「先生、あいつ車に乗りました」

「どこにいる?」

「正面玄関」

「四十秒待て」

正面玄関へと続くスロープをじりじりしながら降りると、四郎もまたじりじりしながら乗り込んで来た。

「黒いハチロクです」

完全には停車しない状態で四郎を拾い上げ、俺は出口に向かってハンドルを切る。
急発進の反動でうまくハーネスをはめられない四郎には構わず、レーダーサイトのモニタを助手席に押しやった。

「発信器は」

「つけました」

もうちょっとは信用しろ、といわんばかりの声色で四郎が返す。

「上出来だ」

「ずいぶんあっちも飛ばしてますね…イチコクを横浜方面に二キロ!」

ムキになる四郎をちらっと見て、俺は少し頬が緩むのを感じた。
こいつもこいつなりに必死なのだ。

「よし、遊行寺の坂から行こう」

関東総合病院の裏手には国道一号線が走っており、通常なら出口右側にあるバイパスを回るのだが、既に横浜方面に二キロも走っている相手を追尾するには時間が惜しい。路地を同方向に走り、途中から合流した方が効率的だ。
俺はハンドルを左に切って妙善寺の葬儀場を左に折れ、藤沢公民館へ向かう裏路地をヤバい速度で突っ走った。

「でも、先生…あいつを追っかけて、どうするんですか」

「さっきのチンピラのスカジャン、昨日ちゃんと見たか」

「スカジャン…ですか?」

公民館の前にある材木屋の角を、速度を殺さず右に曲がる。タイヤがあげる白煙と、エンジンの黒煙が混じりあって微妙なコントラストを描き出す。

「あのチンピラ、胸に癸葉会のバッヂをつけていやがった。」