三島由紀夫の長編小説「金閣寺」をもとに市川崑監督が映画化したモノクロ作品。 

         「誰も知らない! 誰も解ってくれない! 何故おれが国宝に火をつけたかを…」

 

 

 

 

 

 

                    -  炎上  -  監督 市川崑  原作 三島由紀夫 


 出演 市川雷蔵、仲代達矢、中村鴈治郎、北林谷栄、中村玉緒、浜村純 他 

 

こちらは1958年制作の 大映映画 日本 です。(99分)

 

 

 

 

  僻地の寺の跡継ぎに生まれた溝口吾市は父の縁故で国宝建造物を擁する驟閣寺の小僧となって仏教大学に進学します。 彼は父から口癖のように、この世で最も美しいものは驟閣であると教えこまれ、驟閣に信仰に近いまでの憧憬の念を抱いていた​​​​​​ましたた。 母との確執に悩みながらも精進する吾市でしたが、世知に長けた住職や純真な同輩の鶴川と生来の吃りで醜い自分を比較するうちに国宝の驟閣寺御堂に永遠の美を見出すようになります。 戦争の悪夢から覚めた驟閣には、進駐軍の将兵を始め観光客が押しよせるようになります。 静かな信仰の場から、単なる観光地になり下ってしまった事を嘆く吾市。 ある日、米兵と訪れ戯れる女を吾市は驟閣の美を汚す者として引ずりおろしてしまいます。 信仰の光を見失った吾市は、虚無的で毒舌家の同級生戸苅に感化され、学業を放棄して学費を女遊びに使い込み家出を試みたりと放蕩にのめりこみますが、その過程である確信に到達するのでした、、。

 

 

 

 

私の好きな 市川崑 監督の作品で、以前から興味のある作品だった為、今回お取り寄せしてみました。 1950年に実際に起きた 「金閣寺放火事件」 を元に 三島由紀夫 が執筆した小説 「金閣寺」を、再構成した脚本によって映画化した作品になります。 ただ、映画化にあたっては金閣寺と京都の仏教界からクレームが入った為、金閣寺を驟閣寺という架空の名称に変更されています。今回も小説は読んでいない為、あくまで映画 「炎上」 についてのみになるのですが、、

 

 

 

 

吃音 (どもり) というコンプレックスを抱え、他人との関わりに心を閉ざした 主人公の吾市 が、住職の父の死の遺言状により、驟閣寺 (しゅうかくじ) で修行僧として住み込む事になる所から始まります。 父の修業時代の友人 田山道詮老師 が 住職を務めていたというだけでなく、尊敬する生前の父から 「驟閣ほど美しいものはない」 と言って聞かされていた吾市にとって 驟閣 は 変わらない 「美」 の象徴であり、父、信念、観念の具現化した 聖なる物 となって行きます。

 

 

 

 

そんな中、終戦で寺には外国人や観光客が寺に多く訪れるようになり、観覧料を取る事で、寺は豊かになって行くのですが、驟閣 が見世物のようになってしまっているように感じた 吾市 は嫌悪感を懐き始めます。 修行しながら大学にも通う吾市に同級生の戸刈 という男が目に留まります。 戸刈 は右足が不自由ですが、シニカルな自信家で吾市の心を見抜いていました。 「吃音 の自分と かたわ の俺に共感を抱いたんだろう?」 と。半ば戸刈に憧れるようになっていた吾市でしたが、ある日 戸刈 と女との別れ話に出くわし、軽くあしらったつもりの女に 「あんたが かたわ じゃなければ誰も気にかけてくれない」 と言われ、戸刈は狂ったように逆上します。

 

 

 

 

吾市 はそこで 戸刈 の本当の姿を見て失望してしまいます。 戸刈 もやはり 虚 の存在だったのです  世話になっていた住職にも、誤解から生じた食い違いによって、関係の歯車が狂ってしまった上に、住職の俗した面も見てしまい、吾市は心のよりどころが無い状態になって行きます。 そして、自分の母親の一方的な期待と、それに答えられない自分と、母親への不信、全ての事が 穢れ、虚構と感じた吾市は遂に、驟閣 に火を放ってしまうのでした、、。 

 

 

 

 

ストーリーは小説オリジナルの解釈と思ったのですが、実際の犯人も 重度の吃音 で、母親からのプレッシャーと、現在の寺 の存在意義に対しての疑問等の複雑な感情によって引き起こされたとされていて、意外と事実に沿った物だった事に驚きました。焼失する前の 金閣寺 は金箔がほぼ剥がれた簡素な状態だったようで、再建によって、当初のように再び金箔が貼り直され、現在見られる物は建築当時の状態だそうです。 

 

 

 

 

今作の撮影は 御大 宮川一夫が担当していて、モノクロでシネスコ で撮られています。この画面がモノクロの濃淡の効いた、奥行きのある画で、構図といい 素晴らしい撮影です。 ラストの炎上シーンはモノクロでしか出せない炎の美しさと、星空のような火の粉の舞う情景が、まるで吾市の内面を表しているようで、幻想的でありながらも深い悲しみを感じさせる映像が印象深いカメラです。空襲による火災の延焼を防ぐ為、家屋を間引くシーンや、実際の 驟閣 を建築してのシーン等、当時の映画に対する意気込みが画面から伝わって来ます。 出演者も見事で、全ての役がはまっています。 吃音の 市川雷蔵、かたわの 仲代達矢住職の 中村鴈治郎 の何とも言えない風格 母親の 北林谷栄 の佇まい 等どれも素敵でした。

 

 

 

主人公の主観で描かれた本作は、いかに吾市という男が、信じたものの損失によって世界から孤立し、孤独と悲観、そこから生まれる絶望や怒り、苛立ちに心が苛まれていく過程が、セリフでなく、演技とカメラによって焼き付けられ、説明出来ない 「何か」に突き動かされてしまう 吾市の無言の叫びがこちらに訴え掛けてくるような作品です。またお気に入りの 日本映画 が一本増えた事が喜ばしい、至福の私なのでした。金閣寺放火事件を知る機会にもなる作品ですので、興味が湧きましたらご覧になってみてはいかがでしょうか、です。

 

では、また次回ですよ~! パー

 

 

 

 

 

 

注意 予告がありませんでしたので、映画の一部をご覧下さい。 目