みがあります。

 

 

 

 

本作に登場する大人の大半はろくでもない人間ばかりというのがこちらとしては情けなくなります。 長い時間をかけて体験していく大人の世界を、その何倍という短い時間で否が応にも大人に矯正させられてしまう悲劇。 劇中で一言も言葉を発しない少年は、それが唯一の自己防衛と思ってなのか、そんな大人に対する反抗なのか、彼の言葉はその瞳から聞こえてくるような気がします。

 

 

 

 

戦時下のホロコーストが映画の舞台となっていますが、その中で描かれる様々な差別や偏見、迫害や人権というものは、実は現在についても通じるもので、主人公の少年をとおして現在の私達に忘れがちな良心や人間性を強く訴えた映画なのではないか?という気にさせられる内容の作品です。

 

 

 

 

過酷な少年の残酷すぎるロードムービーの本作。 ラストで少年の名前が自身の手によって思い出される場面に、微かな少年期と人間性の回復を感じて、少しこの世界が浄化されたような不思議な余韻が残る映画でした。 重いテーマの上、音楽もなく、セリフも少ないモノクロ作品の為、観るには少し気合いが必要な映画ではありますが、必ずや特別な感情を味合わせてくれる作品だと思いますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー