アメリカの若手人気作家ミッチ・カリンの同名小説を、テリー・ギリアム監督が映画化。『不思議の国のアリス』をベースに、グロテスクな現実を幻想で彩る少女の精神世界を描く

 

 

 

 

 

                  - TIDELAND - 監督 テリー・ギリアム

 

出演 ジョデル・フェルランド、ジェフ・ブリッジス、ジェニファー・ティリー 他

 

こちらは2005年制作の カナダ カナダ イギリス イギリス の合作映画です。(117分)

 

以前にご紹介した「ブラザーズグリム」の撮影がセットのトラブルで半年間中断され

る事になり、その合間を使って制作された本作。 そんな風にはとても思えない摩訶不

思議で素敵なお話でございます。

 

 

 

 

  「不思議の国のアリス」を読むのが大好きな10歳の少女 ジェライザ=ローズ。

彼女は親の都合で学校には行っていません。 彼女の役目は、元ロックスターでジャンキーのパパの世話や、ママの足をマッサージしてあげることでした。 ある日、ママがオーバードースで死んでしまいます。 ローズはパパとふたりでママの葬式を済ますと、バスでパパの故郷テキサスへ向かいます。 亡き祖母の家に着くと、早速パパはマリファナを吸ってバケーションに出てしまいました。 家の周りは見渡すかぎり金色の草原で、真ん中を1日に1回だけ列車が通ります。 

 

 

 

 

探索の旅に出たローズは、そこで黒ずくめの服を着た幽霊のような女と出会います。 夜になり、お腹の空いたローズはパパに甘えますが、パパはバケーションから戻りません。 明くる日、空腹と孤独に襲われた彼女はなんとかパパの気を引こうとしますが、パパはまったく反応しません。 ローズが草原で遊んでいると再び幽霊女に遭遇し、彼女がまだ幽霊ではないことを知ります。 女はデルといい、弟のディケンズと二人で暮らしていました。 手術で頭にイナズマ型の傷をもつディケンズは、精神年齢が10歳で止まっていました。 彼との時間を過ごすうちに、ローズはディケンズに淡い恋心を抱き始めるのでしたが、、。 というお話です。

 

 

 


お話は、母親が亡くなり、父親と彼の故郷でずっと空き家になっていた田舎のお婆ちゃんの家に引っ越して来るのですが、越して間もなく父親もドラッグで亡くなり、唯一聖書のように持っている 「不思議の国のアリス」の世界の中に居るかのように、空想と現実の境目のない自分の世界で生きていきます。死んだ父親を、まるで生きている時と変わらないような扱いで、話しかけ、無くなった事を受け入れません、(徐々に悪臭を放ちながら朽ちていくのですが、、)亡くなったという意識も無いのか、子供として幻想で現実を遮断しているのかは不明です。

 

 


 

 

ローズのお友達は、首だけのバービー人形の4人です。 それを指にはめては、話しかけます。 特にお気に入りのバービーはシビアな口調でローズに意見したり、時には注意をしてきます。 映画の中でそれらは実際にローズが幻想のフィルターを通して見ているのと同じように動いて喋ります。 その画は一見かなりシュールなものですが、ローズの存在自体がかなりファンタジックなために、とても美しく見えてきます。現実的な視点で見ると、幼児虐待、育児放棄、そして死体愛等の残酷な要素が満載のギリアム印満載の世界観です。

 

 


 

 

そういった物語の内容に反して彼女を取り囲む風景はあくまで美しく、家の外にある小麦畑は海のように広がっていて、空はこれまた美しい青空です。 それはローズの目に映っている情景なのかもしれませんが。少し離れた所に、姉弟で住んでいる家を発見します、こちらもちょっと変わった二人で姉はおばさんなのですが、はく製を作ってたりします。 弟は頭の手術をして、少し知恵遅れです。 そんな二人をローズは、姉を魔女のように、弟を優しい彼氏のように思い込み、空想とも現実ともいえない彼女の物語の登場人物にしていくのです。

 

 

 


そんなローズの空想的な生活に、空想をはるかに超えるような現実が起きて、彼女の空想世界と現実の世界が交差して、一つに結ばれる事で物語は終わりを迎えます。この本作を観ていると、はたして現実とは何か?空想とは何か?という疑問が湧いてしまうのです。 何故なら、私達から見る空想の中で生きているローズの姿は、ある意味痛々しく可哀そうに見えてしまいますが、彼女自身はとても楽しそうで、幸せそうなのです。 現実があまりに辛かったら、楽しい空想の世界に居ても良いんだよと言われているような気がします。ローズはそんな事すらも思っていないのかも知れないのですが。

 

 

 


この主人公ローズを演じている ジョデルフェルランドという女の子は、役と同じ当時10歳という事ですが、まぁこの子が、時に可愛く、時に妖艶で、一人芝居も多いのですが、とても素敵です。 私の好きなジェフ・ブリッジスがパパを演じていますが、残念ながら序盤で亡くなってしまい、以降は死体という役回りでちょっと寂しかったですが、その娘のローズちゃんを観るだけでも価値のある作品です。今も乙女心を忘れない、「不思議の国のアリス」が好きな女性にこそ、是非観ていただきたい幻想的な映画です。 機会があれば一度ご覧になってみて下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー