舞台は北イタリアの小さな港町リミニ。町一番の美女は銀幕の中のゲイリー・クーパーに憧れる余り、いつの間にか三十路を越えてしまった。この魅力的なM・ノエル扮するグラディスカを少年チッタは追いかけ回すが、坊や扱いをされるだけ。少年の父は反ファシズムを唱え拷問を受けるがへこたれない、色情狂の伯父は精神病院から抜け出し大木のてっぺんに登り“女が欲しい”と叫ぶ困った存在。おなじみ巨女も登場して少年に性の手ほどき……。
こちらは1974年の イタリア フランス
の合作映画です (124分)
以前ご紹介した 「カサノバ」 や、「道」 「甘い生活」 「8 1/2」 の フェデリコ・フ
ェリーニ 監督の作品で、1930年代を舞台に、フェリーニ自身にとって 生涯忘れ得
ぬ一年間の物語 を、監督自身の映画的フィルターを通して、再構築されたような作品
でこの年のアカデミー外国語映画賞を受賞しております この度、4Kによるリマ
スターされたものが、 の 優良発掘に登場したので、レンタル致しました 。
タイトルの 「アマルコルド」 とはフェリーニの故郷、北部イタリアのリミニ地方の今
ではもう死語になっている言葉で エム・エルコルド (私は覚えている)という言葉が
なまったものだそうで、ここからして、もう完全にフェリーニのプライベートフィル
ムとも言えるのであります
ファシズム政権下の頃のイタリア北部 15歳のチッタが暮らす小さな港町では、
春の訪れを告げる綿毛が舞っていました 今日は町の広場で、春の訪れを祝う火
祭りの日 夜になり、町の人々は続々と広場に集まり、通りでは全盲のアコーディ
オン弾きが音楽を奏で娼婦が男たちにからかわれています 大焚き火の上で燃やされる
魔女の人形 が登場
歓声を上げる人々 町一番の美女であるグラディスカは、今日も男たちの注目の的です
チッタを含む思春期を迎えた子供たちは、異性に興味津々 勉強があまり得意で
ないチッタは、悪友たちとよく先生や同級生をからかって楽しんでいるような毎日で
父親に叱られててばかりです ある日には、町にファシスト党の党首一行が来て
大騒ぎ、しかしチッタの父は集会に参加しなかった事で、ある疑いを掛けられきつい
尋問にあう始末
夏には 精神病院に入院中の父方の叔父さんを連れ、馬車で田舎の農場へ出かけます
が、叔父さんは高い木に登って 「女が欲しい!」と叫び続け、精神病院へ逆戻り
夏真っ盛りの頃 沖合にアメリカの大型客船がやってくるというので、人々は小型ボ
ートに乗り込んで海に出て行きます 星空の下、人々はそれぞれのボートで語り合う
中、ついに大型客船が姿を現し 皆はその壮大な姿に感動します 秋の終わり
町中に深い霧が立ち込め チッタと悪友たちは休業中のホテルの敷地に入り、賑やかだ
った夏のホテルを思い出します 冬がやってきました 町中をスーパーカーが失
踪するカーレースの日に町は沸き立ちます この年は記録的な大雪となり、町には雪
の壁ができました チッタの母は体調を崩し、病院に入院する事になり 父とお見舞
いに行きます
ある日、町の広場で悪友たちと雪合戦をしていたチッタは、伯爵のところから逃げ出
した孔雀を見ます 雪景色の中、大きく羽を広げた孔雀は美しかったのですが、
イタリアでは、孔雀を不吉なものとする迷信があるのでした 翌日の早朝、目
を覚ましたチッタは母の訃報を聞く事になりショックを受けます 父は気丈に振る舞
っていましたが、本当は 誰よりも母の死を悲しんでいました 多くの人がチッタの母
の死を悼み、葬列を見送ります 母がいなくなり、家の中は火が消えたように静か
になってしまいました
ふたたび、綿毛と共に春がやって来ました 綿毛の舞う野原では、グラディスカの結
婚式が行われていました 盲目のアコーディオン弾きが音楽を奏で、町の人々は
彼女の幸せに乾杯します グラディスカは町の人たちとの別れがつらくて泣いていま
した
少年たちは彼女の乗った車を追いかけますが、中にチッタの姿はありませんでした
彼はグラディスカが去る前に帰っていたのです きっと彼女を見送るのが寂しかった
のでしょう
映画は チッタとその家族を中心に描かれてはいますが、あくまでも物語を語る 軸 と
して捉えているように思えます 描きたかったのは、そこに住む町の人々、そして 町
自体のようにみえます 一年の移り行く時間や、人々の喜び、悲しみ、笑いあり涙あ
りの生活臭こそが主役になっています それを描くためにか、映画は物語を綴るよ
りも、一つ一つのエピソードの積み重ね、断片的なイメージによって構成されていて
います
シーンごとに場面やセットが変わり、視覚的にも、とても多面的にアプローチされて
目でも楽しむ事ができます そのヴィジュアルこそフェリーニの醍醐味であり、
天才的な所で、「これでいいのだ 」 とでも言っているような、圧倒的なパワーと信
念を感じるのであります
イタリアのある町を舞台にしてある為、ちょっと理解しずらい生活習慣の感じもあり
ますが、観終わった後に残るのは、どこにでもある普遍的な人々の生活 喜び悲しみは
同じだという事でありました 虚構と現実の世界が入り交じる、まるでおとぎ話の
ような映画でございます 好みはあるでしょうが、圧倒的な フェリーニ映像と、これ
またフェリーニ映画には欠かせない ニーノ・ロータ の素敵な音楽 最強のコンビ
による 映像パラレル叙事詩 です。
機会があればご覧になってみてはいかがでしょうか です
では、また次回ですよ~!
アマルコルドの曲に合わせて、フェリーニの作品が紹介されてます 宜しければ