第2次世界大戦前に生まれ、敗戦後のドイツで幼少期を過ごした フリッツ・ホンカ 

1970年代のドイツ・ハンブルクに実在した5年間で4人の娼婦を殺害した連続殺人犯の日常を淡々と描いたサスペンスホラー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー Der Goldene Handschuh -  監督 ・ 脚本 ファティ・アキン

 

 出演 ヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、カーチャ・シュトゥット他

 

こちらは2019年制作の ドイツドイツ フランスフランス の合作映画です(110分)

 

 

以前こちらでもご紹介した 「女は二度決断する」 でカンヌ映画祭を沸かせた ファティ・アキン監督が、70年代のドイツに実在した、4人の女性を殺害して遺体を解体し、自身が住むアパートの屋根裏部屋に遺棄した連続殺人鬼 フリッツ・ホンカ の実態に迫った作品です。

 

 

     

 

 

  映画は薄暗いアパートの一室から始まります。 ベッドに横たわった女性の遺体を無造作にビニール袋に押し込む男。 その男が本作の主人公 フリッツ・ホンカです。

遺体を物のように手荒に扱って外へ運ぼうとしますが、住人の少女に見られた事で再び自室へと戻ります。 自室へ戻ったはいいが、遺体をどうしようと悩んだ末、遺体の着衣を脱がして裸にします。 その裸から感じる年齢は50代中頃でしょうか? そしてキッチンに向かったホンカはおもむろにノコギリを取り出し遺体の首へ刃を当てます。 しかし動揺してためらいます。 酒をあおって音楽を流し、その勢いのまま遺体の首を切断し始めるのでした。 切断した遺体の一部を近所に遺棄するフリッツでしたが、全てを運び出す気力は失せ、残りは自室の壁にしまい込んで終わらせてしまいます、、。

 

 

 

 

このオープ二ングのインパクトと陰湿さで、この映画の世界観が伝わってきます。孤独なフリッツは、夜な夜な 寂しい男と女が集るバー・ ゴールデン・グローブで酒を飲んでは、そこに訪れた女性に声をかけていました。 しかし彼がカウンターに座る女に声を掛けても、いつも 顔をしかめられるだけ。 その原因には彼の醜い容姿がありました。若い頃に交通事故に遭った事で潰れた鼻、目は斜視で歯並びも悪く、薄くなった頭髪、せむし男のような猫背、コンプレックスの塊のようなフリッツは偶然町で出会った若い女性に恋をして、理想の女を彼女に見い出します。 しかし理想はあくまでも理想。彼女のような若く、美しい女性に相手をされる事はなく、バーに訪れる年増の売春婦を酒で釣り欲望のはけ口にするのです。 そして成り行きに任せ、気に食わないと暴力を振るって成り行きで殺人を犯すフリッツ。 

 

 

 

 

殺人も身勝手で衝動的ですが、遺体の処理もいいがげんでその場しのぎの短絡的な行動です。 その為部屋からは死臭が漂い、訪れた人達はまずその異臭に嫌悪感を抱きます。 それでも遺体をどうにかしようとしない事で、下の階の家族が食事をしている上から、怨念のウジ虫となって湧いて落ちて来るまでになります。シリアルキラーというと計画的な猟奇殺人を思い浮かべますが、本作のフリッツ・ホンカは全くの無計画で欲望のまま殺人を犯します。  それも映画によくある若い美女ではなく、かなり年齢のいった売春婦。 お顔も美しいとは言い難い深いしわと、たるんだ皮膚。 身体もかなりの肥満体というルックスを相手にします。 この女性達のしわとたるみ 「生身」「肉」 という存在感が本作の神髄と言っても良い程のリアリティと醜さを表しています。

 

 

 

 

フリッツが毎晩のように通うバーに集まる友人達や女性も、見事に社会から乖離したような人々ばかりで、そこに美しさはありません。 そのくせ個々に小さな見栄と嘘をバリアにした、上っ面な付き合いを続けています。 まるで現在のネットのように真の部分では繋がっていない名ばかりの友人の傷の舐め合いになっている仮想空間のようです。その為、フリッツには孤独がつきまとい、それに苛まれつづけています。しかし本作はそんなフリッツの主観では描かず、客観的な視点で彼の生活と行動を、淡々と描いていきます。 彼の過去や、動機、心象には全く触れない為、フリッツという人物に一切、同情や感情移入をさせません。 ただ一度、フリッツがお酒を断ち、新たな仕事に就いた時、まっとうな人間になる一瞬がありますが、やはりそれは幻想となり強烈な現実の前にもろくも打ちのめされてしまいます。

 

 

 

 

フリッツという社会的弱者が、より下の弱者、それも女性をいたぶって最後には殺す。 それで彼の気持ちが満たされるかといえば全く満たされる事はなく、より孤独と虚無感を大きくしていくさまを淡々と見せられる作品で、これにどういうメッセージがあるのかを考えてしまった私ですが、とにかく嫌悪感と人間の恐ろしさだけは脳裏に焼き付く映画でありました。 エンディングでは実際の彼の部屋や現場写真が映されますが、そのディテールを再現した部屋の模様等の再現に改めて驚かされてしまいます。そして本作では女性に対する暴力と性的表現は多く登場しますが、遺体を解体するような直接的なグロ場面はドアで局所が隠されていたり、フリッツの表情が映されたりと、グロい部分は濁されておりますので、苦手な方でもご覧になれるのではないかと思います。 但し、女性陣の身体から発せられる年相応の存在感は圧倒的ですので、ご注意になってご覧下さいませ、です。

 

では、また次回ですよ~! パー