女性を主人公にした映画でも数々の名作を残したロバート・アルドリッチの代表作とも呼べるサスペンス。ジェーン役のベティ・デイビスは本作でアカデミー賞にノミネートされた

 

 

 

 

 

 

  -  What Ever Happened to Baby Jane?  - 監督 製作 ロバート・アルドリッチ

 

 出演 ベティ・デイヴィス、ジョーン・クロフォード、ヴィクター・ブオノ 他

 

こちらは1962年制作の アメリカ映画 アメリカ です。(134分)

 

 

 

 

  1917年、ジェーン・ハドソンはわずか6歳にして、すでに人気子役でした。 ヴォードヴィルの舞台に立って愛らしい姿と歌で客を楽しませる、「ベイビー・ジェーン」として喝采を浴びていました。 しかし、その輝くような舞台を羨望と嫉妬で見る目がありました。姉のブランチでした。 ジェーンは舞台上だけでなく、そこを降りた後も家族から特別な扱いを受けていましたが、ブランチは公私にわたって妹の影に隠れ、家族の中では薄い存在にいました。 しかし大人になったころ、ジェーンとブランチの立場は大きく変っていきました。 映画の時代になると、ブランチは実力派の女優としての評価を得るようになりますが、ジェーンは子役としての魅力を失い、その人気は遠い過去のものとなっていたのでした。 

 

 

 

 

大スターになった姉と、仕事もなく酒びたりの妹、二人の立場は完全に逆転していました。 そんなころ、嫉妬にとらわれた姉妹の間に痛ましい自動車事故が起きます。 その事故はジェーンが嫉妬にかられブランチを轢き殺そうとしたと新聞で報じられました。 間一髪で難を逃れたブランチでしたが、この事故で背骨に傷を受けて歩くことが出来なくなりジェーンはその責めを負うように、一生車椅子生活となった姉の面倒を見ることになったのでした。 

 

 

 

 

こうして表舞台から消え、お屋敷で隠居したかのように二人だけの世界で暮らし始めた姉妹でしたが、姉に対するジェーンの嫉妬は何年たとうと消えず、彼女の次第に度を越してくる異常な行動や飲酒癖は、ブランチを極度の不安に陥れていました。そんなブランチの慰めは、たまに訪れる掃除婦ただ一人でした。​​​​​​ 彼女はブランチに来たファンレターを勝手にジェーンが廃棄している事をブランチに告げ、ジェーンを医者に診せるよう進言します。 その心配は悪い方へ的中し、ジェーンはやがて姉の人生を支配するように醜く陰湿な暴君へと徐々に変貌していきます。 

 

 

 

 

彼女は、ブランチの可愛がっていた小鳥を昼食として出したのを皮切りに、ネズミを食事に出すなどしてブランチを精神的に追いつめていきます。そして、ジェーンの留守中にブランチが隠れて医者に電話で助けを求めたことからジェーンの怒りが爆発、ブランチを部屋に監禁してしまいます。 更にジェーンは監禁に気付いた家政婦のエルヴァイラを殺害し、遺棄してしまうのでした。 そんな中、芸能界への復帰という妄想を抱き始めていたジェーンは、売れないピアニストのエドウィンを雇いますが、その彼にもブランチの監禁に気付いてしまいます。 追いつめられたジェーンは、、、 というお話です。

 

 

 

 

とにかくジェーンの見た目が最大のインパクトのある作品で、彼女が画面に登場した瞬間から常人でない事が理解出来てしまう程のヴィジュアルが見事です。 自分が輝いていた子役時代をそのまま引きずっているかのような白塗りの顔とフリフリの衣装に心の病いが漂っています。 対する姉のブランチは正反対に年齢以上に落ち着いた雰囲気この対比が絶妙です。 

 

 

 

 

二人だけの暮らしが始まってすぐにある種の違和感を感じてしまいます。 車椅子生活のブランチは既にエレベーターのない2階に住まわされているのです。 自分一人では外へ出る事も出来ないという閉塞感の状況にある彼女の生活は、常にジェーンの支配下にあります。 食事を含め、全ての暮らしをジェーンに依存しなければならないブランチとジェーンの奇妙なバランス。 徐々に常軌を逸していくジェーンの仕打ちを一方的に受けるしかないブランチの姿がかなり痛々しく、「ミザリー」を連想させる程で、恐怖の奥から溢れるジェーンの狂気に哀れみすら感じてしまいます。

 

 

 

 

電話での一人芝居や、パニックになった際にブランチに助けを求める姿に表れる感情のスイッチの切り替えの恐ろしさ、その反面、小切手に必要なブランチのサインを練習していたり、再び舞台を上演しようと画策していたりと、大人の世界と子供の世界を行き来するジェーンの姿は現在のサイコスリラーの中でも異彩を放つ程です。 ピアノの伴奏にのせてパパへの曲を歌う姿はホラー以上にホラーです。

 

 

 

 

子役時代の華々しい生活、そこからの転落と姉への嫉妬、その為アルコール依存になり、二人の人生を狂わす事になる自動車事故。 こうなったのもある意味当然の結果であり自業自得、ブランチの将来を奪った報いによる病いだと思っていたラスト。 その主観がひっくり返されるような出来事が訪れ、観ていたこちらの精神までも揺さぶられてしまうのでした。 そこから子供時代にリンクするストロベリー味のアイスクリームが象徴的に使われ、傍観者を自身のファンであるかのようにダンスを始めるジェーン。

 

 

 

 

普通の友人を持てなかった彼女の悲しみと、それすらも気付かずに幻想の世界で踊るジェーンの姿、ここにきて「姉は映画スターになるのよ」と他人に自慢する発言をする彼女に、憎しみよりも哀れみと切なさを感じさせるエンディングに何故か涙が溢れてしまうのでした。  こんなテイストの映画でしたっけ?と困惑する私、、。 若干「サンセット大通り」を思わせる所もありますが、また違った悲しみがにじむ姉妹の愛憎劇。

 

 

 

 

それもこれも主演の二人が見事で、特にジェーンを演じるベティ・デイヴィスの表情による演技の巧みさにはやられてしまいます。 多分、内容を把握した上で再びこの映画を観る時には全然違った見え方をするんだろうな~と思うような作品でした。栄光と挫折、嫉妬と妬みが錯綜するホラーテイストの愛憎ドラマです。 ラストのジェーンが言う 「私達、無駄に憎みあっていたのね」 の言葉が取り返せない時間の儚さを訴え観客を主人公同様、不思議な境地にいざなうような特異な作品ですので、機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー