ヤクザの世界で名を売ろうと、社会の底辺で懸命にもがく3人の若者の姿を描いた、異色の青春アウトロー時代劇。前年、TVシリーズ「木枯し紋次郎」を手がけた市川崑監督が、70年代の閉塞した世相を反映させたアンチ・ヒーロー像を描く

 

 

 

 

 

 

                    -  股旅  -   監督 市川崑 脚本 市川崑  谷川俊太郎

 

 出演  萩原健一、小倉一郎、尾藤イサオ、井上れい子、常田富士男 他

 

こちらは1973年制作の 日本映画 日本 です。(100分)

 

 

  灰色の空、霜でぬかったあぜ道を、よれよれの道中合羽に身をつつんだ若い男が三人、空っ腹をかかえて歩いています。 彼等は生まれ故郷を飛び出し、渡世人の世界に入った源太、信太、黙太郎の三人です。 彼等の望みは金と力のある大親分の盃をもらい、一人前の渡世人になることでした。 流れ流れて三人は、二井宿・番亀一家に草鞋を脱ぐ事に。 いきなりその夜には一家の出入りに駆り出される三人。 ある日、源太はここで偶然、何年も前に母と自分を置き去りにして家を出た父・安吉と再会します。

 

 

 

 

夜、源太は安吉の家に行く途中、百姓の井戸端で、若い女房のお汲が髪を洗っているのをみて強く惹かれます。 背後からお汲に組みついた源太は、あばれるお汲を納屋に連れ込みました。 翌日、安吉が、仇敵一家と意を通じ、壷振りと組んでイカサマをやり、番亀一家の評判をおとそうとした事実が親分にばれてしまいます。 憤怒した番亀は、渡世人の掟を破った親父の首を持ってこいと源太に命じます。 親父を斬ることはない、と引止める黙太郎と信太に「義理は義理だ」と源太は飛び出したが、安吉は留守でした。気抜けした源太は、お汲の家に行き「俺と逃げないか」と声をかけます。 

 

 

 

 

お汲は黙ってうなずき、二人はその場で抱き合うのでした。 再び安吉の家へ引返した源太は、渡世のしきたりに従い親父に斬りかかるのでした、、。 一家の為に父親を斬った源太でしたが、親分はなんだかんだと理由をつけ僅かな草鞋銭を渡されたけで番亀を追い出されてしまいます。 黙太郎、信太も追い出され、お汲も連れ立った股旅がつづきます。 道中をつづける四人。 途中で信太が竹の切株で足を傷つけ熱を出し足止めとなりますそこへお汲の亭主の息子の平右衛門が現われ、お汲をつれ戻しに来ます。 しかしお汲は、鎌で平右衛門に襲いかかり、殺害してしまいます

 

 

 

 

呆然とみつめる源太と黙太郎。親殺しの上にまた殺人、事態はますます悪化しました。 源太はどうしても家に帰りたくないというお汲をいつか引き取りに来るという約束で飯盛女に売ることにします。 その頃、祠の中で信太は息をひきとっていた。 残った源太と黙太郎は飯岡の助五郎のもとへと道中を急ぎますが、その道中で大親分から盃が貰える絶好の機会がある事を耳にする源太と黙太郎でしたが、、、というお話です。

 

 

 

 

あの市川崑監督が唯一ATGで撮った青春時代劇、主人公はてっきりショーケンかと思ってレンタルしたのですが、物語を展開させていくのはまさかの小倉一郎でありました。しかし、源太という実直でナイーブな役どころには見事にハマっていました。 この作品監督の「木枯らし紋次郎」と地続きの世界観ながら、こちらはただ百姓から家出しただけのアウトロー。 時代劇によくある剣術なんて身に着けている訳もなく、ただ刀を振り回す威勢のよさだけで世の中を渡ろうとしている行き当たりばったりの三人組の物語です

 

 

 

 

そんな渡世人のぐだぐだな旅を描いた作品ですから、特別ドラマチックな展開や起伏の富んだ筋書きもなく、ただただ彼等の旅の道程を共にする映画ではあるのですが、実はこれが面白かったりするのです。 いきなり映画のオープニングに披露される仁義の場面。 賭博で生計を立てている渡世人が初対面の相手にする挨拶を仁義を切るというらしいのですが、「おひかえなすって、手前生国と発しますは、、、」 と、生まれから今日に至るまでの自分の生い立ちをダイジェストに一気に喋るのでございます。 

 

 

 

 

時代劇や任侠もので観た事があるかも知れませんが、これをそこそこの長尺でフルコース?の披露でちゃんと見せてくれます。 これを三人なら三人がそれぞれ繰り返すという渡世人独特のしきたり。 流石に三人目は相手方から「省略させて頂きます」とあしらわれてしまうのですが、こういった特殊なしきたりや時代独特の風習が登場すると劇中でナレーションが語り始め、詳細な説明をしてくれるという、ちょっとハウツー的な面白味もあります。

 

 

 

 

喧嘩場面では、「博徒たちは一対一の対決をなるべく避けようとする どちらかが死ななければ終わらないからだ。 数回刀を合わせ、逃げるのではなく別の斬りこむ。」 というナレーションには笑ってしまいました。 刀を振り回すだけの決闘場面など、グダグダ感が生々しくてそんな所も魅力的です。 実際の合戦とかでもあったでしょうね、、。

 

 

 

 

そんなむさ苦しい中に花を添えているのが井上れい子扮するお汲、加藤嘉が扮したお爺さんのような百姓に嫁入りさせられたり、飯盛女に売られたりと、当時の女性の扱いの酷さには改めて驚かされます。 辛うじて源太との恋愛もありますが、、ね。70年代の若者という、どこか空虚で乾いた雰囲気をそのまま時代劇に取り込んだようなロードムービーで、不思議なリアリティを感じる本作。 義理人情という日本人特有の感覚を、まるでアメリカンニューシネマを彷彿とさせるドライな視点で描いた本作は、その終わりもあっけなく空虚です。 

 

 

 

 

時代劇の渡世人という形を借りて、若さという刹那と、やり場のないパワーの無鉄砲な生きざまが、美しく、汚く焼き付けられています。劇中、三人がずっと身に着けている破れた三度笠とつぎはぎだらけの道中合羽がとってもお洒落で、どこかコムデ・ギャルソンの新作にも見えた私でありました。お茶一杯の恩義、生きる事に一生懸命で精一杯だった若者の姿が、今の私達にどのように映るのでしょうか? 市川崑監督の美意識と三人の若者のエネルギーがぶつかった青春ロードムービーとなっていますので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー