金融機関との協議で重要な事 | 資金繰り 事業再生 M&Aアーク司法書士法人@代表社員 李 永鍋(リ ヨンファ)のブログ
金融機関との協議で重要な事
債権回収の最大化

 一番重要なものが、債権回収の最大化です。
「会社が倒産したら、貸付金の大部分は貸し倒れになりますが、事業を再生継続してもらえれば、それよりも多くの回収ができます。会社を生かしてください」ということです。

 言い換えれば、破産配当率(清算配当率ともいいます)と、提案する弁済計画による回収額を比較して、破産配当率(額)より弁済計画による回収額が上回るので、金融機関にとっても、弁済計画による回収の方が得ですという説明方法です。損得勘定、つまり経済的合理性から説明する方法です。

 具体的には、「もし、破産すれば、今の財務状況からすると、破産配当率は10%ですので、御行は貸付金の10%しか回収できませんが、リスケに応じてくれれば、時間がかかるけれども全額回収できますので、リスケに応じてください。」ということです。普通であれば、10%よりも、時間がかかっても全額回収する方を選びます。

 中小企業側が、最初から「積極的」にこの経済的合理性を金融機関に説明するというのは、あまりお勧めできません。

 リスケや債権カットを求める当事者の中小企業の方から積極的に「破産するより、リスケをする方がお得ですよ」などと言うと、「立場や状況をわきまえていない」と悪印象を持たれるリスクがあります。中小企業から、そんなことを言わなくても、金融機関の方では、損得勘定をしっかり計算しています。わざわざ悪印象を持たれることを言う必要はありません。

 中小企業がやるべきことは、金融機関が損得勘定を計算するための情報と資料を金融機関側に提供することです。

 中小企業側から、弁済計画を基礎づけるための経営改善計画や破産配当率を計算した清算貸借対照表について信頼できる情報と資料を提供することによって、経済合理性をアピールします(その弁済計画による弁済額は、破産配当率を上回る前提)。

 「うちを倒産させるよりお得ですよ。」と言うのではなく、このような情報提供を通じて、金融機関に経済的合理性を判断してもらうということが重要です。

 経営改善計画の添付資料の中には、破産配当率を計算した清算貸借対照表は含まれていませんが、可能であれば、作成して添付することが望ましいです。

 清算貸借対照表の作成方法は、現在の貸借対照表について、資産について早期処分価格(わかりやすく言えば「叩き売り」した場合の価格)によって再評価することによって行います。そして、その評価に基づいて、会社が破産したと仮定した場合の破産配当率を計算するのです。

 もっとも、この経済合理性の説明が通用しない場合が2つあります。
1 弁済計画が信頼できない
2 経営者が資産を隠していたり、粉飾決算している

 1は、弁済計画が信頼できないため、弁済計画に示されている配当額が、破産配当率を下回る可能性があると金融機関が考える場合です。

 第2は、経営者が会社資産を隠していたり、会計を粉飾しているため、提示されている破産配当率が低く提示されているのではないかと金融機関が疑う場合です。

 これらは、究極的には、破産配当率が、弁済計画による回収額よりも上回る可能性がある場合であるという点では同じです。

 この経済合理性については、認定支援機関制度との関係でいえば、信頼できる経営改善計画の作成・提出が重要ということになります。経営改善計画が信頼できなければ、金融機関としては、将来どれだけの回収ができるのか判断できないからです。

アーク司法書士法人
李永鍋(リヨンファ)