資金繰りが不足した場合、支払先の優先順位 | 資金繰り 事業再生 M&Aアーク司法書士法人@代表社員 李 永鍋(リ ヨンファ)のブログ

資金繰りが不足した場合の支払先の優先順位


毎月、資金不足で会社の手元現預金は1,000万円、しかし今月末には2,000万円の支払いが必要な場合どうすれば良いか?。


銀行からは目一杯、借入をしており、赤字続きで、もうどの銀行からも追加借入は一切できない。

こんな場面で支払う順番を間違えると、会社は確実に倒産してしまいます。


このような場合、経営者や経理の方も冷静な判断が出来ず、多くの会社がこの「支払う順番」を間違ってしまいます。

いざという時のために、この危機的な状況への対処も、ぜひ理解しておいてください。



最初に止めるべき支払い

資金繰りが不足した場合でも、ほとんどの会社が優先して支払ってしまうのが「銀行への返済」です。資金繰りが悪い会社は、銀行から資金を借り続けています。


銀行から借りれなくなってしまうことが最も怖く、このような状況でも借入返済を最優先します。


ここまでの段階になった場合、まずやるべきことは、元金返済を全額ストップしたり、少なくしてもらう、銀行へのリ・スケジュール(一般的に「リスケ」と言います)のお願いです。


銀行と交渉して、返済期限を延ばしてもらい、「お金」ではなく、「時間」を借りるのです。多くの経営者が、銀行との今後の付き合いを考えて、友人や親族からお金を借りて銀行返済を続けます。


すでに、どの銀行からも一切借りれなくなっている状況です、次の借入について銀行への体面を気にしてる場合ではないです。ただし、すぐには返済を止めることはできません。


まず、メインバンクから交渉を開始し、できれば、返済の減額ではなく、元金の全額返済ストップをお願いするようにしましょう。このような会社は、多少の返済減額では、すぐにまた、資金が不足する可能性が高いためです。


その後、借入があるその他の銀行にも、全行交渉をしていきます。銀行から返済猶予を得られれば、1、2年の時間を作ることができます。その間に、会社をしっかりと再生して、また返済をスタートさせるのです。


銀行と契約をしてお金を借りたので、これは契約違反です。リスケをしたことで、信頼は失ってしまいます。新たな借入ができるようになるには、しばらく時間はかかります。


しかし、しっかりと再生計画を立てて、銀行から返済猶予の協力を得られれば、経営危機から脱出するチャンスはあります。銀行にとっても、何も言わずに突然、自己破産や倒産される方が困ります。




支払い優先順位

限られた資金になってしまった場合、銀行の返済は後回しにできたとして、次に何を優先して支払うのか?。


(1)手形の支払い

まず、最優先しなければいけないのが、手形の支払いです。支払いが滞れば、手形が不渡りになります。一回目の不渡りから6か月以内にもう一度不渡りを出すと、いわゆる「銀行取引停止処分」ということになり、事実上、倒産です。手形の支払いには1円の不足も許されません。


不足する見込みになったら、手形をジャンプしてもらう、長期の分割にしてもらうように、取引先にお願いすることも必要です。

手形の不渡りが最も倒産するリスクが高いので、当然、最優先の支払いになります。


(2)社員の給料

社員の給料が支払われなければ社員は会社に見切りをつけて、辞めていってしまうかもしれません。そうなると、会社を再生することは難しいです。社員への給料支払いの優先順位は高いです。


給料日に全額が支払えない場合には、給料の70%~90%を支払い、残りを一時的に待ってもらうようにお願いします。残りの給料をできる限り、早く支払ってください。


(3)仕入先 取引先

会社を続けるために、仕入先にも交渉してみます。全額の支払いをいきなりストップしてしまうのではなく、事情を話し、材料代の50%、あるいは1か月分ほどの支払いを待ってもらえないか。


ただし、自社より小規模な仕入先の場合には、その支払いが遅れることで倒産してしまうことも考えられます。在庫を処分したり、売掛金が回収できた後には、すぐに支払いをすべきです。


今後の仕入れを断られるようになってしまっては、事業の再生はあり得ません。こちらも優先順位は高いです。


(4)会社を維持するための諸経費

電気、ガス、水道などの公共料金は、1~3か月くらい支払いが遅れても何とかなります。あくまで一時的な遅延だと考えてください。


(5)銀行への金利

先に紹介した通り、銀行返済の「元金」は、早めに止める交渉をする必要があります。元金の返済を止めてもらった場合でも、金利は支払い続けることが通常です。金利の支払いまで滞ると、格付分類が大幅に下がります。金利は全額ストップではなく、一部だけでも猶予してもらえないか、お願いをします。


(6)税金・社会保険料

消費税、源泉所得税などの滞納総額が1,000万円までは、比較的交渉が可能です。差押等の強制手段もあります。納付期限までに全額が支払えない場合には、税務署に滞納税金の分割払いのお願いをします。


国税だけではなく、社員から天引きしている住民税や社会保険料、固定資産税などの地方税も、差押の対象になります。会社でどの税金の支払いが遅れているのかをしっかりと把握し、常に事前に、税務署や県税事務所、市区町村にお願いに行くことが大切です。


これらの督促を無視すると、残り少なくなっている預金や、取引先からの売掛金入金を対象に、突然、差押の通知がくることがあります。無視し続けることが最もやってはいけないことなのです。


(7)銀行への元金返済

全行へ交渉することで、1、2年の「元本据え置き」は十分に可能です。誠意ある対応をしましょう。


 

まとめ

資金の緊急時には、上記の(1)~(6)の順番で支払っていくことを意識し、最後の支払い順位が銀行への元金返済だと考えましょう。


社員への給料や、仕入先への支払いを止めて、銀行への元本返済を最優先していては、会社が立ち直る機会すらなくなってしまいます。銀行から「お金」を借りれなくても、「時間」を借りることで、協力を得て、会社を存続させます。足りないものは待ってもらう。いざという時の順番を理解してください。


まずは、このような状況には絶対にならないように、健全な財務体質を目指しましょう。


アーク司法書士法人

李 永鍋(リ ヨンファ)