原子力機構で働く庄田力弥の家に、妻の夏那子がアユという少女を誘拐してくる 家にはアユの父親だという男が娘を連れ戻しに来るのだったが、その男はかつて前衛党で活動した力弥の同士だった 当時、彼らはアメリカ大使の誘拐を計画していたが、裏切りにより前衛党そのものが崩壊してしまったのだ 力弥はアユを犯すのだったが
こちらは1970年制作の 現代映画社 と ATG の提携作品映画 です(117分)
吉田喜重 監督作品で、婦人である 岡田茉莉子 が主人公の妻を演じております
予告の映像を観て興味が湧き、お取り寄せしてみた次第でありますが、予告からも漂
っていた摩訶不思議な世界 それがそのままに映像世界として繰り広げられておりま
した。多分、クセの強い ATG映画 の中でもかなりの異色作です。
全編モノクロで撮影された映像で、通常以上に ハイライト を強調した画面 そ
して異常なまでに凝った、完璧なまでの意図的な構図によって表現されています。こ
の不思議なタイトル 調べてみると 「煉獄」 とは、「カトリックの教義において,死
ぬ時に罪の状態にあるか,罪のつぐないを果たしていない状態にある霊魂が天国に入
る前に一時苦しみを受ける場所」 とありました「エロイカ」は「英雄」という意味合
いだそうです。
映画を観終わってタイトルの意味を知った事で少し意味が理解出来る内容で、ストー
リーはよく考察しながら鑑賞していないと非常に理解しずらい物です (それでもかな
りこちらで読み解く体力が必要です)
主人公は科学者らしい男 その妻は自分の事を母親という女性を連れて帰って来ま
す。主人公の周りには、革命の名のもとに組織された人々が、、、 セリフは抽
象的で、時に棒読みで、まるでアングラの舞台を見ているような雰囲気 感情の表現
もほぼ希薄です
映像は多くの場面が白い壁や建造物で、時に人間はフレームの右下に小さく映される
程、(初期の ウルトラマン や ウルトラセブン に登場する未来的セットのような世界
観)人間以上にその画面の構図が物語の虚無性を露わにします そして時間や空間ま
でも、大変 曖昧なのです
ここまで徹底した画作りから私が感じ、ひねり出した本作の意味ですが、ここに登場
している人物達は、既に過去の人達なのでは と、現実と幻想が入り交じり、過
去 現在 未来の時間もそこには無く、その中でいつまでも終わらない実行される事のな
い革命とその計画が続いているのみの世界
1952年、1969年、1980年の3つの時代の世界が融合しているのは、正に 「煉獄」
の世界 3つの世界が同時進行で、世界そのものが人物達の意識によって時間や空間
が歪んだ世界が出現した物なのかも知れませんし、この映画が制作されたのは1970
年、全共闘・全学連の学園紛争、安保闘争、羽田闘争、成田闘争、ベトナム戦争反対
運動など、学生運動や新左翼の政治闘争が最も盛んだった時期という事も監督の内面
世界を表現し、同時に過ぎ去ってしまった革命の夢の中にとどまったままの生霊のよ
うな世代を描いた作品なのではないでしょうか?
かなり監督の観念を映画にしたような映画で、これほど 観客に感情移入 させる事を拒
んだ作品も珍しいですが、物語に全く魅力を感じなくても、それすらを越えてこの幾
何学的な映像美だけでも鑑賞する価値は十分にある作品だと思います ちなみに
衣装は森英恵が担当されております
少し鑑賞に気合いが必要な映画かもしれませんが、時にはこのような毛色の違った作
品をご覧になってみるのも楽しいかも知れませんので、この機会にでもいかがでしょ
うかです
では、また次回ですよ~!