第一次世界大戦が終戦を迎えた1918年。ヴェルサイユ条約締結を目的にフランスに送り込まれたアメリカ政府高官 彼には、神への深い信仰心をもつ妻と、まるで少女のように美しい息子がいた だがその少年は終始何かに不満を抱え、教会への投石や部屋での籠城など、その不可解な言動の数々に両親は日々頭を悩ましていた。そんな周囲の心配をよそに、彼の性格は次第に恐ろしいほど歪み始めてゆく。やがてようやくヴェルサイユ条約の調印を終えたある夜、ついに彼の中の怪物がうめき声を上げる……。
こちらは2015年制作の イギリス フランス ハンガリー の合作映画になります
この年のヴェネチア映画祭の オリゾンティ部門(革新的)で、監督賞と初長編作品賞
を受賞した作品であります
日本のタイトルと、予告を観ると、まるで 少年が主人公の ホラー やサイコスリラー
映画と思ってしまい、本編をご覧になると、、 となる 編集と宣伝 のミスリードで
ありますが、原題は 「一指導者の幼年時代」 となるようで、無垢な美しい少年が、い
かなる幼少期を送り 独裁者にまで成長してしまったのかを丹念な描写で綴った映画で
あります 特徴的なのは4つの章に分けられていて、それぞれサブタイトルも付いて
います まずは
◍ 最初の癇癪(かんしゃく) 来たるべきものの予兆 とあり、主人公の少年 プレス
コット が教会の演劇で天使の衣装を着ている姿から始まり、その終演後 教会から出て
来た人達に何故か 小石を投げつけ、翌日母親に連れられ 教会に謝りに行きますが、
彼には不本意な行動でしか無いのでした 教会の規律を重んじ、子供と向き合わない
母親が描かれます
◍ 第2の癇癪 新しい年 蛇のショットから始まり(誘惑の象徴でしょうか)フラン
ス語の家庭教師に 性 を抱くプレスコット そして両親の不貞を微妙に察知し、部屋に
こもるようになります。 躾の為、出て来るまで食事を与えない母親ですが、プレス
コットが唯一心を開いていた家政婦が内緒で食事を与えていた事を知り、その場でク
ビにしてしまいます その仕打ちに涙する プレスコット 母親の非情さに怒りを爆発さ
せます ある日フランス語の教材として使っていたイソップ物語 の ライオンとネズ
ミ を母親と教師の前で読み始めます
「ある日、眠っていたライオンの足の上を、うっかり歩いてしまったネズミがライオ
ンに捕まります さあ お前をどうしてやろうか? ネズミは、逃がしてくれたらいつか
恩返しをします ライオンはあきれて、そのネズミを逃がしてやった 数日後、猟師
がライオンを捕まえ 縄で縛っておいた その夜、ネズミが通りかかり、ライオンの哀
れな姿を見つけ ネズミはためらわず、ライオンとの約束を果たした 小さな歯で縄を
かじり、ライオンを逃がした」 と読み終えると、自分で勉強するから家庭教
師は要らないと告げるのでした 留守がちな父親が帰って来ても部屋にこもってい
る プレスコットに腹を立てた父親は、ドアを破り、プレスコットに暴力で従うよう要
求するのでした
◍ 第3の癇癪 1頭のドラゴン ベルサイユ条約が締結された祝いのパーティーを父
親の主催で執り行う事になり、自宅に沢山の人が訪れていました 父親は簡単に挨拶
を済ませ、食事前の祈りを妻に任せようとしますが、妻は皆の前で プレスコット にお
祈りをさせようとしますが プレスコットは 「いやだ」 と拒否します ひつこくせがむ
母親に向かってプレスコットは 「祈りを信じていない!」 と何度も繰り返すのです
制止しようと近づく母親の顔にフォークを突き刺す プレスコット
◍ 新しい時代 あるいは私生児プレスコット 数十年経ったある日、ライオンを党の
マークにした赤い垂れ幕の下がった党本部らしき建物の前に群衆が集まっています
それは党の首相を歓迎する市民達のようです そこに党首らしい人物が乗った車がや
って来ます 民衆は大声で 「プレスコット万歳!」と叫んでいるのでした 車の中の
顔は全く父親に似ていません
この4章のサブタイトル 私生児プレスコット である謎が明かされています あの父親
の子では無かったのでした 車から降りるとカメラは上下左右に回り始め(結構長め
のショットです) そしてエンディングを迎えます 暗殺を意味しているのか、運命
や時代の変革を意味しているのか謎のカメラワークでありました
敬虔な信仰心の母親が不貞を犯し 産んだ子供 プレスコット 厳格な父親は近くにおら
ず、たまに帰れば力で従わせようとする無情さ 自分の言い付けに反した者は容赦な
く切り捨てる母親 そして最も大きい事は、愛 というものに触れる事の乏しかった プ
レスコット ライオンと ネズミ の話に込められた 信頼 という願望 そして置かれた
時代の悲劇 勿論こうだからと言って独裁者になる訳ではないのですが、、、
今作の撮影はとても美しいです、やたらと広い屋敷や衣装は素敵で、主演の トム スウ
ィート 君も繊細でまるで ヴィスコンティ の映画を観ているような錯覚に陥ります
中々深い家族と時代を交錯させたドラマですし、 トム スウィート 君を見るだけでも
価値がある作品ではないかと思いますので、興味が湧いた方はご覧になってみてはい
かがでしょうか
では、また次回ですよ~!